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25「優しい仮面」

夜も更けてきた頃、六夢は机に向かいながら課題のプリントとにらめっこしていた。


「ん〜〜、あとここ解ければ寝られるんだけど……てか因数分解って将来絶対使わない……なにこれ古代文字かよ……ぉ」


ペンをくるくる回しながら悩んでいると、

コンコンとノックの音。


「まだ起きているの、六夢?」


「わ、姉さん? どうしたの?」


ドアを開けて入ってきたのは、美夢。


柔らかなナイトガウンに包まれた彼女は、いつものようににこりと優しく微笑んでいた。


「遅くまで課題してるのね。えらいわ」


「う、うん……あとちょっと」


「そう、頑張ってね。

協力してはあげれないけど、

姉さん応援してるから。」


「うん、あんがとぉ」


六夢が話すたびに、

美夢は微笑を絶やさず頷く。


「六夢」


美夢がそっと六夢の頬に手を添える。

六夢はピクリとも肩が震える。


「貴女は本当に、元気な子ね」


「姉さんみたいにかわいくないけどねー」


「あら、うふふ。

お世辞なんて言うほど偉くなったのかしら?」


「お世辞じゃないですー

姉さんいつも綺麗じゃん」


「もう、上手ねぇ」


美夢は六夢の髪をやさしく撫で、

ふわりと手を振りながら部屋を後にした。


「じゃあ、おやすみ。無理しないでね」


「うん、おやすみ……」


バタン、とドアが閉まる。




「………………………………………………。」












「______________フゥーーーーーーーー……。」





その瞬間、

六夢の肩から、スッと力が抜けた。


「…………あー……」


溜息が、知らず漏れる。




ふわりと香るシャンプーの匂い、

穏やかな声色、笑顔。

けれど、姉の目は





鋭く、硬く、底の見えない光を湛えた、あの目。


六夢は両手で顔を覆い、机に突っ伏した。


「……ああ、やだな。

今日は機嫌良い方だからいいけど……」


冷えた空気だけが、部屋の片隅に残っていた。

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