「おぉ勇者よ…!ひぃっ!?」
ぐっすり寝てる傍でなんだこの大声、
と睨みつけると…自室じゃないことに気付いた。
ただ広くて、ぎらんぎらんして、センスのない
私、
ろくな場所じゃないなと思いながら、
一先ず起き上がる。
「…何ですか、誰です貴女達」
「ゆ、勇者様、どうか…どうか我が国を
救ってはくれないか…!」
「はぁ…」
寝起き特有のぼんやりとした頭で、
周りを見ながら考える。
昔話に出てくる王様やお姫様を豪華にした
バージョンみたいな身なりをした人らが
這い蹲って汗をかきながらも私を見ていた。
あー、OK、私は異世界…
「これって転移ですか、転生ですか?」
「っは?」
「答えてください」
「ひっ…わ、私達は最後の希望として!
古の転移術にて貴方様を召喚したのです!」
「…つまり、転移…」
転移なら…家はあると言うこと。
ならばやる事は一つだ。
やっと覚醒してきた頭で、一先ずベッドから
降りて状況確認をする。
そういや柔らかさが段違いだったな…
腰が逆に悪くなりそう、と呑気に思った。
「それで、何が起きたんでしょうか」
「おぉ、勇者…」
「それいいので、説明を」
「は、はいぃっ!」
何やら異様に怯えられてしまったが、
舐められて無駄に話が進まないよりマシか。
そして聞いた説明を掻い摘んで理解すると、
長らく封印されていた魔王が復活し
各地に災いを起こしていると。
ダンジョンやら剣と魔法がある、
つまりRPGみたいなものか。
そう簡単にはいかないだろうけれど、
仕方ない、少しの辛抱だ。
「私が望むのは元の世界への帰還だけです」
「い、いや…それはその、難しい…」
「では、魔王討伐の話は聞かなかった事に」
「わ、分かった!承知した!」
「やり方は私のやりたい様にさせて頂きます。
監視はお好きな様に」
「お、お待ちください!一体どこに…?」
「ダンジョンに行きます、レベルを上げるなら
それが手っ取り早い」
「そ、装備や準備は…!?」
「…まぁ、何とでもなるでしょう」
お約束なら強いスキルの一つや二つくらい
あるでしょう、多分。
でも心細いか…じゃあ果物ナイフを貰うか。
今思えばかなり行き当たりばったりだったが、
家に帰りたくて仕方なかった。
城を出てみると、目の前にゲームに出てくる
青いウィンドウ画面が現れた。
あ、本当にゲームみたいなものなのかと
少し驚きながらステータスの欄を確認。
名前 : 美空縁
種族 : 人間?
年齢 : 22歳
レベル : 3
スキル : 郷愁者(解放まで後97レベル)、冷静、
経験値吸収率5倍キャンペーン期間(1日目)、
武器ドロップ率5倍キャンペーン期間(1日目)、
攻撃力アップ3倍キャンペーン期間(1日目)
武器 : 果物ナイフ
加護 : ???
称号 : 異世界初心者、勇者
…うーん、マジでゲームでしかないな。
しかもキャンペーンって、ソシャゲ寄りなのか?
後は…郷愁者ってなんだ、実質100レベルに
ならないと使えないのって致命的では…。
更に地図と言うかナビもあるらしい。
普通にありがたくはあるので、
活用させてもらおう。
因みにダンジョンは最近出現したので
特に門番などはいないらしい。
いや、最近出現したとしても…もう少し、
民間人の安全とかを考慮して封鎖するとか…
まぁいいや、魔王を倒した後は知らない。
ダンジョンは大きく高い塔の様なものだった。
まだ寝不足で頭が痛いが、眉間を揉みながら
とりあえずダンジョンの中に入ってみる。
塔の中とは思えない程に木々と草が生い茂った
まるで森のような場所になっていた。
序盤ならスライムだとか何だとか。
と、歩いていると何かが足に当たる。
見ると、綺麗な…黒色のスライムがぷるるんと
震えていた。
触っただけで溶けたりはしない様だ。
…あ、でも武器を入れて溶かされたら詰むな、
攻撃的ではないし放置するか…。
そう思い至り素通りするとぽよん、ぽよん、
と可愛い音を鳴らしながら、近付いてくる。
…少し距離を取ってみるも、着いてくる様だ。
もしかして懐かれたのだろうか。
あの国の人間よりかは、感情があまりない
異形のモンスターの方がまだ扱いやすいか。
「…テイム…契約できないかな…?」
契約、と口に出したのに反応したのか。
眩い白い光が一瞬私達を包んだ。
確認する為にしゃがみ込んでスライムを
触ると、あの青い画面が現れた。
名前 :
種族 : スライム
年齢 : ?
レベル : 10
スキル : 吸収、溶解、ブラックホール(小)、
経験値共有
加護 : なし
称号 : 勇者のスライム
おぉ、私より高い………ブラックホール?
ちょっと、それは気になるが使ったら
不味い気がする、あまり使わない様にしよう。
経験値共有って事は、どっちがモンスターを
倒してもどっちにも経験値が来るのか。
何がともあれ、仲間が増えたのはいい事だ。
…あ、名前付けないと。
「…黒で安直はちょっとあれだし…
いや、呼びやすさ重視で
ぷるるっと震えている、喜んでいるのか
いまいち分からないが…まぁいいか。
スライムは雌雄の概念もないだろうから
オスかメスか考えなくてもいいし。
…ちょっと、戦いの前にこのむちむちボディを
堪能させてもらおう。
そういや匂いとかあるのかな。
滑らかで冷たく、手で掴むとむちゅんと
柔らかい…しかも匂いは無臭、枕にほしい。
元の世界に連れて帰れないだろうか…。
そう思っていると、木の枝ががさりと動いた。
それまで大人しくされるがままに
なっていたスミは、素早く私の手から飛び離れ
反発力をそのままに、木々へ飛び込む。
がさ、がさと暫く蠢いていたが、
動かなくなりスミが降りてくる。
ステータスをチェックしてみると、
私のレベルが6になっていた。
「おぉ、すごい…言われなくとも動いてくれる
なんて、スミは優秀ですね」
えらいえらいと、スミのむちむち
スライムボディを撫でてやると、
やはりぷるると震えていた。