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第7話 演じる女

 どうする? どうする?

 チェックインを済ませたシティホテルで、私は内心焦りまくっていた。

 本当の私は、大人の付き合いをスマートにこなせるような人間じゃない。人生の大半を地方の田舎で過ごし、むしろ友達みたいな彼氏しか持った経験のない、どこまでもガサツで残念な生物いきもの

 だなんて、そんなフシダラかつおしゃれな関係を結んだことなんて一度もない。

 だって病気とか怖いじゃん?

 相手がどんな人か分からないし、殺人事件なんかもニュースで見たことがある。

 ……ああ見えて物凄いどヘンタイだったりして。

 そうだ! もし犯罪に巻き込まれた時のために、携帯だけは肌身離さず持っておこう。

 顔には余裕を装いながらも、頭の中はパンク寸前の私は、ベッドサイドでフリーズしてしまっていた。


 と、私の意を汲んだかのように荷物をクロゼットに置いた彼は、私に向かってニコリと微笑みかけた。

 併せて私も愛想笑い。


 すると、突然に。


 エエッ!


 それまで紳士的だった彼が、急に私を抱き締めた。そうしてあっという間に上向かせ、しっとりと唇を重ね始める。

 彼の形良くしまった唇が、柔らかに私のそれを挟んで自然に唇を開かせた。

 ううっ、不意打ち。なんて卑怯な!

 こうなったら意地だ。これまでになく狼狽える気持ちをひた隠し、私はかろうじて妖艶さを演じる。

 私は彼のネクタイを引っ張ると、更に深く貪った。

「ん……イヤだ、シャワーくらい浴びさせて」

「無理だね」

 そうよ、今夜の私は遊び馴れた大人の女。あくまで対等に、彼にイニシアチブをとられる訳にはいかない。


「自分こそ。紳士のフリして。さっきから、男の匂いがする」

 サッと唇を離すと、男が笑った。


「なんて呼ぼう。さっちゃんは……サチコ?」

「サツキよ、あなたは?」

「タツマ」


「ナルセ……タツマ…さん」

「サツキ」


 耳元に、吐息と共に何度も囁かれる『サツキ』の深い声色が官能を擽る。もしかすると、上手く誘導されたのかも知れない。

 淫らな気を煽られて、馴れた女のフリのまま、大胆に彼を求めていた。ふざけ合い、明灯のままに互いに衣服を脱がせあう。


 細身に思えた彼の体躯は、均整がとれた筋肉質で年齢相応のダブつきもない。実は補正に上げ底で、だいぶ盛っている自分の身体を見せるのが、恥ずかしくなる。

 思わずゴクリと唾を飲むと、彼はまた穏やかに笑う。

 私が恥じたのを知ってか知らずか、ありきたりな言葉でそれを封じた。


「綺麗だ、サツキ」

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