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第6話 ヲタクにプリは難しい

 かくし人生初のプリクラ体験をすることになった俺、大神士狼はガッチガチに緊張したラブリー☆マイエンジェルよこたんと共に、一心不乱にモニターを凝視していた。


 モニターからは『お金を入れてね♪』と資本主義の申し子と化した女の子の声音で、現金を要求してくる声が鼓膜を撫でる。


 俺は震える指先で500円玉を掴みながら、




「そ、それじゃ入れるにょっ?」

「お、お願いしめふっ!」




 まるで初めて出張ヘルスサービスを頼んだ男子大学生のように、変に緊張した面持ちのまま硬貨を投入。


 途端にモニターから女の子の愛らしい声音が俺の鼓膜を、いや魂を震わせた。




 『モードを選んでね♪』


「あっ! は、始まったよ、ししょーっ!」

「あぁ始まったな。な、なぁよこたん? モニターが見づれぇから、もっと近くに寄ってもらってもよろしいでしょうか?」

「う、うん……分かった」




 頬を赤らめた爆乳わんがモニターを覗き見るべく、俺に寄りかかるような形で身を寄せてくる。


 途端に彼女のしっとりと汗ばんだ剥き出しの肌から、甘いミルクのような匂いが熱気と共にむわっ! と俺の鼻腔をこれでもかと蹂躙じゅうりんしてきた。


 もう何ていうか……俺、このあと死ぬんじゃねぇの?


 突然訪れたラッキースケベに感謝している間に、目の前のモニターにピコンッ! と文字が浮かび上がった。




「ねぇししょー? 【友達モード】と【恋人モード】があるけど、どっちにしようか?」

「まぁ無難に【友達モード】かなぁ」

「そ、そうだよね……」




 ちょっとだけ『しゅんっ……』と肩を落としたマイ☆エンジェルを横目に、俺はモニターの中で燦々さんさんと輝く文字を指先でタッチした。




 『恋人モード♪』


「いや、なんでさっ!?」

「うぉっ!? ビックリしたぁ……。どうした、よこたん? そんな大きな声を出して? 耳が痛いだろ?」

「ボクは頭が痛いよっ!?」




 突然「君に届け!」と言わんばかりに、よこたんが驚きの声をあげた。


 筐体の中で反響したわんの声音が思った以上に大きく、耳の奥がキーンとして……うぅ。


 顔をしかめる俺を無視して、よこたんは「あわわわっ!?」と唇をせわしなく震わせ、




「何でごくごく自然に【恋人モード】を選んじゃったの、ししょーっ!? 【友達モード】じゃなかったの!?」

「【恋人モード】? おいおい、おまえは一体何を言って……」




 俺はモニターの画面に視線を落とし、




「……ほんとだぁ!? 何故か【恋人モード】で撮影することになってるぅ!? なんでっ!?」

「ししょーが押したんでしょっ!」




 気がついたらナチュラルに恋人モードを選んでいた。


 な、なんだ?


 もしや何者かの陰謀か?


 それともゴ●ゴムの仕業か?


 おのれディケ●ドォォォ!




「ねぇししょーっ? ボクの目には何ら躊躇ためらうことなく、ししょーの指がまっすぐ【恋人モード】へ向かって行ったように見えたんだけど?」

「ヤダだなぁ、よこたんっ! うっかりだよ、うっかり! これは漫然まんぜんたるうっかりですっ♪(うっかり☆)」

「えぇ~、本当にぃ~?」




 俺をいぶかしがるように見上げながらも、よこたんの瞳はどこか笑っているような気がしたのは、俺の願望のせいに違いない。


 どことなく不満そうな顔をしつつも、架空のシッポは千切れんばかりに振り切れているわん、よこたん。


 ほんと身体は正直なヤツだなぁ。




「もう、ししょーはイジメっ子だよ。そんなにボクをイジめて楽しいの? ……そんなにボクのことが嫌いなの?」

「よこたんが嫌いかどうかということならば、俺は何ら躊躇ためらうことなくこの場でおまえの唇を奪い、ソレを返答の代わりにする所だが……それでもいいのか?」

「ふわぁっ!?」




 シュボッ! と瞬間湯沸かし器よろしく一瞬でお顔を真っ赤にしたマイ☆エンジェルがオロオロッ!? し始めるのと同時に、モニターから可愛い女の子の声が筐体内に反響した。




 『フレームを選んでね♪』


「つ、次はボクが選ぶね!?」

「御意に」




 これ幸いと言わんばかりに、ズイッ! と俺を押しのけ、モニターの画面へと視線を落とすよこたん。


 耳の裏まで真っ赤にしたマイ☆エンジェルは、やや焦った様子でモニターの上で手を迷わせて――固まった。




「……ねぇ、ししょー?」

「うん? どったべ?」

「あのね? コレ、ハートが盛りだくさんのフレームしか無いんだけど? 壊れちゃったのかな、この機械?」




 数秒固まったのち、ゆっくりとこちらに振り返る爆乳わん娘。


 俺はよこたんが覗いているモニターに目線を落とすと、そこには『これでもか? これでもかっ!? えぇい、これでもかっ!?』と言わんばかりにハートが散りばめられたわくしかなかった。




「おぉ~、流石恋人モード。ハートの大盤振おおばんぶる舞いじゃないか」

「か、感心している場合じゃないよぉ! どうしようコレ!?」


 『あと5秒♪』




 プリクラマシーンの無慈悲な声が響く。


 よこたんは目をぎゅっとつむり「ええいっ、ままよっ!」といった感じで適当にパネルをタッチした。


 選んだのは――ハートでハートの枠組みを作っているハートの大盤振おおばんぶる舞いのフレームだった。




「なんだよ、よこた~んっ! 口ではああ言いながらもノリノリじゃねぇかっ!」

「ち、違うよぉ!? 適当に選んだらソレになっただけで! 他意はないよ!?」




 ほんとだよ!? と頬を真っ赤に染めながら、胸の前でブンブン両手を振るマイ☆エンジェル。


 可愛いじゃねぇか?


 マジでキスしてやろうかなコイツ? 


 なんて思っていると『それじゃ撮影をはじめるよ~♪』という声が筐体内に木霊した。




 『準備はいいかな? いくよ~5、4,3……』


「えっ!? も、もう……っ!?」

「やべっ!? ポーズ取れ、ポーズ!」

「ぽ、ポーズって何の……えぇいっ!」




 よこたんは困惑しつつも慌ててポーズを取ろうとして、


 ――パシャッ!




 『こんな感じに撮れました~♪』




 と、さっき撮れた写真がモニターに表示された。


 そこにはピースを浮かべる俺のとなりで、両手を上げて謎のポーズをキメる爆乳わん娘の姿が映っていた。


 ……控えめに言って結婚しようかと思った。


 なんだコイツ?


 可愛いの擬人化か?


 お嫁に来るか?


 おっ?




「うぅ……思いっきり変なポーズしちゃった……」

「結婚したい――違う、だから『ポーズ取れ』って言ったのに」

「急に言われてもムリだよぅ」




 ややお疲れ気味にマイ☆エンジェルが口を開く。


 と、同時に『たたたったったら~♪』とスピーカーからファンシーな音楽が流れ出した。


「な、なになにっ!?」と慌てるよこたんを無視して『次はウサギさんポーズ♪』とモニターの中で急に出てきたウサギが、ピョンピョンと跳ねながら俺たちに命令を飛ばしてきた。




 『それっ! うさぎさんピ~ス♪』


「う、うさぎさんピースぅ!?」




 ギョッ!? としたように画面を覗き込むマイ☆エンジェル。




「し、ししょーっ!? うさぎさんピースってなに!? う、うさぎさん肉球しかないよ!? ピース出来ないよ!? どうしようっ!?」

「そりゃおまえ、アレだよ……うさぎさんピースだよ」

「だからどんなピースなの、それっ!?」




 戸惑う爆乳わん娘。


 しかし残念なことに彼女の結論が出るよりも先に、プリクラマシーンの容赦のない催促さいそくがはじまる。




 『準備はいいかな? いくよ~♪ 5、飛ばしてイチィっ!』


「不意打ちぃ!?」

「フェイントだよ! フェイントかましてきたよ、この機械!? って、うわぁぁぁっ!?」

「こ、よこたぁぁぁぁぁぁぁ~~~んっ!?!?」 




 ――気がつくと俺たちはカメラに向かって元気よくアヘ顔ダブルピースを浮かべていた。

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