ジャック・フロスト事件がひとまず落ち着いた次の日。
朝起きてシギやモーフィ、フェムと一緒に食堂に向かうと、ヴィヴィがフル装備でいた。
分厚い皮の帽子を被り、同じくらい分厚い皮のミトンの手袋をつけている。
暖かそうなコートの上にマフラーを巻き、防水機能の高そうなブーツをはいていた。
「ヴィヴィ、どこかにいくのか?」
「うむ。少し外に行こうと思っていたところなのじゃ」
外に行くということは除雪だろうか。
ならば、俺も手伝った方がいいだろう。
「朝ごはんを食べたら、俺もすぐに行くぞ」
「そうかや? じゃあ、早く食べるといいのじゃ」
そう言いながら、ヴィヴィはモーフィを撫でている。
分厚いミトンの手袋の感触は気持ちがよいようだ。
「もっもー。もうもう」
嬉しそうに鼻をふんふんさせていた。
「そうじゃ。シギが着れる防寒具を作ったのじゃ」
そういって、ヴィヴィは小さなコートを取り出した。
「ありがとう。いいのか?」
「よいのじゃ。暇なときに作った物じゃからな」
聞けば俺たちがジャック・フロストや精霊王を相手にしていた夜に作ったらしい。
一晩で作ったとは思えないほど、作りがしっかりしている。
ヴィヴィの裁縫技能はかなり高いようだ。
「すごいな。本当にありがとう」
「りゃ! りゃ!」
シギも嬉しそうに鳴いて、ヴィヴィに頭を下げていた。
「気にするでないのじゃ」
そういって、ヴィヴィはシギの頭を撫でた。
そこにコレットがやってくる。
コレットもヴィヴィに負けず劣らず重装備だった。
「おっしゃん、おはよう!」
「コレットも外に行くのか?」
「そだよー。おっしゃんもどうかな?」
「ああ、俺も朝ごはんを食べたらすぐに行くぞ」
「やったー」
コレットはすごく喜んでいた。
「してんのー、いこう!」
「うむ。アル、早く来るのじゃぞ!」
そういって、ヴィヴィとコレットは外に行った。
俺はシギショアラにご飯を食べさせながら、自分も食べる。
フェムもモーフィも美味しそうに朝ごはんを食べていた。
ご飯を食べ終わってから、外に向かう準備をする。
俺たちも暖かい服を身につけることにした。
「フェムもモーフィもちゃんと着ような」
「わふ?」
「もっも」
一応、フェムとモーフィにもクルスにもらった馬着をつける。
「嫌だったら、脱いでもいいぞ?」
『気にしないのだ。あったかいのだぞ』
「もっもー」
フェムもモーフィも結構気に入っているようだ。
「シギも暖かくしような」
「りゃっりゃー」
シギにも、先程ヴィヴィから貰った暖かい防寒具を着せてやる。
もこもこのフード付きのコートだ。尻尾と羽を出せるようになっている。
めちゃくちゃ可愛い。ティミショアラに見せてやりたい。
「りゃぁ」
シギも嬉しそうだ。
もこもこの獣たちを連れて、外に向かう。
すぐにコレットが俺に気づいた。
「おっしゃーん。こっちだよー」
「アル、待っていたのじゃ」
コレットとヴィヴィは二人で雪だるまを作っていた。
結構、大きな雪玉を転がしている。
そして、さらに大きな雪玉がもう用意されていた。あっちが土台だろう。
ということは、今転がしているのは頭部分に違いない。
「あれ? 除雪は?」
「除雪は昨日やったのじゃぞ?」
「そだよー。今日は遊ぶ日だよー」
「りゃ! りゃ!」
シギが大喜びで、雪玉の上に乗る。
「シギ、似合っておるな! サイズもぴったりじゃ」
「りゃあ!」
「シギもすごく喜んでいるぞ。ありがとうな」
「気にしなくていいのじゃ」
それから、雪だるま制作を再開する。
「もっもー」
モーフィも転がすのを手伝おうとして頭で雪玉をつんつんしていた。
そして魔狼たちがフェムの周りに集まっている。
「わふ」
「わふわふ」「わふ!」
魔狼たちはフェムの馬着が気になるようだ。
フェムは自慢げに胸を張っている。尻尾もピンと立ち、魔狼王らしい堂々とした姿だ。
「きゃふ」「きゃふきゃふ!」
子魔狼たちもやってくる。
「りゃあ!」
シギは雪玉の上から、子魔狼たちのところへと飛んでいった。
雪まみれになりながら、ころころ転がっている。
それを見ていたら、コレットが言う。
「おっしゃん、雪だるまの頭乗せるの手伝って!」
「おお、いいぞ」
雪は意外と重いのだ。
俺は雪玉を魔法で軽くして、土台に乗せる。
「おっしゃんすげー!」
コレットが手をぱちぱち叩いて大喜びする。
「あー、してんのーだ!」
「雪だるま、でかい!」「スゲー」
ムルグ村の子供たちが集まってきた。
最近、吹雪の激しい日々が続いていたから外で遊べなかったのだろう。
子供たちは嬉しそうにはしゃいでいる。
「してんのー、あそんでー」
「仕方ないのじゃ」
そして、ヴィヴィが言う。
「アル! 雪合戦をするのじゃ」
「いいぞ」
「やったー、おっしゃんやろうやろう」
ヴィヴィ、コレット、村の子供たちと一緒に雪合戦を始める。
シギと子魔狼たちは飛びかう雪玉が面白いのだろう。
大喜びで、飛び交う雪玉に向かってぴょんぴょん跳びついていた。
とても可愛らしい。ついつい頬が緩んでしまう。
「りゃぶっ」「きゃぶ」
シギと子魔狼の一匹の顔面に雪が当たった。
泣くかと思って身構えたが、平気なようだ。シギも子魔狼たちも成長したのだろう。
雪玉がぶつかるのが嬉しいのか、シギも子魔狼もキャッキャとはしゃいでいた。