どうする? どうする?
チェックインを済ませたシティホテルで、私は内心焦りまくっていた。
本当の私は、大人の付き合いをスマートにこなせるような人間じゃない。人生の大半を地方の田舎で過ごし、むしろ友達みたいな彼氏しか持った経験のない、どこまでもガサツで残念な
だって病気とか怖いじゃん?
相手がどんな人か分からないし、殺人事件なんかもニュースで見たことがある。
……ああ見えて物凄いどヘンタイだったりして。
そうだ! もし犯罪に巻き込まれた時のために、携帯だけは肌身離さず持っておこう。
顔には余裕を装いながらも、頭の中はパンク寸前の私は、ベッドサイドでフリーズしてしまっていた。
と、私の意を汲んだかのように荷物をクロゼットに置いた彼は、私に向かってニコリと微笑みかけた。
併せて私も愛想笑い。
すると、突然に。
エエッ!
それまで紳士的だった彼が、急に私を抱き締めた。そうしてあっという間に上向かせ、しっとりと唇を重ね始める。
彼の形良くしまった唇が、柔らかに私のそれを挟んで自然に唇を開かせた。
ううっ、不意打ち。なんて卑怯な!
こうなったら意地だ。これまでになく狼狽える気持ちをひた隠し、私はかろうじて妖艶さを演じる。
私は彼のネクタイを引っ張ると、更に深く貪った。
「ん……イヤだ、シャワーくらい浴びさせて」
「無理だね」
そうよ、今夜の私は遊び馴れた大人の女。あくまで対等に、彼にイニシアチブをとられる訳にはいかない。
「自分こそ。紳士のフリして。さっきから、男の匂いがする」
サッと唇を離すと、男が笑った。
「なんて呼ぼう。さっちゃんは……サチコ?」
「サツキよ、あなたは?」
「タツマ」
「ナルセ……タツマ…さん」
「サツキ」
耳元に、吐息と共に何度も囁かれる『サツキ』の深い声色が官能を擽る。もしかすると、上手く誘導されたのかも知れない。
淫らな気を煽られて、馴れた女のフリのまま、大胆に彼を求めていた。ふざけ合い、明灯のままに互いに衣服を脱がせあう。
細身に思えた彼の体躯は、均整がとれた筋肉質で年齢相応のダブつきもない。実は補正に上げ底で、だいぶ盛っている自分の身体を見せるのが、恥ずかしくなる。
思わずゴクリと唾を飲むと、彼はまた穏やかに笑う。
私が恥じたのを知ってか知らずか、ありきたりな言葉でそれを封じた。
「綺麗だ、サツキ」