精霊力の濃度が濃い。
それが上位精霊の存在ゆえなのか、精霊石があるゆえなのか。
まずは調べなければならない。
「ティミ。周囲を旋回してくれ」
「アルラ、任せるのだ」
ティミショアラはゆっくりと旋回を開始する。
ティミはしっかりとジャック・フロストの精霊魔法の届かない高度を維持している。
俺は集中して眼下を観察する。上位精霊の姿を見つけた。
人の身長の二倍ぐらいある巨人だった。
身につけているものは、大きな首輪だけだ。
肌は白く、髪の毛と目は青い。精霊王とそこは同じだ。
「上位精霊だな」
「精霊石はなさそうであるな」
一応、俺の腕にしがみついている精霊王にも尋ねる。
「精霊王。精霊石はこの周囲にありますか?」
『小物存在』
「小さい精霊石があると……」
『肯定』
ティミが言う。
「魔力ブレスをぶつけてみようか?」
「いや、やめておこう。魔力ブレスは周囲への影響が大きいからな」
「そうか」
使わないで済むなら使わないに越したことはない。
「小さい精霊石ならば、先に上位精霊の首輪を破壊すればいいか」
「そうかもしれぬな」
精霊王の首輪を破壊したさいに、首輪の魔法構造は把握している。
近づきさえすれば、破壊はたやすいだろう。
そしてなにより、情報が欲しい。
精霊王戦のときは、極大魔力弾と魔力ブレスで一帯を薙ぎ払った。
おかげで、手掛かりが乏しいのだ。
上位精霊からも話を聞きたいし、首輪も精査したい。
近くに降りてもらって、接近して首輪を破壊するのがいいだろう。
ただ、接近するのが少し面倒だ。
俺はひざが痛いのだ。魔法を使って間合いをつめるしかないかもしれない。
周囲のジャック・フロストの精霊魔法をかいくぐりながらだ。
少し厄介だ。
フェムがいたら余裕なのだが、仕方がない。
そのとき、クルスが言う。
「ぼくが破壊してきましょうか?」
「いや、一応魔道具だしな。聖剣で叩き切るのもどうかと」
「なるほどー」
そういいながら、クルスは心配そうな顔をする。
「でも、アルさん、ひざが痛くないですか?」
「まあな。魔法を駆使して、何とかするしかないだろう」
魔法で補えば、戦闘時の高速移動は可能になる。
面倒ではあるし、足を止めたほうが魔法に集中できるのだが仕方がない。
少し考えていたクルスが笑顔で言う。
「じゃあ、ぼくがおぶりますね」
「えっ?」
「だから、ぼくがアルさんをおぶって走りますよ」
「えー」
少し考えてみた。
やってみたことはないが、なんとなくフェムより乗り心地が悪そうである。
「ぼくが走りますので、アルさんは魔法に専念してくださいね」
「……ううむ」
悩みどころだ。
「ほら。アルさん。ほら」
クルスは背を向けて、かがんで俺が乗るのを待っている。
「……お、おう」
「なんか面白いわね」
「りゃっりゃ!」
ルカとシギが面白がっている。
とはいえ、おぶってもらった方が、戦いやすいかもしれない。
俺はおぶってもらうことにした。
「すまないな」
「気にしないでください」
俺を背負うと、クルスは屈伸運動をし始めた。
「ふん、ふん、ふん!」
準備運動に余念がないようだ。
精霊王は俺の腕をいまだに掴んでいる。
クルスの屈伸に合わせて、精霊王も屈伸していた。
「精霊王。しばらく待っていてください」
「ぴぃ」
「その間はそこにいるルカがお相手しますからねー」
「えっ? あたし?」
ルカが驚いていた。
「ぴぃぴ」
精霊王はルカの腕をつかむ。
ルカも恐る恐るといった感じで、頭を撫でていた。
そのとき、ティミが言う。
「そろそろ良いか?」
「すまない。待たせた」
「アルラよ。どのあたりに降りればよい?」
それにはクルスが答える。
「ティミちゃん、上位精霊の近くを通って。そしたら飛び降りるから」
「ふむ。クルスが飛び降りられる程度の高さであるな」
「クルスはいま俺を背負っているから、少し低めで頼むぞ」
「わかっておるぞ」
クルスは俺を背負ったまま、ティミの頭の上まで移動する。
「ティミちゃんお願いねー」
「任せるがよい」
ティミは急降下を開始した。
先程の急降下よりもだいぶ遅い。ジャック・フロストからの精霊魔法が飛んでくる。
俺は魔法障壁を展開する。
「この程度ならば、放置でよいぞ」
「そうはいってもな」
ティミならば、大したダメージにならないのだろう。
それでも、全くのノーダメージというわけではない。
防げるなら防いだほうがいい。
上位精霊の近くにはジャック・フロストが密集している。
それゆえ精霊魔法が激しく撃ち込まれた。近づきにくい。
少しだけ離れた位置にティミが降りていく。
足の先が地面につきそうなほどだ。飛び降りるクルスに、配慮してくれているのだろう。
ジャック・フロストからの苛烈な攻撃が襲い掛かる。
「ティミちゃん。ありがと!」
「助かる」
クルスは俺を背負ったまま、飛び降りる。
「任せるぞ!」
そういって、ティミは上昇していった。かなりの速さだ。
途端にジャック・フロストの精霊魔法の対象が俺たちへと切り替わった。
「ぴいいぴぃいいい」
精霊王の声が聞こえる。その声は、まるで応援しているかのようだった。