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第8話 「スパチャ婚狂騒曲と三人の本音トーク、それぞれの“救い”」

深夜2時30分。

チャット欄に閃光のように通知が続く。


【10000G:結婚してくれ!】

【50000G:離婚しないでください!】

【100000G:プロポーズ返して!!】


スパチャ合計金額表示が、桁違いの“G”を指して回っていた。

画面下には小さく表示された急上昇グラフ:「スパチャ婚式チャンス率:99.9%」。


「……正気じゃねーだろコレ!」とサトルが絶叫。

隣のレイナは顔を赤く染めながらも、まるでスターのように微笑む。


黒澤レンは机に肘をつき、渋い表情を浮かべながらもスパチャ欄を凝視していた。


「莫大な金が、演出として飛んでいる……」

その視線は、愛でも遊び心でもなく、冷静な“計算”に見えた。


休憩ポイント。

三人がロイヤルブルーのソファに順番に座る。


サトルがふいに訊ねた。


「レンさん、本当に戻ってきたのって、“演出のため”だけ?」


するとレンは笑い、目に少しだけ光を戻した。


「正直に言うと──“演出”が入り口だったよ。でもね、レイナと向き合って、彼女が本当に強くて壊れやすい人だって知って……それを支えたいって思い始めた」


コメント欄も反応していた:


【おおお!リアルじゃん】

【演出がリアル化してきた】

【惚れる要素しかない】


レイナは無言で、優しい目でレンを見つめ返す。


「ありがとう。…でも、さ」


視線はサトルに移る。

「私が“ぶりっ子”してたの、あなたがいたからできたの。あなたのギリ生存芸が“偽物”って思われるの、正直怖かった」


サトルは驚いた顔で言葉を探す。


「怖…い?」


「うん。あなたが私を守ってくれるって思えるまでは、“キャラの演出”が私の鎧だった。今は、剥がれていくのが怖い」


コメント:


【鎧脱ぐレイナ様…】

【これは神回の予感】


三人の空気が一瞬ゆるやかに溶けあった。


そこで──

画面が静かに切り替わり、コメント欄は関心を示しつつ、緊張が走る:


【ノネガの公開談話始まった!】

【ガチで来た…】

【どうなるんだこれ!?】


カメラがズームアウトし、部屋の入口に黒のフード男が立っていた。

少し痩せ、一瞬だけカメラを見つめ――


「俺がNoNameGOD77だ」


サトルとレイナ、そしてレン。全員が一瞬、息を吞んだ。


「最初は『消えろ』『死ね』って煽りくらいだった。けど、気づいたら俺、“救いたい”気持ちになってたんだ。配信者としても、人間としても──お前ら、壊れていくから。数字に飲まれていくから」


コメント欄もざわめく:


【まさかの救済】

【これ…いい話になりそう】

【泣きそう】


ノネガはゆっくり手を挙げ――

「お願いします。俺と、本音で話してください」


配信は、公開談話会に移行した。

三人と一人のトークは、思ったより穏やかだった。


ノネガは重い口を開いた。


「俺は…レイナに恋していた。努力と真摯さに惹かれた。でも“ぶりっ子”を見たとき、ショックで、怒りで、『許せない』って思った。だから俺は…壊さないと気が済まなかった」


彼は手を震わせながら言い切る。


「でも、今日本気で思った。お前ら、俺の想像以上に強いんだって。ギリギリで笑って、傷ついて、それでも進んでる」


長い沈黙の後、レイナがマイクに触れる。


「……ありがとう。私、あなたの怒りでも痛みでも、間違ってないって思える。共感できるから」


サトルも続けて手を伸ばす。


「お前もさ、救われていいんだぞ?」


レンは微笑んで言った。


「みんな、救われながら、ここにいるんだね」


コメント欄には涙混じりの文字が溢れる:


【これが人間ドラマ…】

【スパチャとは違う価値】

【やば、涙枯れる】


談話会の後、再び「結婚式スパチャ」が加熱する。


【200000G:マジで結婚しろ!】

【500000G:結婚引き止めに全財産】

【1000000G:離婚しなきゃ引く】


三人は顔を見合わせ、間を置いて──


サトルが小声で言った。


「…俺たち、なんか繋がっちゃったな」


レイナは笑う。


「そのスパチャ、記念に婚約指輪にしようか♡」


レンがふわりと被せた。


「そして四人で、新たな物語を始めようか」


コメント欄、爆発:


【クラウド婚約】

【新時代だこれ】

【配信文学ここに極まる】


深夜3時。

チャット数は10万超え。スパチャは億を突破。


だが画面の奥には、人間の温度が溢れていた。

傷つきながら笑い、怒りながら癒し合う様子。


「これが現代の“命がけ配信”。


 数字の先にあるのは、嘘じゃない人間同士の“救い”だった――」


サトルが小声で言った。


「…次は、三人婚配信かな?」


レイナとレンは同時に笑ってうなずいた。

ノネガも、フードを脱いでカメラに手を振った。


――次回はいよいよ、「婚配信ライブ」。

視聴者、スパチャ、お祝いコメント、公開談話――全員で祝う新時代。その裏で、またどこか傷つく人がいるかもしれない。


でも、それも“生きてる証拠”だ。


人間の不完全さが、このエンタメを“完成”させる。



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