夜も更けてきた頃、六夢は机に向かいながら課題のプリントとにらめっこしていた。
「ん〜〜、あとここ解ければ寝られるんだけど……てか因数分解って将来絶対使わない……なにこれ古代文字かよ……ぉ」
ペンをくるくる回しながら悩んでいると、
コンコンとノックの音。
「まだ起きているの、六夢?」
「わ、姉さん? どうしたの?」
ドアを開けて入ってきたのは、美夢。
柔らかなナイトガウンに包まれた彼女は、いつものようににこりと優しく微笑んでいた。
「遅くまで課題してるのね。えらいわ」
「う、うん……あとちょっと」
「そう、頑張ってね。
協力してはあげれないけど、
姉さん応援してるから。」
「うん、あんがとぉ」
六夢が話すたびに、
美夢は微笑を絶やさず頷く。
「六夢」
美夢がそっと六夢の頬に手を添える。
六夢はピクリとも肩が震える。
「貴女は本当に、元気な子ね」
「姉さんみたいにかわいくないけどねー」
「あら、うふふ。
お世辞なんて言うほど偉くなったのかしら?」
「お世辞じゃないですー
姉さんいつも綺麗じゃん」
「もう、上手ねぇ」
美夢は六夢の髪をやさしく撫で、
ふわりと手を振りながら部屋を後にした。
「じゃあ、おやすみ。無理しないでね」
「うん、おやすみ……」
バタン、とドアが閉まる。
「………………………………………………。」
「______________フゥーーーーーーーー……。」
その瞬間、
六夢の肩から、スッと力が抜けた。
「…………あー……」
溜息が、知らず漏れる。
ふわりと香るシャンプーの匂い、
穏やかな声色、笑顔。
けれど、姉の目は
鋭く、硬く、底の見えない光を湛えた、あの目。
六夢は両手で顔を覆い、机に突っ伏した。
「……ああ、やだな。
今日は機嫌良い方だからいいけど……」
冷えた空気だけが、部屋の片隅に残っていた。