「奥義
目を閉じていても、無数の刃がドラゴンを切り刻んでいるのが分かる。剣を通して伝わる感触、斬撃音そして、鉄の臭い。
俺が目を開けた瞬間、眼前のドラゴンの四肢は引きちぎられ、弾け飛んだ。王都を襲うものはすべて切り刻む。それが、剣聖の為すべきこと。
今の
「師匠、さすがです。奥義、目に焼き付けましたよ」
真後ろから聞こえる。そして、俺の胸を何かが貫いた。溢れ出る温く赤い液体。振り返ると、そこに愛弟子の姿があった。手に握るは、血の滴る剣。
「あんたの奥義には弱点がある。感覚を重視するから目を閉じる。確かに合理的だ。だが……オレの前で披露するべきじゃなかった」
俺の剣術を持ってしても、トライゾンを深淵から呼び戻すことはできなかったのか。剣は人の心を揺り動かすものだと信じてきた。幼き日の俺がそうだったように。
両親が魔物に殺された時、仇を討ってくれた放浪の剣士。彼の一閃は、魔物が存在しなかったかのように、辺りを無に帰した。俺は、同じ境遇の者が生まれないように剣術を必死に修めた。剣聖と呼ばれるようになったが、憧れには程遠かった。理想の剣士となるために魂として彷徨い、そして、憑依することを幾度となく繰り返した。
初代剣聖だけではない。五代目に至るまで、剣聖はすべて俺の憑依体だった。そして、奥義
そして、あやつを諌めなければ、王国は滅びに向かう。若き国王は、前王の「何かあれば剣聖を頼れ」という遺言に従っている。六代目の剣聖は間違いなくトライゾンだ。国王が傀儡になるのは目に見えている。
国を守るため、そして、剣術を極めるため。俺は、次の憑依先を見つけなければならない。ちょうど、あそこに剣士がいる。あいつに憑依すれば話は早い。さて、六度目の人生を始めようじゃないか。