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剣聖のレクイエム
剣聖のレクイエム
雨宮徹
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年06月08日
公開日
4,677字
連載中
剣聖――その称号は、代々選ばれし者のみに与えられる伝説の剣士の証。だが、その真実を知る者はいない。初代から五代目まで、剣聖はすべて“同じ魂”だった。 幼き日に両親を魔物に殺され、力無き自分を悔いた少年は、剣を極めることだけを己に課した。 だが、五代目として育て上げた弟子に、裏切りの刃でその命を絶たれる。その弟子こそが、六代目剣聖に選ばれてしまった。 「まだ、終われない」 魂は次の憑依先を求め、選んだのは――ただの若き商人。剣の心得も、戦場の経験もない、平凡な男。今度こそ、弟子を諌め、かつて守れなかったものを守るために。剣では変えられなかった、この国の在り方を変えるために――。 最後の奥義《レクイエム》が完成するとき、一つの魂が、ようやく静かに幕を下ろす。

剣聖は未だ眠れず

「奥義 終曲フィナーレ



 目を閉じていても、無数の刃がドラゴンを切り刻んでいるのが分かる。剣を通して伝わる感触、斬撃音そして、鉄の臭い。



 俺が目を開けた瞬間、眼前のドラゴンの四肢は引きちぎられ、弾け飛んだ。王都を襲うものはすべて切り刻む。それが、剣聖の為すべきこと。



 今の剣戟けんげきを見れば、愛弟子トライゾンも解き放たれるだろう。「己のために剣を振るう」という欲望から。



「師匠、さすがです。奥義、目に焼き付けましたよ」



 真後ろから聞こえる。そして、俺の胸を何かが貫いた。溢れ出る温く赤い液体。振り返ると、そこに愛弟子の姿があった。手に握るは、血の滴る剣。



「あんたの奥義には弱点がある。感覚を重視するから目を閉じる。確かに合理的だ。だが……オレの前で披露するべきじゃなかった」



 俺の剣術を持ってしても、トライゾンを深淵から呼び戻すことはできなかったのか。剣は人の心を揺り動かすものだと信じてきた。幼き日の俺がそうだったように。



 両親が魔物に殺された時、仇を討ってくれた放浪の剣士。彼の一閃は、魔物が存在しなかったかのように、辺りを無に帰した。俺は、同じ境遇の者が生まれないように剣術を必死に修めた。剣聖と呼ばれるようになったが、憧れには程遠かった。理想の剣士となるために魂として彷徨い、そして、憑依することを幾度となく繰り返した。



 初代剣聖だけではない。五代目に至るまで、剣聖はすべて俺の憑依体だった。そして、奥義 終曲フィナーレを編み出した。最終奥義である鎮魂歌レクイエム完成の道半ばで命を落としたならば、次の憑依体を見つけるまで。



 そして、あやつを諌めなければ、王国は滅びに向かう。若き国王は、前王の「何かあれば剣聖を頼れ」という遺言に従っている。六代目の剣聖は間違いなくトライゾンだ。国王が傀儡になるのは目に見えている。



 国を守るため、そして、剣術を極めるため。俺は、次の憑依先を見つけなければならない。ちょうど、あそこに剣士がいる。あいつに憑依すれば話は早い。さて、六度目の人生を始めようじゃないか。

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