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エピローグ

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 ◆数年後



「妖精さん、父様と作ったクッキーはいりませんか?」

「あら、ありがとう! リュシアンは本当にいい子ね」

「えへへ! じょうずに作れたから、いっぱい食べてくださいね」


 王宮の庭園にある噴水で暑さをしのいでいた妖精たちに、今朝焼いたばかりの小さなクッキーを配って回る息子の姿をベルティアは微笑ましく見守っていた。


「我が息子は妖精たちに愛されているな」

「あなたではなく俺に似たのかもしれませんね」

「ふ、当たり前のことを言わないでくれ」


 ベルティアの背後から現れたノアに顎を掬われ、口付けられる。何年経っても彼の唇は甘くて熱くて、とろけてしまいそうだ。触れるだけの口付けをしたあとお互いに顔を見合わせて、今朝会ったばかりなのに久しぶりの再会とでも言うように抱き合った。


「明日からパーシヴァル殿下の来訪で忙しくなるな」

「セナ様が久しぶりに会うからと、お茶会の予定をびっちり詰められました」

「あの二人も仲睦まじそうで何よりだ」


 グラネージュとアルべハーフェンの共同研究の仕事を通し、セナとパーシヴァルは結ばれる結果となった。前世でゲームをプレイしていたベルティアだけではなくセナ自身もまさかの展開に驚いていたけれど、彼の優しさにベタ惚れしてしまったようだ。聖なる瞳であるセナの嫁入りは両国を結ぶ架け橋としても祝福され、数年前に二人は結婚した。


 ベルティアに関しては共同研究が始まって割と早めにレイク家は伯爵位を授与され、ノアの熱望により二人はすぐに婚儀を挙げ、可愛らしい息子のリュシアン・ムーングレイに恵まれた。そして今、第二子を妊娠中だ。


 グラネージュは数年前には想像もできなかったほど魔力が回復し、かつて絶滅したと言われていた妖精たちが国中を飛び回るようになった。今でもまだ安定した作物の収穫や魔導士の育成にベルティアやジェイドは奔走しているが、毎日充実した生活を送っている。


 ちなみに、今のところノアが闇堕ちする気配はない。


 彼はずっと優しくて、愛情深くて、ベルティアを一途に想っている一人のアルファだ。一時期ベルティアが見ていた夢は何年後の話か分からないけれど、きっともうバッドエンドは訪れないだろうと確信にも似た感情を持っている。


「ベルティア。俺と共に歩む未来は、お前にとっていいものになっているか?」


 ふと、ノアがそんなことを聞いてくる。


 ノアに抱きしめられながら今までのことを振り返っていると「父上! 父様と一緒に焼いたクッキー、食べてみてください!」と愛しい我が子が駆けてくる姿が目に入った。


「あなたと一緒にいる未来が、バッドエンド悪いことだとはもう思いませんよ」


 あの頃の葛藤も、経験も、行動も、言葉も、全てを引っくるめて未来の幸福のためだったのだと今ならよく分かる。


 だから――


「ノア様と一緒にいられて、俺は今までもこれからも幸福しあわせです」


 ベルティア・レイクの幸福は、ノアの隣で生きること。


 それがベルティアの人生の答えなのだろう。











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