六枝家、夢羽が来る日の夜。
大きな漆黒の食卓には、揚げたての唐揚げとポテトサラダが湯気を立てて並んでいた。
香ばしい匂いが部屋に満ち、賑やかな夕食が始まる。
「あっ、ズルい!
それ最後の唐揚げでしょっ!」
「早い者勝ち〜!」
「はぁ!?
こっちが箸つけようとした瞬間に横取りするな〜!」
六夢と
箸のぶつかるカチャカチャという音がやけに響いた。
「……食事中に騒ぐな」
上座に座る長男・
一言一言に重みがあり、淡々と唐揚げを口に運ぶ姿もどこか落ち着き払っている。
その隣で、長女・美夢は
ナイフとフォークを使って
唐揚げを器用に切り分けていた。
和食なのにフォーク。けれど彼女の所作はまるで舞のように優雅で、音ひとつ立てない。
一見微笑んでいるように見えるその顔には、
表情が張りついていた。
「ねえねえ、聞いて聞いて聞いてぇ♡ 今日ね、放課後に告白されちゃってぇ〜♡」
「で、OKしちゃった♡」
目をハートにしながら携帯を開き、
さっそく彼とのツーショットを
弦夢に見せびらかしてくる。
「ほらほら!
見てよちい兄〜! イケメンでしょぉ?」
「何人目だよ、今月」
「恋に数は関係ないのぉ♡ っていうか、今度の彼はね、元カノ10人くらいいるんだけどぉ♡ 芽夢だけには本気って感じぃ♡」
「それ絶対ダメ男じゃん」
ガチャ、と部屋のドアが開いた瞬間、
食卓の空気がピンと張った。
現れたのは、当主である父親とその妻。
その後ろには、小さな影が一つ。
それが——
夢羽だった。