木を運ぶために魔法で浮かせて、モーフィの背に乗せていく。
「モーフィ、重かったら言ってくれ」
「もっ!」
どうやら余裕らしい。さすがは霊獣モーフィである。
山のようなモーフィが、山のように積み上がった木材を運ぶ。
だが、抜いた木は大量だ。
巨大なモーフィでも一度に運ぶのは難しい。
俺も重力魔法で浮かせて、一緒に運ぶがそれでも全部は無理だった。
何回かに分けて運ぶ必要がある。
それほど時間はかからずに、教団の建物前までやってきた。
「ふああ」
巨大なモーフィを目の当たりにして、司祭は変な声を上げた。
「ぴぎぴぎっ!」
チェルノボクはとても嬉しそうだ。ぴょんぴょん跳ねている。
そんなチェルノボクにモーフィは顔を近づける。
チェルノボクはぴょんぴょん跳びながら、モーフィの顔を駆けあがっていった。
「木はどこに置きましょうか?」
「え、あっはい! ではこちらに」
口を開けて驚いていた司祭が、慌てた様子で指示を出す。
指定した場所に木材を積み上げると、結構な量になった。
それを数度繰り返す。山のように木が積み上がった。
クルスは満足げにうなずいた。
「これだけあれば、家を建てるのに使えますね。20軒ぐらい建てられるかなー?」
「クルスあまいのじゃ」
「そうなの?」
「うむ」
首をかしげるクルスに、ヴィヴィが解説を始める。
「建材として使うには乾燥させる必要があるのじゃ。このままでは使えないと思うがよい」
「そうなんだ。どのくらい乾かしたらいいの?」
「自然に乾燥させるなら、半年から一年と言ったところかのう」
「それは困るよ! そろそろ、住民の人たちが集まってくるのに」
村を建設するための村人がやってくるのは、もう間もなくだ。
そして徐々に村人を増やしていって、本格的な開村は春ごろを予定している。
つまり最初の村人の家は、すぐにでも建てなければならないのだ。
「ある程度ならば、教団本部で寝泊まりしてもらうことはできますが……」
教団本部は比較的大きな建物ではある。
とはいえ大人数を宿泊させることは想定していない。限度がある。
「やはり、当初の予定通り、木材は買うしか……」
「でも、予算は限られていますし、できればこの木材も使いたいですよね」
クルスが困ったような表情になる。
ヴァリミエに言えば格安で売ってくれる気がしなくもない。
そう俺が、提案しようとしたとき、ヴィヴィがどや顔で言う。
「そんなことじゃろうと思って、乾燥促進魔法陣を考えたのじゃ!」
「もっも!」
「すごい!」
木材を背から降ろして、小さな姿に戻ったモーフィも興奮気味に鳴いている。
ヴィヴィは空中に魔法陣を指で描いた。
「この簡単な魔法陣を木材に刻むだけで、三日ほどで乾燥を終わらせることができるのじゃ」
「ほんとにすごいな」
「普通は乾燥の過程で木は歪むので、製材はそのあとにしないと駄目なのじゃがな」
そういってから、ヴィヴィはどや顔をする。
「この魔法陣には歪まないようになる効果も付与してあるのじゃ。だから加工してから乾燥できるのじゃぞ」
「それは便利だな」
「そうじゃろ、そうじゃろ。切ってから並べたほうが場所を取らないから便利なのじゃ!」
昨夜村を作ると聞いてから、必要になると思って考えたのだろう。
とても優秀な魔法使いだ。
その後、俺は魔法で木を木材へと加工した。
皮をむいて、きちんと四角く切って並べていくのだ。
それに、ヴィヴィが魔法陣を描いていく。
その作業をしながらふと気づく。
「ティミとユリーナどこ行った?」
「そういえば、おらぬのじゃ」
「まあ、周囲を見て回っているのかもな」
ティミショアラが周囲をうろつくだけで、普通の魔獣は逃げ出していく。
魔獣除けには最適だ。
木材への加工作業が終わったころ、
「アルラ、なにをやっておるのだ?」
「うぉ」
ティミが不意に現れた。気配をほとんど感じなかった。
少し驚いてしまった。
「木材の加工だぞ。それより、ティミは気配を消すのがうまいな」
「さすがであろう」
ティミは自慢げだ。
「どこいってたんだ?」
「うむ。足がしびれたからな、ユリーナと一緒にそのあたりを飛んでいた」
長時間人型になると、ティミは足がしびれるらしい。
だから、時折、巨大な古代竜の姿になって飛びまわっている。
ちなみにユリーナはヴィヴィと水路の相談をしている。
上空を見回って水を通しやすい場所を見つけていたのだろう。
ありがたいことだ。
「だが、我が飛ぶと、大騒ぎになるであろう?」
「そりゃ、古代竜だからな」
「だから気配を消して飛んでいるのだ」
ティミは配慮してくれていたらしい。
ティミが言うには、普段から姿隠しの魔法と気配隠ぺい魔法を使っているのだという。
そうすれば、人里近くを飛んでも大丈夫らしい。
「姿隠しって光を屈折させる魔法だよな。移動しながらかけるの大変じゃない?」
「近くから見られたら難しいがな。かなり上空を飛ぶから多少荒くても問題ないのだ」
「なるほどなー」
俺が感心していると、ティミが大き目の紙を差し出してきた。
「で、そんなことはよいのだ、アルラ。これを見るがよい」
「これは?」
「我が描いた地図だ」
とても精巧な地図だ。地形がよくわかる。
クルスが持っている地図よりずっと精度が高い。
「これって、今描いたの?」
「うむ。飛びながらな!」
「それはすごい」
俺はすぐにクルスを呼んだ。
「どうしました? アルさん」
「これを見てくれ。ティミが描いてくれたんだぞ」
「おお、すごい。ティミちゃん、ありがとう」
お礼を言われて、ティミは照れていた。
顔を少し赤くしている。
「我にとっては、容易いことだ」
「これがあれば、道の敷設にすごく役立つよ!」
「そうだろうそうだろう」
ひとしきり照れた後、ティミが言う。
「アルラよ」
「む?」
「上空から見ておったのだが、モーフィの伐採見事だったな」
「もっも!」
ほめられたことに気づいて、モーフィが駆けてきた。
ティミに頭をこすりつけている。
ティミはモーフィを撫でながら言う。
「あれ、我もやるぞ」
「巨大化して、ポンポン木を抜いていくやつ?」
「うむ。本当はモーフィは畑づくりがしたいのであろう?」
「もっ!」
モーフィは農具を自分で背負って持ってくるぐらい開墾作業に前向きだった。
明日から、モーフィは開墾作業に従事することになるだろう。
「ありがたいが……いいのか?」
「うむ。シギショアラにかっこいい所見せたいしな」
ティミショアラは胸を張る。
一方シギは、俺の懐の中で、ぐっすり眠っていた。