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純白の契約:捨てられた令嬢、真実の愛を掴む
純白の契約:捨てられた令嬢、真実の愛を掴む
ゆる
異世界恋愛ロマファン
2025年06月06日
公開日
3.5万字
完結済
王子との華やかな婚約。誰もが羨む未来。 ――そのすべてが、一瞬で崩れ去った。 貴族令嬢グレイスは、幼馴染で婚約者でもある王太子レオポルドとの結婚を目前に控えていた。 しかし、彼は突然「愛していない」と彼女を捨て、平民の女性を新たな婚約者に迎える。 社交界から追われ、家族の信頼さえも失ったグレイスは、片田舎の領地へと姿を消す。 傷ついた心を抱えながらも、彼女は新たな人生を歩み始める。 そこで出会ったのは、正体を隠して旅をする謎の商人・セバスチャン。 助け合い、支え合う中で、彼女の心に再び温かな光が差し始める。 やがて明かされるセバスチャンの秘密、そしてレオポルドの後悔―― 「あなたと結ばれるはずだったのは、私じゃなかった」

第1話 :破棄された誓約1: 幸せの絶頂

 朝の光が庭園を照らし、咲き誇る花々の香りが柔らかな風に乗って漂っていた。王宮の中庭で優雅にお茶を楽しむグレイス・モンタギューの表情には、晴れやかな笑顔が浮かんでいた。豪華な装飾のドレスに身を包んだ彼女は、婚約者であるレオポルド王子との結婚式を目前に控え、幸福感に包まれていた。


「グレイス様、本当におめでとうございますわ。」


隣に座る侯爵夫人が心からの祝福を口にした。その視線には羨望と敬意が込められている。グレイスは控えめに微笑みながら、感謝の言葉を返した。


「ありがとうございます。このような素晴らしい機会を頂けたのも、皆様のお支えがあってこそですわ。」


その端正な物腰と穏やかな声に、侯爵夫人は再び感嘆の表情を浮かべた。グレイスは幼い頃から完璧な令嬢として育てられ、社交界でも誰もが認める存在だった。美しい金髪と澄んだ青い瞳、そして優雅な仕草――その全てが彼女を特別な存在にしていた。


特に、レオポルド王子との婚約は国中の注目を集める話題だった。幼馴染である二人の結婚は、王家とモンタギュー家の絆をさらに強固にすると同時に、理想的な愛の物語としても広く語られていた。


「私たちのグレイスが王子様と結ばれるなんて、夢のようだわ。」


遠くから声をかけてきたのは、グレイスの母親であるモンタギュー侯爵夫人だ。彼女もまた、娘の輝かしい未来に胸を躍らせていた。


グレイスは、そんな母親の期待を一身に背負っていることを自覚していた。それはプレッシャーでもあったが、同時に彼女自身の誇りでもあった。彼女にとって、レオポルドとの結婚は単なる義務ではなく、心から望む未来だった。


彼との思い出は数え切れないほどある。幼い頃、庭で転んでドレスを汚してしまった時も、レオポルドが優しく手を差し伸べてくれた。その時に彼が言った「僕が君を守る」という言葉は、グレイスの心に深く刻まれていた。その日から、彼女の人生の中心はレオポルドだった。


結婚式まで残り一週間となったある日、グレイスは王宮の中庭でレオポルドと共に散歩を楽しんでいた。青々とした芝生の上を歩きながら、彼は彼女に微笑みかけた。


「グレイス、準備は順調かな?君にばかり負担をかけてしまっていないか心配だよ。」


彼の言葉に、グレイスは思わず笑みを漏らした。


「いいえ、全く問題ありませんわ。むしろ、こうしてレオポルド様と未来を共に描けることが幸せです。」


彼女の言葉に、レオポルドも満足そうに頷いた。


「君がそう言ってくれると心強いよ。グレイス、君は僕にとって特別な存在だ。」


その優しい声に、グレイスの胸は高鳴った。彼の言葉一つ一つが、彼女にとって何よりの支えだった。


二人の結婚は、国中の人々が祝福するものだった。王家とモンタギュー家の血筋が結びつくことで、国内の政治的安定も保証される。だが、グレイスにとって最も重要なのは、レオポルドへの愛だった。彼と共に未来を築き、支え合うことこそが、彼女の人生の目標だったのだ。


式典の準備は順調に進み、ドレスや装飾品も揃い始めていた。グレイスはその全てに自分の手で最終確認を行い、完璧な式になるよう努めていた。彼女の姿を見た周囲の者たちは口々に「王妃に相応しい」と称賛した。


しかし、その一方でグレイスの心には、小さな不安が生まれ始めていた。レオポルドの態度が最近少し変わったように感じていたからだ。彼は以前よりも会話の頻度が減り、目を合わせる時間も短くなっていた。それでも、彼女はそれを「式の準備で忙しいから」と自分に言い聞かせ、不安を打ち消していた。


「愛する人が私を裏切るはずがない。」


そう信じて疑わなかった。彼女にとって、レオポルドとの未来は確固たるものだった。


だが、この幸せな日々が永遠に続くことを信じていたグレイスは、すぐにその思いが脆く崩れ去る日が来ることを、まだ知る由もなかった。


輝かしい未来に胸を膨らませていた彼女の世界は、まもなく暗闇に飲み込まれるのだった――。



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