どうやらステフは魔法で石像の足を固めていたらしい。
魔法障壁を応用し、足を障壁で覆って動かないよう固定しているのだ。
「でかした。ステフ、あとは任せろ」
「師匠、お願いするのです。それとこいつは灯りに反応するようなのです」
だから街の中に灯りがなかったのだろう。
ステフが灯りに反応することに気づいて皆に知らせたに違いない。
そして魔法を使って石像の足を固めたのだ。
石像は両手を振り回しているが、足を動かせないので被害は拡大していない。
「あと石像は口から石化の息を出すのです! 気を付けて欲しいのです」
その息をかわし損ねて、ステフの下半身は石となったのだろう。
周囲には全身が石化した人たちが十数人いた。
見知った顔がある。Fランク冒険者と代官所の衛兵などだ。
「あ、あの巨大石像の足元で固まっているのは代官閣下ではないかや?」
ヴィヴィが驚いた様子で言う。ベルダの少し離れたところには石化したジールもいる。
「私は動けないので、代官閣下の救出をお願いするのです!」
「わかった」
ステフが石像の足を固めたのは、ベルダをかばう意味もあったのだろう。
俺はステフの仕事を引き継いで石像の足を固めた。ついでに上半身も固めておく。
それを見届けて、ステフはほっとして気が緩んだのだろう。
——パキパキパキパキ
ステフの石化の進行が一気に早くなる。上半身の方まで石になり始めた。
気を張って石化に抵抗していたのだ。
「ユリーナ。頼む」
「ステフのことは、まかせるのだわ」
ユリーナはステフに駆けより石化解除を開始する。
——ギギギギ
石像は変な音を出しながら、無理やり動こうとする。だが動くことは許さない。
口から石化の息をだす。だが食らってはやらない。
風の魔法を使って上空へとそらした。夜空を飛ぶコウモリが石となって地面に落ちた。
「クルス、頼む」
「はい! 任せてください!」
そう返事した声を置き去りにした。そう錯覚するぐらいクルスは速かった。
数瞬後、巨大な石像はバラバラになって転がった。
「クルスにはベルダを救い出してほしかっただけなのだが……」
まあ、石像を壊せたのならそれでいい。
クルスが石化したベルダを指さして言う。
「この石像が代官さんですか?」
「そうだ。一応こっちに運んでくれ」
「わかりました!」
それからクルスとフェムとモーフィが周囲の石化した人たちを運んでくれた。
ユリーナの近くに並べていく。
俺は油断なく周囲を警戒する。
石像の大きさと強さの割に破壊された建物の数は少ないようだ。
それは不幸中の幸いだ。ベルダやステフの働きがよかったのだろう。
クルスたちが石化した者たちをユリーナのそばに並べていく。
すぐにユリーナが石化を解いていく。
石化の解呪は治癒魔法の中でも難しい部類に入る。だがユリーナにとっては造作もない。
石化を解かれた代官ベルダは少し混乱しているようだった。
「ここはどこだ? 私は一体……」
「しばらくしたら思い出すのだわ」
石化から解除された後、記憶が混濁するのはよくあることだ。
だが、すぐに戻るのが普通だ。特に気にせず、ユリーナは次の者の治療に移る。
代わりにヴィヴィがベルダのもとに近づいていう。
「大丈夫かや?」
「あ、ああ。一体……。はっ! 石像が動いて、ジ、ジール、私をかばって!」
「もう石像は倒したから大丈夫じゃ。ジールもすぐに解呪してもらえるのじゃ」
ヴィヴィがベルダを安心させる。
そんな中、ユリーナはどんどん治療を進めていく。
石化を解除し、大きな怪我をしたものも治療する。
人の治療を終えて、ユリーナはジールの治療に移る。
「ジールは巨大ゆえ、並みの治癒魔法では——」
「はい、終わったのだわ」
ベルダが言い終わるより早く、ユリーナはジールの治療を終える。
「ガガガガアァァァアア!」
記憶が混濁し、混乱したジールが咆哮する。
「ま、まずい! ジールをおち——」
ベルダがジールを落ち着かせようと走りかけたとき、
「怖くないから、暴れなくていいのだわ」
暴れたジールが振り回した右腕が当たりかけるも、ユリーナは左手で防いだ。
それでもジールは落ち着かない。思いっきりふった尻尾がユリーナにあたりかける。
ユリーナはその尻尾を右手でつかむと、引っ張って力づくでジールを転ばせて引きずった。
そして、頭をやさしく撫でる。
「もう大丈夫なのだわ?」
「がぁ……」
記憶の混濁が収まったのだろう。ジールは大人しくなった。
細かく震えているのはユリーナに怯えているのだろう。
クルスが感心して言う。
「さすが、ユリーナだね!」
「慈愛の心をもって接すれば、動物も心を開いてくれるのだわ」
ユリーナは自慢げに胸を張る。
「慈愛っていうか……。力づくで黙らせただけなのじゃ……」
ヴィヴィがそっとつぶやいたのを、俺は聞き逃さなかった。
ベルダが、ユリーナとジールに駆け寄った。
「私と、エルケーの民を、そしてジールまで助けてくださり、感謝の念に堪えませぬ」
「気にしなくてよいのだわ」
そして、ベルダは周囲を見回す。自分が石化していた間の被害状況を知りたいのだろう。
だから、ステフがベルダにいろいろ説明していった。