ルカが、精霊王を召喚した人族は魔族と獣人族の子供ではないかと推測した。
もしかしたらルカの推測は正しいのかもしれない。
だから、俺は精霊王に、改めて話を聞こうと考えた。
「精霊王……」
「ぴぃぴっぴ」
「りゃありゃあ!」
絵を描き終わった精霊王はフェムの背中にまたがっていた。
その精霊王の頭の上にシギショアラが乗っている。
シギは精霊王の綺麗な新雪のような青い髪を掴んでご機嫌だ。
「こら、シギ。髪の毛を掴んではいけません」
「りゃあ」
「ぴいぴい」
シギは掴むのをやめて、精霊王の頭を撫でる。
精霊王はご機嫌に鳴いた。
「……わふ」
一方、フェムは困惑している。
室内なので、フェムは本来の姿ではない。大き目の大型犬ぐらいの大きさだ。
それでも重いというわけではないだろう。コレットが乗るのと大差はない。
だが、強大な力を持つ精霊王なのだ。
フェムはこまめに震えていた。それでも尻尾は股に挟んでいない。
きっと魔狼王としての意地なのだろう。
ティミショアラのときもそうだったが、フェムは強者に弱い。
野生の本能が強いのだろう。
「精霊王、どうせなら、こっちにしましょう」
「ぴぃ?」
「りゃあ?」
俺は精霊王を抱き上げる。
そして、頭上に乗ったシギごとモーフィの背に移した。
「ぴぃぴい」
「もっも!」
精霊王もモーフィも喜んでいるようなのでよかった。
「……わふ」
フェムもほっとしたようだ。
もっと安心できるように、俺はフェムの頭を優しく撫でた。
そうしてから、改めて精霊王に尋ねる。
「精霊王。お尋ねしてもよろしいですか?」
『許可』
「精霊王を召喚したものには獣の耳がはえていましたか?」
『肯定』
「頭に角ははえていましたか?」
『肯定』
「獣の尻尾はどうでしょうか? はえていましたか?」
『肯定』
つまり、獣耳と角と、獣の尻尾が生えていたのだろう。
普通、人族である我々は、角の生えている人物を獣人と表現することはまずない。
精霊王は、精霊なので人族の見分けが苦手なのだろう。
「……一から情報を聞きなおした方がいいかもしれないな」
「そうね」
俺のつぶやきに、ルカが賛同してくれた。
一方、精霊王はモーフィの背に乗ったまま、俺の隣に来る。
そして、俺の腕をぎゅっとつかんだ。
「どうしました?」
「ぴぃぃ」
「りゃっりゃ!」
「もっもぅ!」
フェム以外の獣たちは機嫌がよい。全員で俺に体を擦り付けてくる。
一方、俺の後ろにいたフェムは精霊王に近づかれて、また少し緊張気味になっている。
そんなフェムをクルスが抱き寄せた。
すかさず、チェルノボクがフェムの上に乗る。
「フェムちゃんはいいこだねー。チェルちゃんもいいこだねー」
「わっわふ」
「よーしよしよしよし」
「ぴぎぃ!」
クルスもチェルノボクも、フェムを安心させようとしているのかもしれない。
クルスは抱き寄せた後、わしわしと撫で始めた。
チェルノボクもフェムの背中の上でふよふよしている。
精霊王以上の強者かもしれないクルスに抱き寄せられて、フェムは安心したようだ。
俺はフェムをクルスに任せて、精霊王に尋ねる。
「精霊王。まだお聞きしたいことがあります」
『許可』
「どうして召喚主が男だと判断されたのですか?」
「……ぴぃ」
精霊王は少し考えるようなそぶりを見せた。
「そういえば、そうよね。どうやって男女を判別したのかしら」
ルカが真剣な表情になる。
我々人族も、他種族の雌雄を見分けるのは難しい。
獅子やニワトリなど一目で雌雄がわかるものは、目立つ特徴があるものだ。
狼や家猫、ネズミなどほとんどの動物は、一目では雌雄はわからない。
よく観察する必要がある。
精霊王は考えながら、俺の手を取り自分の頭にもっていく。
「どうしました?」
『慰撫所望』
撫でろということだろう。
俺は精霊王の頭を優しく撫でた。
「ぴぃぴ!」
精霊王は、ひときわ高めの声で鳴いた。
『髪。長短』
「髪の毛の長い短いで判断されていたのですか?」
『肯定。精霊雌雄。即ち髪』
「そうだったのですね」
全く知らなかった。
ルカを見ると驚いていたので、ルカも知らなかったようだ。
精霊たちは人型だ。だが、性器はついていない。
人族の性器のついているところは男女ともにつるっとしているのだ。
そして、精霊王の髪の毛は地面につきそうなほど長い。
一方、上位精霊の髪の毛は短かった。
ルカが勢い込んで尋ねる。
「精霊王。召喚主の髪はどのくらいの長さだったのですか?」
「ぴい」
一声鳴いて、精霊王はクルスを指さした。
「え、ぼくですか?」
フェムをわしわししていた、クルスはきょとんとしていた。
俺は精霊王に尋ねる。
「精霊王はもしかして、クルスのことを男だと思っていますか?」
『肯定』
「えー、ぼくは女の子だよー」
クルスは頬を膨らませた。
「ぴぃ!『謝罪』」
精霊王は驚いたようだ。鳴きながら、念話で謝罪する。
「別にいいよー。見分けるの大変だもんねー」
『肯定』
精霊王はうんうんと頷いていた。
クルスは、たまに人族にも少年に間違われることがあるほどだ。
別種族である精霊王が間違えても仕方ないだろう。
ルカが真剣な顔で言う。
「得られた情報は、性別不明の魔族と獣人の子である魔導士。そのぐらいかしら」
「そうだな」
かなり重要な情報を得ることができたと言っていいだろう。