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第7話 「スパチャ婚!? 浮気凸!? 三角地獄のリアル婚前コラボ」

深夜2時。視聴者数は6万超え。


配信画面には、南雲サトルと白雪レイナが並んで座っていた。

背景にはピンクの電飾、紙吹雪、そして大きなバルーンで「結婚してもいいですか?」と書かれている。


「え、ちょ、マジでこれ結婚式?」

「うん♡…なんか、スパチャでそう呼ばれたから“乗った”」


いやいやいや!真夜中の勢いとはいえ、視聴者が勝手にそう盛り上がった結果?


【100G:いいぞ!結婚しよう♡】

【1,000G:祝!婚約!】

【10,000G:離婚せずに頑張れよ!!】


スパチャはまるで婚礼費用のように降り注いでいた。

サトルは爆笑しながら顔を赤らめていた。


「レイナさん、キミはキャラか!?」

「キャラだよ♡ キャラ以上、でも以下かも(笑)」


観客と二人の距離がますますバグっている。

この「公共結婚式気分」に、誰も止められない。


そんな奇妙な祝祭ムードもつかの間――室のドアが静かに開いた。


「おや、盛り上がってますねぇ…♡」

『えっ?』


そこにいたのは――元彼配信者・黒澤レン。

レイナが“エルフィナ”時代に本気で想っていた相手。


身長180cm、メガネ、冷静沈着。

コメント欄にはさっそく湧く反応。


【マジで元彼いたんか!?】

【三角関係始まったwww】

【レンさん、あの頃伝説作ってくれた人じゃん!】


サトルとレイナ、そして黒澤レン。

画面が、一気にサスペンスホラーみたいに変わった。


「あのさ、なんでここに…?」と、サトルが聞く。


黒澤レンはゆっくりと歩み寄る。


「レイナ、会いたかった」

その一言に、空気がギュッと締まった。


レイナは明らかな狼狽を見せて──

その隙を突いた黒澤が、サトルのマイクに軽く笑いかけた。


「…悪い気はしないでしょ?配信的には、最強のネタだ」


コメント欄も歓喜と混乱で埋め尽くされる。


【レンさん神降臨!】

【恋のリアル火薬庫やん!】

【サトル、負けたらあかんぞ!!】


サトルは顔を引きつらせながら、慌てて反論。


「俺、男同士の争い苦手なんすけど!」

「でも…まぁ、視聴者は喜ぶかもな(苦笑)」


レイナは沈黙のままテレビ越しで顔色を伺っていた。


そこで画面が揺れ──


「おい、何演技しとんねん!レン、お前も手ェ貸すんか?」

男性の声。


『NoNameGOD77、今ここに配信凸』『お前らの愛と裏切りをみんなに晒してやる』


コメント欄が凍りついた。


黒澤レンが眉をひそめ、レイナは目を伏せ──

だがサトルは、しれっとした声で答えた。


「え、凸おkですけど?プライバシーとか知りませんけど?」


視聴者は鳴り止まないスパチャゾーンとやじと驚きで爆ぜた。


カメラに映った男──

黒のフード、肌荒れ、目は虚ろ。

握るスマホの画面には「NoNameGOD77」の文字。


「お前ら全員…俺が許さねぇからな」


いきなり部屋を走り抜けてスクリーン前に立ちはだかる。


「さあ!リアルバトルだ!」と喚きながらスマホを掲げて配信し、視聴者に呼びかける。


コメント欄は騒然。


【おい!!!本物やんけ!?】

【3ちゃんやめろwww】

【ガチで事故るぞ…】


サトルは、咄嗟にレイナの隣に立った。


「お前、会ったら意外とガチやったんかい!」

逆に突っ込むことで乗り切ろうとするその姿勢に、画面の空気が緩んだ。


やがてNoNameGOD77は、スマホ越しの視聴者を念仏のように再生しながら叫んだ。


「お前ら、偽物のヒーロー見て笑ってんじゃねぇ!」


その声の余韻が消えたとき、サトルは小声で呟いた。


「……こいつ、本当に救いたいものがあるんだろうな、って」


黒澤レンは、短く言った。


「レイナ。俺が…また支えてやるから」


レイナの目から一滴落ちた涙。

その刹那、コメント欄にはこんな声が流れた。


【三角関係、マジで尊い】

【リアルが混ざってくると、配信って怖いな】

【これが…人間ってやつか】


翌朝。

サトルは寝ぼけ眼で起きる。横にはレイナとレンが並んでいた。


「…ごめん。昨日の夜は壊れたな」


レイナは笑って、サトルを抱き寄せる。


「大丈夫。これからは“嘘も相まってリアリティ”って呼びたい」


黒澤レンも笑顔でうなずいた。


「ぼくたち、みんな繋がってるんだ」


配信の外と内、現実とネタの境界。

それでも、ここにいる全員が――

「スパチャ婚」に集った客人たち、アンチのノイズ、深夜の奇跡も含めて、物語の一部なのだ。


三人の笑顔が、画面越しに焼き付いた。

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