重たく閉じられた書斎の扉をノックしたのは、臨夢だった。
「父さん、少しお時間を」
当主は読んでいた古びた帳面を閉じ、顔を上げる。
「……入れ、臨夢」
静かに扉を閉じ、臨夢は父の前に立った。
灯りは薄く、書斎には湿った墨と木の匂いが満ちている。
「明日来るという、養子……
しばし沈黙が流れた。
「……あの子は、いったい誰の――」
その瞬間、父の目が静かに鋭くなった。
「言うな」
静かで、しかし確かな“拒絶”だった。
臨夢は一瞬、息を呑む。
「……しかし、私は次期当主にして現当主補佐。
知るべきことは」
「言うな」
重ねて放たれた言葉には、
珍しく揺れがあった。
「夢羽は、六枝の娘として迎えた。
それだけで十分だ。
……それ以上を、追うな」
臨夢は口を閉ざした。
父の声音の奥に、
確かに“迷い”と“憐憫”があったことに気づいたからだ。
「……かしこまりました」
「お前には頼むことがある。
あの子を、美夢たちと同じように接しろ。
何も変わらぬ、ただの
臨夢は軽く頭を垂れた。
背を向けた父の目は、ひどく遠くを見ているようだった。
「……あの子は、
今ここでやり直す機会を得た。
――それでいい」
そうこぼした父の声が、
ただの「当主」としてではなく、
一人の「
臨夢は気づいた。