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第66話

                ◇◇◇          


 サイラスは今しがた戻って来たばかりの馬車たちを見てゴクリと息を飲んだ。一体何ごとだ、と。


「あら、お兄さん可愛いわね」


 ゾロゾロと降りて来た女の人達に頬や肩を撫でられながらビクビクしていると、御者から降りて来た騎士達がサイラスの元に集まって来る。


「王子の意向でモリスの娼館に居た者達を全て連れて参りました。今夜の宿を見繕ってやってください」

「王子の客……という事?」

「はい!」

「分かった。すぐに手配します」


 王子の客と言われれば、たとえ誰であろうとも絶対に手は抜けない忠実な従者サイラスである。サイラスはてきぱきとあちこちの宿に女の人達を振り分けて宿を提供した。


 案内された宿に女の人達は揃って声を上げて喜んでいた。中には感動しすぎて泣き出してしまった人も居る。そりゃそうだろう。娼館で、しかも底辺のとなると給料だってさして良くはなかっただろうし、一生貯金してもこんな所には泊まれないはずだ。


 そんな中、流石にこれは非常事態だと思ったのか、一人の女の人がサイラスに近寄ってきた。


「これは何かの罠なの?」

「罠、ですか?」

「ええ。だって、噂に聞いていたグラウカとは随分違う……あの人は一体何者だったの? 私達はこの後どうなるの?」


 睨むような怒るような視線にサイラスはビビりながらも言った。


「あの方はグラウカの第一王子、ギルバート様です。我々にも王子の作戦は何も聞かされてはいませんが、王子の客だと言うのならそれなりのもてなしをするのがグラウカでは普通です。そちらであの方の事がどんな風に噂されているのかは存じませんが、あの方は確かに敵に対しては残酷かもしれません。けれど、そうでないならばとてもお優しい方です。それこそ、狼のように」


 言い切ったサイラスをじっと見ていた女の人は、それを聞いてようやく安心したように微笑んだ。


「そうなの。それを聞いて安心したわ。あの子が来てから何か変な事に巻き込まれているとは感じていたけれど、きっとギルバート王子は私達を助けてくれたんでしょうね。と言う事は、私達の命はきっと危なかったのね。王子にお礼を伝えておいてもらえる? えっと――」

「サイラスです。王子の従者をしています」

「サイラスさん。私はシンシアよ。あなたみたいな方が仕えているのなら、きっとギルバート王子は良い意味で銀狼なんでしょうね。いつか、必ず恩返しをするわ」


 そう言ってシンシアはサイラスの頬に軽くキスをして自分の荷物を持って立ち去ってしまった。何が何やら分からないが、思わず頬を染めて真っ赤になったサイラスの後ろから聞きなれた声がしてくる。


「ああ、やっぱりこの宿を選んだんだな。他の者はもう部屋か?」

「ガルド! ああ、皆それぞれの部屋に向かったよ」

「そうか。だ、そうだ。安心して泊っていってくれ。ばあさん」

「ばあさんとは何だ! 全く……まぁでも、信用してついてきて良かったよ。まさかこんな所に泊めてもらえるとはね……明日たとえ殺されたとしても、わたしゃ本望だよ」

「だから何度も言ってるだろ? 王子はそんな事しない、と。あんた達は客だ。だからこんな待遇なんだ。一体モリスでは王子の評判はどれほど悪いんだ!」


 教会でギルバートと別れた後、女主に宿を紹介してやってくれと言われて連れて来たのは、グラウカ一高級な宿だった。先に到着した女たちの宿をサイラスが紹介したと聞いたので、絶対にここだと思ったのだ。

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