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27「いつもの夕食」

六枝家、夢羽が来る日の夜。


大きな漆黒の食卓には、揚げたての唐揚げとポテトサラダが湯気を立てて並んでいた。

香ばしい匂いが部屋に満ち、賑やかな夕食が始まる。




「あっ、ズルい!

それ最後の唐揚げでしょっ!」


「早い者勝ち〜!」


「はぁ!?

こっちが箸つけようとした瞬間に横取りするな〜!」


六夢と弦夢げんむが、皿の上でからあげを巡って熾烈な争いを繰り広げる。

箸のぶつかるカチャカチャという音がやけに響いた。




「……食事中に騒ぐな」


上座に座る長男・臨夢のぞむが静かにたしなめる。

一言一言に重みがあり、淡々と唐揚げを口に運ぶ姿もどこか落ち着き払っている。




その隣で、長女・美夢は

ナイフとフォークを使って

唐揚げを器用に切り分けていた。

和食なのにフォーク。けれど彼女の所作はまるで舞のように優雅で、音ひとつ立てない。

一見微笑んでいるように見えるその顔には、

表情が張りついていた。




「ねえねえ、聞いて聞いて聞いてぇ♡ 今日ね、放課後に告白されちゃってぇ〜♡」

「で、OKしちゃった♡」


芽夢めむが頬を両手で挟みながらぶりっ子全開でニヤニヤ。

目をハートにしながら携帯を開き、

さっそく彼とのツーショットを

弦夢に見せびらかしてくる。


「ほらほら!

見てよちい兄〜! イケメンでしょぉ?」


「何人目だよ、今月」


「恋に数は関係ないのぉ♡ っていうか、今度の彼はね、元カノ10人くらいいるんだけどぉ♡ 芽夢だけには本気って感じぃ♡」


「それ絶対ダメ男じゃん」




ガチャ、と部屋のドアが開いた瞬間、

食卓の空気がピンと張った。


現れたのは、当主である父親とその妻。


その後ろには、小さな影が一つ。




それが——

夢羽だった。

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