ティミショアラがドービィを撫でながら言う。
「ドービィも、ヴァリミエやライが相手をしてくれなくて寂しかろう。いつでもムルグ村に来るがよい」
「ぎゃあ」
「なんなら、シギショアラの宮殿に遊びに来ても良いのであるぞ?」
「りゃっりゃ!」
「ぎ、ぎゃあ」
シギは嬉しそうに鳴き、ドービィは困ったように鳴いた。
シギの宮殿にはティミほどではないが、それに近い古代竜がたくさんいるのだ。
さすがにドービィも古代竜の宮殿に行くのは怖かろう。
だから俺はドービィにやさしく言う。
「まあ、シギの宮殿はともかく、ムルグ村にならいつでも来ていいからな」
『魔狼たちも喜ぶのだ』
「りゃありゃ!」
「ぎゃあ」
嬉しそうにドービィは俺に頭を押し付けてくる。
とりあえず撫でておいた。
ドービィを撫でていると、ヴァリミエが言う。
「わざわざ訪ねてきたということは、何か用があったのではないかや?」
「そういえばそうだった」
俺はエルケー代官のエルダードラゴンのために竜舎を建てる計画を説明した。
ヴァリミエはふんふんとうなずいている。
その横で、ドービィもふんふんとうなずいていた。
「それで建材としての木材がいるのじゃな?」
「そのとおりだ。木材に余裕はないかな?」
「代金は我がちゃんと責任をもって支払うのである」
ティミがはっきりといった。
代官の騎竜ジールを怯えさせ、失禁させたことを申し訳なく思っているのだろう。
「代金は別にいいのじゃ」
「そういうわけにはいかぬ。しっかり受け取るがよい」
「まあ、ティミさんがそうおっしゃるならもらうのじゃ」
支払いについて話がついたところで、ヴィヴィが言う。
「姉上。木材はどのくらいあるのかのう?」
「任せるがよいのじゃ。建材は木も石もたくさんあるのじゃ。それこそ売るほどじゃ!」
「さすが姉上!」
「アル。石材もあるが必要かや?」
「大きさとか量にもよるかな」
竜舎の建築に使うのだから、木材も石材も大きい方がいい。
石材の備蓄量や大きさが中途半端な量ならば、木材だけで作ったほうがいいだろう。
「そういうことならば、石材を入れてある倉庫に連れて行くから在庫をみて決めるがよいのじゃ」
「それはありがたい」
俺たちはヴァリミエに案内されてドービィの小屋を出る。
「ドービィありがとうな」
「ぎゃあ」
改めて歓待のお礼を言うと、ドービィは嬉しそうに鳴いた。
少し歩いて、倉庫が立ち並ぶエリアに来た。十棟ぐらい並んでいる。
「いっぱい倉庫があるんだな」
「木材や石材、ゴーレムの材料のほか、森で使う色々なものなどを貯蓄してあるのじゃ」
「もしよかったら、ムルグ村の倉庫みたいに拡張の魔法をかけようか?」
内部を拡張すれば、二十棟分を一棟の倉庫に収めることができるだろう。
それを説明すると、ヴァリミエの目が輝いた。
「え? よいのかや?」
「いいぞ」
「それはすごくうれしいのじゃ!」
ヴァリミエは心底、嬉しそうに言った。
それから、石材倉庫の中を確かめる。なかなか質のよさそうな石材が豊富にあった。
「リンドバルの森は石材も採れるんだな」
「うむ。そういう場所もあるのじゃ」
ヴァリミエが言うには、石材を採りやすい場所も森の中にはあるらしい。
「森を広げる過程で、土の中に埋まっていた巨石を取り除いたりもしたのじゃ」
「それが、積もり積もってということか」
「うむ。まあ、安定供給しやすくて、商品として売りやすいのは木材の方じゃ」
だから、石材はあまり売ることもないのだという。
「ゴーレムの材料にはしないのか?」
「今は特に必要ではないからのう。性能を求めるなら金属ゴーレム、コストの軽さでは木製ゴーレムになってしまうのじゃ」
ヴァリミエはゴーレムのエキスパートでもあるのだ。
用途に合わせていろいろなゴーレムを作っている。
「そういうことなら、石材も売ってくれ」
「毎度あり! なのじゃ! 代金は倉庫の拡張工事でよいのじゃ!」
「いいのか?」
「うむ。むしろ石材では拡張工事の代金に足りないのじゃ。こっちが追加で払うのじゃぞ」
「いや、それはいい。代わりにモルタルも余ってたらほしい」
「お安い御用じゃ!」
それを聞いていたティミショアラが言う
「では、我も倉庫拡張を手伝うのである」
「それは助かる」
そして、俺は必要な石材を魔法の鞄へと入れていった。
それが終わると、俺はヴァリミエに言う。
「さて、倉庫の拡張もやっておこう」
「え? 今日やってくれるのかや?」
「後日来てもいいが、ライとリイの赤ちゃんがいつ生まれるかわからないだろ?」
「確かに。そうなれば倉庫どころではなくなるのじゃ」
「だから、早めにやっておこうと思ってな」
「そういうことならば、お願いするのじゃ」
俺たちはどの倉庫を拡張するか選ぶために順番に倉庫を見て回った。