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第6話  ワンナイト?!

「この後を期待していいのかな」

「う~ん、それはあなた次第かな?」


 どうしよう。この男、ひと案外手が早いんだ。


 内心の焦りをひた隠し、私は悪戯っぽい顔で彼の瞳を覗きこむ。

 もう一度、彼が私の顎に手を掛けた時。


「おっと、さっちゃん。そこから先は外でやってくれる? ウチはそういう店じゃないんでね」

 少しラフに、リョウちゃんが私達を嗜めた。


「悪いね、会計を」


 スッと彼が立ち上がり、私の肩をトンと叩く。合わせて私も立ち上がる。

 これってついに……?! 内心のドキドキが止まらない。


「まいど」

 彼は私の分まで会計すると、先に小さな扉を出た。


 春先の、夜気の程好い冷たさが、酔った身体に心地良い。

「ん~、気持ちいいっ」

 私が手足をウーンと伸ばすと、彼がゆったりと微笑んだ。

「君はどっちが本当の姿なのかな。子どもっぽい方の君?」

「ち、違うわ、そうじゃない」


 私は慌てて手を下ろした。


 私と彼は、ふざけ合いながら往来を歩いた。夜11時でもまだ沢山の人が往き来している。


「きゃ…」

 前から来た数人連れの男の足に躓いた拍子に、思わず彼の腕にしがみつく。

 酔っ払いが振り返り、ギロリと私を睨みつけた。

 私は一瞬怯んだが、彼が私の肩を抱き寄せて一覧すると、そいつはチッと舌打ちして、そのまま向こうへ行ってしまう。


 その後も彼は肩を抱いたまま、ロマンチックな演出に、2人はだんだん無口になって寄り添い歩く。


 彼は道中に電話を入れ、手慣れた様子でホテルの空きを確認した。

……どどど、どうしよう。


 一夜の冒険。

 目論み通りの筈だったのに、その時初めて、私は現実的にこれから先のことを意識し始めた。


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