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第6話

「あ……いや……何でもない……」


 そう言うと輝は再び先に歩いて行ってしまう。


「ちょ、ちょっと待って下さいよ! まだ、僕の方の話は終わってませんからね!」


 先に行ってしまった輝を追い掛け、薙は輝の手首を掴むと再び二人は目が合ってしまう。


「あの……その……」


 薙の方も言葉を言いよどませていると、輝は突然、


「今から俺の家に来ないか!? 外で話するのは……ちょっと、マズいしさ」

「……へ? あ、ああ……はい! 分かりました」


 そう言われて薙は輝の手首を離すと、輝に付いて歩いて行く。


 もう輝が住んでいるマンションは知っている。そうもう目の前にあるマンションだ。


 輝は入口の鍵を開けると先に薙を通す。


 そしてエレベーターで十階に来ると二人はエレベーターを降りるのだ。


 薙には縁のなさそうな高級そうでオートロックのマンション。


 まだ真新しく出来たマンションなのかもしれない。薙が住んでいるおんぼろアパートとは雲泥の差だ。


 薙がキョロキョロと辺りを見渡していると、どうやら輝が住んでいる家の前に着いたようだ。


「俺の家はここだよ……」


 そう言われて薙は輝の家に通される。


「お邪魔します……」


 そう言って薙は中に入ると、やはりここも薙が住んでいるアパートとは違うようだ。トイレお風呂は勿論付いていて奥の部屋に行くと一人では十分広すぎる部屋があるのだから。


 まずはリビングには大きなテレビ。テレビに向かい置いてあるのは二人がけ位のソファもある。大きな窓からは景色が一望出来る部屋だった。


 そしてもう一つドアがあるところから、そこが寝室なのであろう。そういう所からすると1LDKの家だ。同じひと部屋でもこれだけ差が出るという事だろう。


「とりあえず、ソファにでも座って寛いでいてよ。俺はご飯食べるからさ……」


 そう言われ薙はソファに腰を下ろすのだ。


 ここ何十年も薙は人の家に来たことはない。だから先程の外の時とは違い緊張しているようだ。体を固まらせ、ちょこんと座ってしまったのだから。


「……で、さっきの話だけど……」


 と輝は自分の部屋に入って来てからは、さっきとは違い今度は堂々と話してくる。


「うん……俺……薙君には……嘘つけないような気がしたから、正直なこと言うよ……」


 そう輝はご飯を食べながらジッと薙のことを見上げるのだ。


 輝は薙にソファに座らせ、輝はそのソファの前にあるテーブルでご飯を食べ始める。


「俺……実はホストしてるのだけど、女性なんて本当は好きじゃないんだよね。ただ、俺は医学生だから、お金を稼ぎたかっただけで……別にホストなんて仕事はやりたくはないんだ。ただ、何となく仕事していて、ナンバーワンになれて、お金が稼げて……それで、学費が払えればいい訳。ま、そこはいいんだけど……俺は昔好きになった子がいたんだけど。 ま、子供だったし……好きっていう意識はあったけど……その子がどう思ってたかなんて聞かなかったからな。だから、その子とは遊び半分で……その……しちゃったっていうのか。ちょっと、話にまとまりがないんだけどさ。って、薙……俺の事覚えてる?」


 そう輝に聞かれて、薙は輝のことを見つめるのだ。


「……え? ……あ! え? え? もしかして……!? 修斗(しゅうと)!?」

「そう……」

「えー!? 本当に修斗なの!?」


 今の修斗は昔の面影もなかったのだから、今まで薙は気付かなかったのであろう。

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