「今日からこの子が、
うちの家族になる子よ」
母の柔らかい声に、
食卓にいた兄姉たちが顔を上げる。
食後の温かい湯気が残るダイニングには、
唐揚げとポテトサラダの香ばしい残り香が漂っていた。
見慣れぬ少女が、
母親の裾をぎゅっと掴んでいる。
八歳くらいだろうか。
髪は柔らかそうな翡翠色で、
目元は伏せられている。
恥ずかしいのか、ほんのり頬が赤い。
「おお!ちびっ子じゃん!」
最初に声をあげたのは弦夢。
食器を片付けもせずに椅子から飛び降り、
少女に近づいてしゃがみ込む。
「名前はー?」
彼女の答えを待たず、後ろから芽夢がぴょこっと顔を出す。
「芽夢のお名前と似てる〜!
芽夢はーぁ、芽夢って言うのぉ!」
「……あ、む……むぅ……夢羽だよ、です。」
夢羽はかすかに頷き、また頬を染めた。
「フフ、かわいいわね」
美夢はにっこりと微笑んでいる。
微動だにしないその姿に、
弦夢はちょっとだけ背筋を正す。
「おまえ……めっちゃ小さいじゃん。
ちゃんと食えよ
……あ、肉食う?俺の食いかけだけど」
「弦夢、そういう言い方はよせ」
低く通る声がダイニングに響いた。臨夢だ。
相変わらずマフラーを首に巻いたまま、
夢羽の前に立ち、ただ一言。
「ようこそ、六枝家へ」
それだけ言って、また無言で立ち去る。
少女は思わずその背中を見上げて、
少し目を見張った。
「わたしは六夢!よろしくね、夢羽!」
両手をぱっと広げて笑う六夢に、
夢羽の表情がふわりと緩む。
「……あの、
よろしくおねがいします、です……」
小さく、けれど確かに、少女は言った。
その声音は、
唐揚げの匂いに染まるダイニングの
空気よりもずっとあたたかくて、
誰もがそれを、
なぜか少し誇らしげに聞いていた。
「ふふ……」
母親は穏やかに微笑んで、
裾にしがみつく夢羽の背を優しく撫でた。
――ようこそ、六枝家へ。
一族の、六人目の夢へ。