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111 戦後処理

 俺たちは王都に向かって走り出す。

「ぎゃっぎゃ」「りゃっりゃ」

 ドービィが嬉しそうに鳴きながらついてくる。

 シギショアラも嬉しいのか俺の肩に乗って羽をバタバタさせていた。顔に羽がビシビシ当たるが気にしない。


「ちょ、ちょっと待つのだわ」

「む? どうした?」

「どうしたじゃないわ。さすがにグレートドラゴンを王都に入れるのは無理だと思うのだわ」


 ぐうの音も出ない正論である。

 フェムやモーフィ、ライは小さくなれるから、王都に入れるのだ。

 小さくなれないグレートドラゴンを王都に入れたら大騒ぎだ。


「ぎゃう?」


 グレートドラゴンは首をかしげていた。可愛い。

 だが、可愛いしぐさをしても、無理なものは無理である。

 考えていたヴァリミエが言う。


「ドービィには、ここで待ってもらうしかないのじゃ」

「ぎゃっ!」


 ドービィはショックを受けたようだ。しょんぼりしている。

 そんなドービィをヴァリミエは優しくなでる。


「安心するのじゃ。すぐに戻ってくるのじゃぞ。そのあとはリンドバルの森に飛んで帰ってもらうしかないのじゃが……」

「そうだな、それがいいかも」


 リンドバルの森は遠い。人間の足ではかなりかかるが、飛べばそれほど時間はかからないだろう。

 ドービィはグレートドラゴンなのだ。

 俺は気になったので、ドービィに触った。


「その前に魔力探知しとこう」

「魔力探知とな?」

「うむ。寄生虫とか魔法の薬などを飲ませて、ゾンビ化を緩やかに進めている可能性もあるからな」

「それは大変なのじゃ」「ぎゃう……」


 ドービィも不安そうだ。

 俺は慎重にドービィの体内の魔力を探知する。ヴィヴィも手伝ってくれた。


「あ、寄生虫入ってるわ」

「入っておるのじゃ」

「ぎゃ? ぎゃう」


 あの場にいた以上、ゾンビ化の施術は進んでいたはずだ。寄生虫を体内に入れられているのは当然である。

 ドービィは怯えていた。そりゃそうである。ヴァリミエもうろたえていた。


「ド、ドービィはどうなるのじゃ?」

「解毒薬をすぐに手配しよう。それで多分大丈夫だぞ」

「そうなのじゃな? ドービィしっかりお留守番しているのじゃぞ」


 市中で売られている一般的な解毒薬には虫下し作用があるのだ。

 俺たちはドービィを置いて王都へ走った。

 しっかりヴィヴィと俺は仮面をかぶっている。それを見て、ヴァリミエは心配そうに尋ねてくる。


「わらわも被った方がいいのかのう?」

「今更なのだわ」

「そうじゃな」


 ユリーナに言われて、ヴァリミエはほっとしたように見えた。

 仮面をかぶるのが恥ずかしいのかもしれない。


 勇者にして伯爵さまであるクルスがいるので、あっさりと門を通される。

 すぐに俺たちはクルスを先頭に冒険者ギルドに乗り込んだ。

 営業時間はとっくに終わっているので、宿直の者がいるだけである。


「こ、これは勇者様、このような時間に、どうなさいましたか?」

「強力な魔人の本拠地をつぶしたのです。後始末をお願いしたいのだけど」

「本拠地?」

「王都近くに城を築いて、数百体の魔獣を飼って、ゾンビ化を進めていたんですよー」

「…………」


 ギルドの職員はクルスの言葉に絶句する。

 ただの冒険者の言葉なら、出まかせだろといいたいところだろう。だが勇者クルスなのだ。

 それに、二つに切られても依然としてうごめいている魔人を連れているのだ。

 信じるほかない。


「今少しお待ちを、ギルド長を呼んできます」

「お願いね。その間にぼくたちは司法省に魔人を引き渡してくるから」

「は、はい」


 俺たちはすぐに司法省へと向かう。こちらは何時だろうと、開いている。

 クルスが事情をせつめいすると、すぐに奥へと通される。

 司法省の局長クラスが応対してくれた。さすがは勇者クルスである。


「こいつが一連のゾンビ化事件を引き起こして、王都侵攻を企てていた魔人です」

「……これは」

「聖剣で二つに叩き切ったのだけど、まだ生きてるんですよー」


 局長がごくりとつばを飲み込む音が聞こえる。局長が唖然としたのは一瞬だった。

 すぐに平静さを取り戻す。局長という重職についているだけのことはあるのだ。

 矢継ぎ早に部下に対して指示を飛ばしはじめた。

 司法省は拘束技術が高い。司法省にさえ引き渡せば俺が確保しているよりも安心である。

 尋問技術も高いのだ。真相解明もすぐだろう。


 それから、ムルグ村にいるルカを呼びに行った。代わりに村の防備はユリーナとモーフィにお任せする。


「はやく案内して」

 ギルド職員をかき集めたルカが言う。

 司法省の役人たちも一緒に連れて、魔人の城へと向かった。


 城の跡地をみて、ルカは呆れた。


「これはまた、派手にぶっ放したわね」

「強固だったからな」


 ルカは慣れたもので、すぐに調査に入った。だが、ギルド職員や司法省の役人たちは、しばらく呆然としていた。


「これは魔法で壊したのか?」「ありえぬ」

「いや、だが……」


 職員たちを無視して、王都で手に入れてきた薬をドービィに飲ませた。

 職員たちはドービィの姿を見ても驚いていたが、無視した。


「ドービィ、これを飲めばたぶん大丈夫だぞ」

「ぎゃう」


 解毒剤は苦いというのに、ドービィは素直に飲んだ。

 それをじっとシギが見ている。立派なドービィの態度は教育に良いと思う。

 薬を飲むのを嫌がったクルスや魔狼たちに見習わせたい。


「しばらく安静にしとくんだぞ」

「ぎゃ」


 ドービィは素直に横になる。そんなドービィをヴァリミエがいとおしそうに撫でていた。


 それから、俺はルカに調査結果を報告し手に入れたサンプルなどを手渡す。

 司法省の役人やギルド職員などに説明している間に、日が昇りはじめた。


「大体説明してもらったわね。クルスたちはもう帰ってもいいわよ?」

「りょーかいー。今日は休んでも文句言われないよね?」

「そうね。お疲れ様」


 クルスは、間延びした口調でルカと話をしている。相当眠いのだろう。

 夜通しかけて、王国の危機を救ったのだ。ゆっくりしていいと思う。


 俺は帰る前にもう一度ドービィの体を魔力探査した。

 ヴィヴィとヴァリミエも手伝ってくれる。


「うん。大丈夫そうだな」

「寄生虫は体の外に出たようじゃ」

「他の術式も……大丈夫じゃな?」


 ヴァリミエは魔法陣を中心にかけられた魔術を調べてくれていた。

 ドービィは幸運なことに、本格的にゾンビ化の施術をかけられる前だったのだ。

 ゾンビは死体だ。緩やかに腐っていく。使う直前にゾンビ化したほうが維持が楽なのだ。


 ヴァリミエはドービィを優しくなでる。ライもいたわるようにドービィを舐めていた。

 それを見ていたルカが言う。


「このまま一頭だけで帰す気なの?」

「さすがにグレートドラゴンは王都に入れられないのじゃ」

「そうだけど。いったんムルグ村で休養してもらった方がいいんじゃない? 痩せているし」

「それもそうだな」

「良いのかや?」


 俺がルカの言葉に賛同すると、ヴァリミエは少しほっとした表情になる。

 やはり心配だったのだろう。


 それからドービィにムルグ村の位置を教えた。

 グレートドラゴンの翼なら、2日ほどで到着できるだろう。それでも、ヴァリミエとライは心配そうにドービィを撫でる。


「気を付けるのじゃぞ。ゆっくりでいいのじゃからな? ちゃんと疲れたら休むのじゃぞ?」「がぅ」

「ぎゃう」


 ドービィは何度か振り返りつつ飛んでいった。

 それをヴィヴィは心配そうに見送る。


「ちゃんと、ムルグ村に来れるかのう?」

「グレートドラゴンだぞ。最近よく出てくるからそんな気がしないけど、普通に考えて最強にちかい魔獣だぞ。大丈夫さ」

「そうじゃな」 


 それから俺たちは王都を経由してムルグ村へと帰還した。

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