ドラゴンアンデッドを討伐した後、戦利品を集めていく。
長年、冒険者をやっていた身としては、戦利品集めは外せない。
「ヴィヴィも手伝ってやるのじゃ」
ヴィヴィがやってきて手伝ってくれる。
フェムは戦利品の剥ぎ取りには役に立たない。だがドラゴンたちを一か所にまとめてくれた。
フェムたちが事前に倒したレッサー3体と、最初の火球で倒していた分も一か所にまとめる。
全部合わせて、グレート1体、レッサー20体だ。
基本的に戦利品は、ゾンビでも変わらない。だが、腐敗が進んでいる場合は鱗が取れなくなる。
だが、今回は運のいいことに、腐敗はほとんど進んでいなかった。
かなりの収入になるだろう。
「やばい数だな」
「そうじゃな」
これだけの数を何とかできるのは、俺を含めた勇者パーティのメンバーぐらいだ。
もし勇者パーティの全員が不在ならば王都でも陥落しかねない。
「誇り高きドラゴンがゾンビになるとは、嘆かわしいのじゃ」
「そうだな。アンデッドの中でも特にゾンビはかわいそうだからな」
ゾンビ化の魔術は、古の暗黒魔導士が人間を完全に従順な奴隷とするために作ったと言われている。
そして、最大の禁忌だ。
ゾンビ化の魔術は、体の自由を奪い生きた死体とする。
ゾンビ化の魔術をかけられたものは、尊厳のない操り人形となってしまうのだ。
恐ろしいのは、ゾンビには生前どおりの意思が残っているという点だ。
意思があるのに、体は意思に反して勝手に動く。意思を伝えることすらできないのだ。
これほど恐ろしい術はない。
「ドラゴンがなぁ。それも誇り高く、戦闘力も魔術耐性も高いグレートドラゴンがな」
ゾンビになるとは、さぞかし無念だっただろう。
俺はドラゴンたちのために祈りをささげた。
戦利品の剥ぎ取りの最中、俺はヴィヴィに尋ねた。
「ところで、ヴィヴィ。どうして手伝ってくれたの?」
「えっと、それは……」
ヴィヴィは言いよどむ。
「そ、そうじゃ! 犬ころどもに恩を売ろうと思ったのじゃ。これで、わらわを食べようとは思うまい」
「なるほど」
ヴィヴィは、誤魔化すようにそう言った。
なんだかんだで、ヴィヴィもフェムのことが心配だったのだろう。
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解体をすませてから、ムルグ村に帰ると真夜中になっていた。
それでもミレットが待っていてくれる。
「おかえりなさい。怪我はないですか?」
「大丈夫だ」
コレットも起きてきた。眠そうに目をしょぼしょぼしている。
「おっしゃん、フェムおかえり。してんのーもおかえり」
そういって、フェムにぎゅっと抱き着く。
「わふわふぅ」
フェムも嬉しそうにコレットの顔を舐めている。
その日は夜食を食べて、すぐに寝た。
同じベッドに二人と一匹で寝る。
いつもより、フェムが心なしかくっついてきた。
顎を俺の腹の上に乗せている。多少重いが我慢する。
ヴィヴィもいつもよりフェムに近い気がする。フェムの尻尾の先をつまんで眠っていた。
次の日の朝食後、俺はいつものように衛兵の仕事をする。
フェムは近くを駆け回っているし、ヴィヴィは地面に落書きしている。
「わふわふ」
フェムが吠えた。ふと見ると、フェムの子分たちが昨日の戦利品を持ってきてくれていた。
爪や牙や骨、竜の鱗、魔石などだ。
「おお、ありがと」
牙など、大人の身長ぐらいある。骨はさらに大きい。
鱗も大き目の盾ぐらいある。
それら大荷物を魔狼たちが手分けして一生懸命運んでくれたのだ。
魔狼たちにお礼の牛肉をあげようとしたらフェムに止められた。
『餌を与えられることになれてしまうのは、魔狼たちのためにならないのだ』
「でも、今回は戦利品を運んでくれたお礼だし」
『運んだのはドラゴン討伐を手伝ってもらったお礼なのだ。さらにお礼をもらっては筋が通らない』
「そういうもんか」
『うむ』
代わりといってはなんだが、俺は魔狼たちを撫でまわしてやった。
「ところで、フェムは餌もらってるけどいいの?」
「わふぅ?」
フェムはころんと寝っ転がって、ハフハフ言っている。
しょうがないので、お腹を撫でてやった。
そんなことをしていたら、村長が来た。ミレットが呼んでくれたのだ。
「アルさん。御用があるとか?」
「あ、村長、わざわざありがとうございます。これを見てください」
ドラゴンのドロップ品を村長に見せる。
「昨日、フェムたちやヴィヴィと協力して仕留めたのですが」
「えっ? ドラゴンをですか」
「はい。量が多いので、置く場所ありませんかね? もちろん、地代的なものはお支払いしますので」
衛兵小屋に入れるのは無理だ。だからといって運ぶわけでもないのに「魔法の鞄」に入れるのももったいない。
「ド、ドラゴンを、こんなに……」
村長はショックを受けたような顔をする。
ドラゴンは神聖なる生き物だと考える人たちもいる。村長はそのたぐいの人間かもしれない。
だから、一応謝る。
「申し訳ありません。ですが、アンデッドになっていたので、やむを得ず」
「いえ、そういうことではなくてですね。ドラゴンと戦ったら死にますよ!」
村長は心配してくれたらしい。ありがたいことだ。
「気を付けます」
「ほんと気を付けてくださいね?」
「はい。ありがとうございます」
そのあと、村長は土地を貸してくれた。広めの土地が欲しいといったので、村の外になるが充分近い。
「よし、倉庫を作るぞ」
「やってやるのじゃ!」
「わふぅ」
俺たちは倉庫の建築を開始した。
木材を村の木こりから購入し、村の大工にお願いして手伝ってもらう。
建築には魔法が非常に役に立つ。
木材を運ぶのも釘を打ちこむのも、土台を作るのにも便利だ。
重力魔法を使えば、地面で作った屋根を後で乗せるということも楽になる。
「もしかして魔導士の天職は大工なのでは?」
「そうかもしれねぇな」
大工はそう言って、ガハハと笑った。
手の空いている村人たちも手伝ってくれた。
休憩時間、手伝ってくれている村人の一人が俺の顔を見て言った。
「アルさんは立派な魔導士なのに、親しみやすいな」
「そうですか、ありがとうございます」
「だが、威厳がたりねーかもしれねーな」
うんうんと村人たちは互いにうなずき合っている。
「威厳ですか?」
「そそ、威厳。なんかこう、迫力っていうか」
それを聞いてた村人たちも同意している。
「威厳なんてなくても大丈夫ですよ。たぶん」
「そんなことないぞ! 威厳があったほうがほら、はったりとかきくし」
「そうだ! アルさん少し待っていてください」
何を思いついたのか、ミレットが走って家まで行って、すぐ戻ってくる。
ミレットは付けヒゲを持ってきた。
「去年のお祭りで使ったやつですけど。よかったら差し上げます」
「おお、アルさんに似合うんじゃねーか?」
その付けヒゲはもみあげから、あごの下までもふもふだ。鼻の下ももふもふだ。
あごヒゲなんか、へそに届きそうなぐらいながい。
そのもふもふな付けヒゲを見て村人たちは喜んでいる。
「じゃあ、ちょっとつけてみますけど……」
「立派な魔導士に見えてきた」「風格が出ている」
つけてみたら、村人たちに好評だった。
変装手段として使えるかも。そう思ったので付けヒゲはありがたくいただいておいた。
魔法で手伝ったこともあり、倉庫は三日完成した。
ヴィヴィの魔法陣で、内部拡張の効果もかかっている。
「建築こそ、芸術的な魔法陣の出番なのじゃ! 粗野な戦闘魔法陣などとは違う、華美で優雅な魔法陣を描けるのじゃ」
ヴィヴィはとても張り切っていた。
ヴィヴィの技術の粋をつぎ込まれた魔法陣のおかげで、中の容量は十倍まで拡張されている。
頑丈にもなっている。少々の攻撃や災害ではびくともしない。
「魔法陣魔導士の天職は、大工かもしれぬのじゃ」
「さすが、ヴィヴィだな」
「じゃろ? じゃろ?」
ヴィヴィは嬉しそうに胸を張った。
倉庫の床下は少し空いている。そこは魔狼たちが気に入ったようだった。
もぐりこんで数匹寝ている。
「魔狼たちも警備してくれているのかなぁ」
『そうなのだ』
フェムは自慢げだ。
「ふん! 隙を見て盗み食いでもするつもりに違いないのじゃ」
『お主とは違うのだ』
「わかったものではないのじゃ。アル! わらわに考えがある」
フェムに言い返せるようになるとは、ヴィヴィも成長したものである。
「考えっていうと?」
「モーフィに倉庫番をしてもらうのじゃ」
ヴィヴィはそう言って胸を張った。