突然出現した精霊王はきょろきょろした。
そして、俺を見つけて笑顔になった。抱きついてくる。
「ぴぃぴぃ!」
「精霊王、お久しぶりです」
『ごぶさた』
精霊王はご機嫌だ。
精霊王に会ったことがあるのは、俺の他にクルスとルカ。
それに加えてシギショアラとティミショアラである。
ほかの者たちとは初対面だ。
だから、俺は初対面の全員を精霊王に紹介する。
『よろしく』
精霊王は、うんうんとうなずいている。
紹介された者たちのほとんどは、緊張しているように見えた。
「せいれーおうちゃん、よろしくね!」
「ぴぃ」
だが、コレットは緊張していない。精霊王の右手を取ってブンブン縦に振る。
コレットと精霊王はほとんど身長が変わらない。
精霊王もコレットを気に入ったようでにこにこしている。
「もっも」
「ぴぎっ」
「ぴぃぃ」
モーフィはそんな精霊王に体をこすりつけはじめた。
そのモーフィの背にはチェルノボクが乗っている。
モーフィと一緒に体をこすりつける。
精霊王は俺の腕から離れると、上機嫌でモーフィとチェルノボクを優しく撫でた。
「りゃっりゃ!」
「ぴぃぴぃ!」
シギも精霊王との再会を喜んでいるようだ。
精霊王の頭に上って、羽をバタバタさせている。
「りゃあ」
「ぴぃ」
精霊王も頭上にのせたまま、シギを優しく撫でる。
ルカが俺の近くに寄ってくる。そして真面目な顔で腕輪を観察し始めた。
「この腕輪が精霊王を召喚する魔道具だったのね」
「……そのようだな」
クルスも精霊王に駆け寄った。そして、精霊王の頭を優しく撫でる。
「精霊王ちゃん、会いたかったよー」
「ぴぃ!」
頭を撫でつつ、クルスは言う。
「腕輪が触媒? ってのになったんですか? 精霊石の巨大な結晶みたいな感じで」
「触媒とは違うわね。精霊界とこちら側をつなげる鍵ということかも」
「なるほどー。よくわかんないけど、精霊王ちゃんに会えてよかったよー」
「ぴぃ!」
精霊王は背中の羽をパタパタさせる。透明できれいな羽だ。
嬉しいと羽をパタパタさせているように思える。
まるで、フェムの尻尾のようだ。
そう思ってフェムを見ると、部屋の隅でお座りしていた。
カチコチになって緊張している。
この場で最も緊張しているのはフェムだろう。
強者が現れると、本能的に警戒してしまうに違いない。
そんなフェムの様子を気にすることもなく、精霊王は俺を見上げる。
『何用?』
「用があるってよくわかりましたね」
『願い。腕輪。撫でる』
会いたいと言いながら撫でると発動する魔道具だったのかもしれない。
腕輪がどういう仕組みか知りたくなる。あとで調べてみよう。
「精霊王にお聞きしたいことがありまして」
『我知る事。全て語る』
「ありがとうございます」
精霊王が協力的で助かる。
「我々は今精霊王を以前召喚したものについて調べているのです」
『理解』
「上位精霊どのが獣人の男だとおっしゃっていましたが、精霊王もそう思われましたか?」
『我。人、見分けず』
「なるほど。獣人かどうかわからないということですね」
『肯定』
精霊王は返事をしながら、フェムに興味を示した。
俺の腕をつかむと、引っ張ってフェムの方へと移動する。
「わふぅ!」
精霊王が近づいてきたことに気が付いて、フェムはびくりとした。
お座りの体勢から立ち上がる。
「ぴぃぴぃ!」
精霊王はフェムを撫でる。気に入ったようだ。
フェムを撫でてご満悦な精霊王に、ルカが尋ねる。
「以前、召喚した犯人に会えば判別できるとおっしゃっていましたが、今でも可能でしょうか?」
『可能』
つまり精霊王は、召喚主の顔を覚えているということだ。
「召喚した男の絵を描いていただくことは可能でしょうか?」
『可能』
それを聞いて、ルカが鞄から紙とペンを取り出した。
「どうか、召喚主の顔を描いていただきますよう、よろしくお願いいたします」
『承知』
精霊王はペンを手に取る。
まるで短剣を逆手で持つように、四本の指と親指でぎゅっと握った。
明らかに、ペンを扱わないものの持ち方である。不安になった。
「ぴいぴい〜ぴぃぴぃ〜!」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、精霊王は似顔絵を描いていく。
持ち方の割にうまかった。
だが、顔を区別できるほど、うまくも無ければ写実的でもない。
子供の絵である。
『完成』
「ありがとうございます」
精霊王はどや顔で似顔絵をルカに見せる。
ルカは受け取り、じっくりと観察を始めた。
精霊王は俺の方を見上げる。
『犯人。未だ不明?』
「その通りです精霊王。未だに見つけることができておりません」
『獣人?』
「たしかに上位精霊どのはそうおっしゃいました。ですが、獣人の精霊魔法使いを調べても該当の人物が見当たらなかったのです」
『不思議、不可思議』
「ええ、本当に」
そんなことを話していると、似顔絵を観察していたルカが言う。
「獣人じゃないかもしれないわね」
「え? その絵から何かわかったのか?」
「そうよ?」
ルカは笑顔でそう言った。