かくし人生初のプリクラ体験をすることになった俺、大神士狼はガッチガチに緊張したラブリー☆マイエンジェルよこたんと共に、一心不乱にモニターを凝視していた。
モニターからは『お金を入れてね♪』と資本主義の申し子と化した女の子の声音で、現金を要求してくる声が鼓膜を撫でる。
俺は震える指先で500円玉を掴みながら、
「そ、それじゃ入れるにょっ?」
「お、お願いしめふっ!」
まるで初めて出張ヘルスサービスを頼んだ男子大学生のように、変に緊張した面持ちのまま硬貨を投入。
途端にモニターから女の子の愛らしい声音が俺の鼓膜を、いや魂を震わせた。
『モードを選んでね♪』
「あっ! は、始まったよ、ししょーっ!」
「あぁ始まったな。な、なぁよこたん? モニターが見づれぇから、もっと近くに寄ってもらってもよろしいでしょうか?」
「う、うん……分かった」
頬を赤らめた爆乳わん
途端に彼女のしっとりと汗ばんだ剥き出しの肌から、甘いミルクのような匂いが熱気と共にむわっ! と俺の鼻腔をこれでもかと
もう何ていうか……俺、このあと死ぬんじゃねぇの?
突然訪れたラッキースケベに感謝している間に、目の前のモニターにピコンッ! と文字が浮かび上がった。
「ねぇししょー? 【友達モード】と【恋人モード】があるけど、どっちにしようか?」
「まぁ無難に【友達モード】かなぁ」
「そ、そうだよね……」
ちょっとだけ『しゅんっ……』と肩を落としたマイ☆エンジェルを横目に、俺はモニターの中で
『恋人モード♪』
「いや、なんでさっ!?」
「うぉっ!? ビックリしたぁ……。どうした、よこたん? そんな大きな声を出して? 耳が痛いだろ?」
「ボクは頭が痛いよっ!?」
突然「君に届け!」と言わんばかりに、よこたんが驚きの声をあげた。
筐体の中で反響したわん
顔をしかめる俺を無視して、よこたんは「あわわわっ!?」と唇を
「何でごくごく自然に【恋人モード】を選んじゃったの、ししょーっ!? 【友達モード】じゃなかったの!?」
「【恋人モード】? おいおい、おまえは一体何を言って……」
俺はモニターの画面に視線を落とし、
「……ほんとだぁ!? 何故か【恋人モード】で撮影することになってるぅ!? なんでっ!?」
「ししょーが押したんでしょっ!」
気がついたらナチュラルに恋人モードを選んでいた。
な、なんだ?
もしや何者かの陰謀か?
それともゴ●ゴムの仕業か?
おのれディケ●ドォォォ!
「ねぇししょーっ? ボクの目には何ら
「ヤダだなぁ、よこたんっ! うっかりだよ、うっかり! これは
「えぇ~、本当にぃ~?」
俺を
どことなく不満そうな顔をしつつも、架空のシッポは千切れんばかりに振り切れているわん
ほんと身体は正直なヤツだなぁ。
「もう、ししょーはイジメっ子だよ。そんなにボクをイジめて楽しいの? ……そんなにボクのことが嫌いなの?」
「よこたんが嫌いかどうかということならば、俺は何ら
「ふわぁっ!?」
シュボッ! と瞬間湯沸かし器よろしく一瞬でお顔を真っ赤にしたマイ☆エンジェルがオロオロッ!? し始めるのと同時に、モニターから可愛い女の子の声が筐体内に反響した。
『フレームを選んでね♪』
「つ、次はボクが選ぶね!?」
「御意に」
これ幸いと言わんばかりに、ズイッ! と俺を押しのけ、モニターの画面へと視線を落とすよこたん。
耳の裏まで真っ赤にしたマイ☆エンジェルは、やや焦った様子でモニターの上で手を迷わせて――固まった。
「……ねぇ、ししょー?」
「うん? どったべ?」
「あのね? コレ、ハートが盛りだくさんのフレームしか無いんだけど? 壊れちゃったのかな、この機械?」
数秒固まったのち、ゆっくりとこちらに振り返る爆乳わん娘。
俺はよこたんが覗いているモニターに目線を落とすと、そこには『これでもか? これでもかっ!? えぇい、これでもかっ!?』と言わんばかりにハートが散りばめられた
「おぉ~、流石恋人モード。ハートの
「か、感心している場合じゃないよぉ! どうしようコレ!?」
『あと5秒♪』
プリクラマシーンの無慈悲な声が響く。
よこたんは目をぎゅっと
選んだのは――ハートでハートの枠組みを作っているハートの
「なんだよ、よこた~んっ! 口ではああ言いながらもノリノリじゃねぇかっ!」
「ち、違うよぉ!? 適当に選んだらソレになっただけで! 他意はないよ!?」
ほんとだよ!? と頬を真っ赤に染めながら、胸の前でブンブン両手を振るマイ☆エンジェル。
可愛いじゃねぇか?
マジでキスしてやろうかなコイツ?
なんて思っていると『それじゃ撮影をはじめるよ~♪』という声が筐体内に木霊した。
『準備はいいかな? いくよ~5、4,3……』
「えっ!? も、もう……っ!?」
「やべっ!? ポーズ取れ、ポーズ!」
「ぽ、ポーズって何の……えぇいっ!」
よこたんは困惑しつつも慌ててポーズを取ろうとして、
――パシャッ!
『こんな感じに撮れました~♪』
と、さっき撮れた写真がモニターに表示された。
そこにはピースを浮かべる俺のとなりで、両手を上げて謎のポーズをキメる爆乳わん娘の姿が映っていた。
……控えめに言って結婚しようかと思った。
なんだコイツ?
可愛いの擬人化か?
お嫁に来るか?
おっ?
「うぅ……思いっきり変なポーズしちゃった……」
「結婚したい――違う、だから『ポーズ取れ』って言ったのに」
「急に言われてもムリだよぅ」
ややお疲れ気味にマイ☆エンジェルが口を開く。
と、同時に『たたたったったら~♪』とスピーカーからファンシーな音楽が流れ出した。
「な、なになにっ!?」と慌てるよこたんを無視して『次はウサギさんポーズ♪』とモニターの中で急に出てきたウサギが、ピョンピョンと跳ねながら俺たちに命令を飛ばしてきた。
『それっ! うさぎさんピ~ス♪』
「う、うさぎさんピースぅ!?」
ギョッ!? としたように画面を覗き込むマイ☆エンジェル。
「し、ししょーっ!? うさぎさんピースってなに!? う、うさぎさん肉球しかないよ!? ピース出来ないよ!? どうしようっ!?」
「そりゃおまえ、アレだよ……うさぎさんピースだよ」
「だからどんなピースなの、それっ!?」
戸惑う爆乳わん娘。
しかし残念なことに彼女の結論が出るよりも先に、プリクラマシーンの容赦のない
『準備はいいかな? いくよ~♪ 5、飛ばしてイチィっ!』
「不意打ちぃ!?」
「フェイントだよ! フェイントかましてきたよ、この機械!? って、うわぁぁぁっ!?」
「こ、よこたぁぁぁぁぁぁぁ~~~んっ!?!?」
――気がつくと俺たちはカメラに向かって元気よくアヘ顔ダブルピースを浮かべていた。