チェルノボクをムルグ村に連れ帰った次の日。
クルスたちは自分の仕事をしに各地に向かった。
そして俺は自分の仕事である衛兵業務についていた。
「なんか衛兵業務も久しぶりな気がする」
「色々あったからのう」
ヴィヴィは地面にお絵かきをしていた。
ヴィヴィは朝から、転移魔法陣を通って教団本部へ行ってきた。
それで、司祭のセキュリティ登録を済ませてきたのだ。
遊んでいるように見えて、ヴィヴィは働き者である。
「そうだなぁ」
天気は良いが、日差しは強くない。気持ちのよい秋の風が吹いている。
畑の方を見る。収穫の終わった畑で少数の村人たちが何かしていた。
収穫の後始末的な何かがあるのかもしれない。
「自分たちで作ったイモ畑の収穫はしたけど……。他は手伝えなかったな」
「そうじゃな……。だが、忙しかったしのう」
収穫後の畑で、シギショアラや子魔狼たちが楽しそうにじゃれていた。
子供同士仲良くするのはよいことだと思う。
監督するかのようにフェムが付き添っている。フェムは面倒見のいい魔狼王なのだ。
「村人として一大行事の収穫に参加できなかったのは……残念だ」
「別にイモ畑の収穫はしたし、気にしなくていいのじゃ」
「そうですよ!」
いつのまにやら、背後にミレットがやって来ていた。
その後ろにはコレットもいる。
「アルさんもヴィヴィさんも、ものすごく村の役に立ってますよ!」
「ならいいのだけど」
「ヴァリミエさんとアルさんとヴィヴィさんが作ったゴーレムが活躍してましたし」
そういえば、ゴーレムを作った気がする。
役に立ったのならよかった。
「おっしゃん! コレットもゴーレム操作して活躍したんだよ!」
「偉いぞ。コレット」
コレットの頭を撫でてやる。
コレットとミレットは魔法の修行を続けている。
ゴーレムを作るのは難しくてもゴーレム操作ぐらいはできるのだ。
「もっも!」
コレットの後ろからモーフィがやってきた。
モーフィは村人の仕事を手伝っていたのだ。荷運び等の仕事はモーフィの得意分野だ。
賢くて力の強いモーフィは大人気である。
「モーフィ、仕事は終わったのかや?」
「もっ!」
ヴィヴィの問いにモーフィは自慢げに答える。
モーフィの背にはチェルノボクが乗っていた。チェルノボクは特に何をするでもない。
村の中を好きに動き回っている。ペット扱いで村人に可愛がられているようだ。
「モーフィ偉いぞ」
「もう!」
モーフィの頭を撫でてやると、ものすごく嬉しそうに体をこすりつけてくる。可愛い。
あまりに可愛いからだろう。コレットもモーフィを撫ではじめた。
「もっにゅ、もっにゅ」
一方、モーフィは俺の手を咥えた。甘えているのだ。
「モーフィは本当にもにゅもにゅするのが好きだなー」
「もにゅ」
魔別とやらは済んでいる。好きなだけ、もにゅもにゅさせても大丈夫だ。
「わらわもモーフィにもにゅもにゅしてもらいたいのじゃ」
「もにゅ?」
ヴィヴィは嫉妬していた。
モーフィはクルスと俺の手をもにゅりたがる。神の使徒の手は美味しいのだろうか。
ヴィヴィはモーフィの前に手を差し出している。
「……もぅ」
仕方ないなーという感じで、モーフィはヴィヴィの手を咥えた。
「えへへ」
「もにゅもにゅ」
ヴィヴィが嬉しそうなので何よりである。
そんなことをしていたら、村長がやってきた。
「村長、収穫手伝えなくてすみません」
「いえいえ、ゴーレムが役立ちましたし。ありがとうございます」
そして村長はヴィヴィの手を咥えるモーフィを見る。
「モーフィさんにも運搬を手伝ってもらったりしましたし。ありがとうございます」
「もにゅ!」
ヴィヴィの手を咥えたままモーフィは返事をする。
「それで……、アルさんにまたお願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
村長はちらりとモーフィを見た。
「牛肉を売ってきて欲しいのです」
「お安い御用です」
牛時代のモーフィの肉が、まだたくさんあるのだ。
「納税のためにお金が必要ですものね」
「はい。再検地はまだなのですが、今から準備しておいた方がいいかと思いまして」
「そうですね」
「それに、村の備品などの購入のためにも現金が必要ですから」
前回同様、隣町に行くか、王都にもっていくか悩むところである。
王都へは転移魔法陣がつながっているので、すぐ行けるのだ。
「わふ! わふっ!」
その時、畑の方で、フェムが吠えた。
すると魔狼が数頭やってきて、子魔狼を咥えて小屋に向かう。
フェムはシギの羽の先を咥えると、こっちにタタタと走ってくる。
「りゃあ」
シギはなぜか嬉しそうだ。
フェムは俺のもとに到着すると、シギを渡してくる。
シギを抱きかかえてからフェムに尋ねる。
「どうした?」
『誰かが来たのだ』
「もにゅ!」
「どんな人かわかる?」
『それほど危なそうな臭いはしないのだ』
念のために子供たちだけ避難させてくれたのだろう。
とても、できる魔狼王だ。
「一応、シギは俺の懐の中に入っておこうか」
「りゃっりゃ!」
シギはもぞもぞと俺の懐に入って来る。そして顔だけ出した状態で落ち着いた。
しばらくすると、十人ほどの集団が近づいてくるのが見えた。