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140 領主の館へいこう

 ヴィヴィと一緒に、転移魔法陣を一生懸命作っているうちに夕食の時間になった。

 必要な転移魔法陣は領主の館、4つの代官所の支所、合わせて5つである。


「なんとか5つ完成したな。ヴィヴィはすごいな」

「アルが手伝ってくれたから、助かったのじゃ」


 俺が手伝ったとしても、夕食までに完成させるのは難しい。

 ヴィヴィの力量が並外れている証明だ。

 夜ご飯を食べているヴァリミエも、うんうんとうなずいていた。


「ヴィヴィは、本当にすごい魔導士になったのじゃな」

「そんなことないのじゃ」

「そんなことあるのじゃぞ。もはやわらわを超えたかもしれぬのじゃ」

「姉上には、まだまだ勝てないのじゃ」


 そんなことを言いながらも、ヴィヴィは照れていた。

 ヴァリミエは優しくヴィヴィの頭を撫でている。姉妹の仲の良い姿はとても和む。


「りゃっりゃ」

 そんな姉妹の様子が気になったのか、シギショアラがぱたぱた飛んでいく。

 シギは、ヴァリミエと一緒にヴィヴィの頭を撫でる。とてもかわいい。

 ヴァリミエに向かって、俺は尋ねた。


「明日にでも、転移魔法陣を運ぼうと思うのだけど、ドービィに手伝いとか頼めるかな?」

「ドービィかや? 一応ドービィにも聞いてみるが大丈夫だと思うのじゃ」

「ドービィちゃんはリンドバルの森の見回りが忙しいんじゃないの?」


 クルスの問いはもっともである。ドービィにはリンドバルの森の見回りという仕事があるのだ。それを邪魔したら悪い。

 だが、ヴァリミエは笑顔で答える。


「森の見回りは別に毎日しなきゃいけないわけではないのじゃぞ。まあ、ドービィは真面目だから毎日してくれているのじゃが」

「そうなのか、なら——」


 俺が改めて頼もうとした瞬間、モーフィが声を上げた。


「もっもーー!!」

「モーフィどうした?」

『モーフィ、はこぶ』


 念話でそう言いながら、モーフィは俺のお腹の辺りに鼻を押し付けてくる。

 モーフィは滅多に念話を使わない。それに片言なのだ。

 そのモーフィが念話を使うということは絶対伝えたいのだということである。


「モーフィが運んでくれるの?」

「もぅも!!」

『モーフィは乗ってほしいのだ』


 フェムがモーフィの気持ちを教えてくれる。

 そういえば、ここ数日ぐらいモーフィに乗ってない気がする。


「モーフィそうなの?」

「もーー」


 モーフィはうぐうぐと、俺のお腹に鼻を押し付ける。

 おそらく、ドービィで回った方が速い。だが、ドービィは忙しいし、モーフィが強く希望している。

 ならば、モーフィに乗ってあげたほうがいいのかもしれない。


「じゃあ、モーフィお願いしようかな」

「もっも!!」

「ヴァリミエ。ごめんだけど、そういうことだから……」

「構わぬのじゃ。ドービィは人を乗せることは嫌いではないが、モーフィほど大好きではないからのう」


 モーフィが異常に好きなだけだろう。

 次の日、魔法陣を持って領主の館などを回ってみることに決まった。


◇◇◇◇

 眠る前、俺の部屋にユリーナが来てくれる。

 左ひざの診察をするためだ。


「あ、少し成長しているのだわ」

「まじか」

「魔法使ったのね?」

「ゴーレムを少し作って、ヴィヴィの魔法陣を手伝っただけだぞ」


 ユリーナは首をかしげる。そして、左ひざを撫でてくれた。


「うーん。普通の魔導士にとっては大変かもだけど、アルにとっては魔力消費してないのも同然よね」

「消費してないのも同然ってのは言いすぎだけど、全然余裕なのは確かだ」

「魔力消費しなくてもゆっくり成長するのかもしれないわね」

「こわい」


 それを聞いていたクルスが左ひざを撫でてくれる。


「ぼくのなでなでが足りなかったですかねー」

「いや、クルスが撫でてくれたから成長が遅くなったんじゃないかな」

「そうかなー? これからはもっと撫でますね!」

「クルスも、ユリーナもありがとう」


 クルスがそんなことを言ってくれる。頼りになる。

 一方、モーフィは全く痛くない右ひざをハムハム舐めていた。


◇◇◇◇


 次の日の朝。俺とクルス、ヴィヴィはモーフィとフェムと出発の準備をする。

 目的地は領主の館である。

 最寄りの代官所の支所の方が近いのだが、まだ代官補佐が就任していないので、後回しにした。


「新しい代官補佐を任命する相談もしないとだしな」

「はい。検地も遅れてますから急がないとですね」


 モーフィはすでに興奮気味にぐるぐる回っている。

 早く乗ってほしいのだろう。

 ミレットとコレットが見送りに来てくれる。


「アルさん、これお弁当です」

「ミレット、ありがとう」

「おっしゃん! 早く帰って来てね」

「帰りは魔法陣とおるからすぐだぞ」


 コレットの頭を撫でてやった。

 俺の懐からシギショアラが顔を出す。


「りゃっりゃ」

「シギちゃんも気を付けてね」

「りゃー」


 コレットに撫でられて、シギは嬉しそうだ。

 シギは飛べるようになったのに、いまだに俺の懐が好きなようだ。

 気づくと懐に入っている。


 その後、俺がフェムにのり、ヴィヴィはモーフィに乗って出発した。

 クルスは走りである。


「クルス大丈夫?」

「余裕です」


 クルスは自信満々だ。

 フェムもモーフィもかなり速いのに、まったく遅れない。


「クルスほんと凄いな」

「えへへ」

「魔王を討伐した時より、足はやくなってないか?」

「そうですかねー?」


 俺とパーティーを組んでいたころは俺でもついていけたのだ。

 いまのクルスには、ひざが痛くなくてもついて行くのは厳しいかもしれない。

 日々成長しているのだ。末恐ろしい。


「もっもー」

「モーフィは元気だなー」

「わふ」


 モーフィは一生懸命走っている。走るのが嬉しいようだ。

 フェムも嬉しそうだ。犬科は散歩が大好きだから、走るのも好きなのだろう。


「アルさん、見えましたよ!」

「意外と早かったな」


 途中で何度か休憩したが、昼過ぎには領主の館に到着した。

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