夜十時になると薙はいつものようにコンビニのバイトに向かい、いつものように仕事を始める。
そしてまた朝の六時位になるとホスト風の男性は来るのだ。
その男性はいつものようにご飯を買って店を出る。
丁度その時間に薙も仕事を終え店を出る。
そして暫く歩いた後にその男性に向かい声を掛けようとした瞬間その男性も薙の方に体を向け、
「あのさ……君の名前は何て言うの? ほら、コンビニでバイトしてるから、苗字は知ってるんだけど……名前は知らないからね」
「……へ?」
薙がその男性に今日は声を掛けようと思ったのだが、いきなり声を掛けられて声を裏返す。
「……僕の……な、名前!?」
「苗字は北村さんって言うんでしょ? 名前は?」
二人共、足を止めたのだから薙からしてみたら、まだその男性まで距離がある。少し大きな声で、
「僕の名前は……北村薙って言います」
「薙君か……いい名前だね……」
それだけ聞くと男性はまた歩き出してしまうのだ。
だが今日の薙はその男性に聞きたいことが沢山あった。だから追い掛けるようにして走り出す。
そしてその男性に追いつき、
「あの……今日は僕も聞きたいこと沢山あるんですけど……お時間、大丈夫ですか?」
そう接客業をしている薙は満面なスマイルでその男性のことを見上げるのだ。
「……え? ……いいよ」
初めて、その男性と隣同士で歩くことが出来た薙。
「えっと……ですね。とりあえず、お名前は? さっき、僕の名前聞いてきたので、僕の方も聞きたいですよ」
「俺の名前は輝(ひかり)って言うんだよ」
「輝さんですね。いつもコンビニに買い物に来て下さってありがとうございます」
薙は業務的に頭を下げる。
「あ、いや……別に……ほら、仕事帰りにいつも寄ってるだけだからさ。仕事帰りだから、お腹が減るし……」
「あ、まぁ……そういうことですよね……。でも、前に聞いてきたじゃないですか? 『何時に帰るの?』って、それから、僕が帰る時間にしたのは何故ですか?」
その質問に頭を俯ける輝。
「あ、えーと……」
そう頭を俯けたまま何か言葉を言いよどませているようだ。
「あ、えっと……もう、本当のこと言っていいかな……?」
と輝はいきなり顔を上げ薙の事を見つめるのだ。