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28「ようこそ四女ちゃん」

「今日からこの子が、

うちの家族になる子よ」


母の柔らかい声に、

食卓にいた兄姉たちが顔を上げる。

食後の温かい湯気が残るダイニングには、

唐揚げとポテトサラダの香ばしい残り香が漂っていた。


見慣れぬ少女が、

母親の裾をぎゅっと掴んでいる。

八歳くらいだろうか。

髪は柔らかそうな翡翠色で、

目元は伏せられている。

恥ずかしいのか、ほんのり頬が赤い。


「おお!ちびっ子じゃん!」

最初に声をあげたのは弦夢。

食器を片付けもせずに椅子から飛び降り、

少女に近づいてしゃがみ込む。


「名前はー?」

彼女の答えを待たず、後ろから芽夢がぴょこっと顔を出す。


「芽夢のお名前と似てる〜!

芽夢はーぁ、芽夢って言うのぉ!」


「……あ、む……むぅ……夢羽だよ、です。」


夢羽はかすかに頷き、また頬を染めた。


「フフ、かわいいわね」

美夢はにっこりと微笑んでいる。

微動だにしないその姿に、

弦夢はちょっとだけ背筋を正す。


「おまえ……めっちゃ小さいじゃん。

ちゃんと食えよ

……あ、肉食う?俺の食いかけだけど」


「弦夢、そういう言い方はよせ」

低く通る声がダイニングに響いた。臨夢だ。

相変わらずマフラーを首に巻いたまま、

夢羽の前に立ち、ただ一言。


「ようこそ、六枝家へ」


それだけ言って、また無言で立ち去る。

少女は思わずその背中を見上げて、

少し目を見張った。


「わたしは六夢!よろしくね、夢羽!」

両手をぱっと広げて笑う六夢に、

夢羽の表情がふわりと緩む。


「……あの、

よろしくおねがいします、です……」


小さく、けれど確かに、少女は言った。

その声音は、

唐揚げの匂いに染まるダイニングの

空気よりもずっとあたたかくて、 

誰もがそれを、

なぜか少し誇らしげに聞いていた。


「ふふ……」

母親は穏やかに微笑んで、

裾にしがみつく夢羽の背を優しく撫でた。


――ようこそ、六枝家へ。

一族の、六人目の夢へ。

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