深夜、南雲サトルの配信ルーム。
モニターには“無数の赤文字”が流れていた。
BANされても、ブロックされても、湧いてくる。
しつこさで言えば、夏の蚊以上。
それが――NoNameGOD77。通称「ノネガ」。
【サトル、今日も偽りの英雄ごっこお疲れ】
【明日も配信するの?また“やらせ”見てやるよ】
【死ぬならちゃんとやれ、半端はダサいぞ?】
だがその日、初めて届いたのは“長文DM”だった。
件名:
「君の死に際が見たいだけのファンです」
内容:
「僕はかつて、ある配信者の信者だった。彼女は清楚で努力家で、真面目にダンジョンを攻略していた。誰も見ていなかったけど、僕はずっと見てた。だから、彼女が“ぶりっ子”に堕ちたとき、許せなかった。
君の死に際は、かつての彼女を見ている気持ちになるんだ。
美しく、必死で、孤独で、でも諦めていない。
サトルくん、君は“僕の中の彼女”の生まれ変わりなんだよ」
「え、ええええええええ!? どゆこと!?」
サトルはモニターに突っ伏した。
なぜ自分が“成仏の器”扱いされてるのか。
そして、スクロールした最後の一文で膝から崩れた。
「P.S. ちなみに僕は、エルフィナ時代の白雪レイナをリアルで追っていた者です」
第二幕:『エルフィナの禁じられた配信』
一方、白雪レイナは、自室の暗いライトの下で昔のUSBを漁っていた。
そこにあった――幻の動画ファイル。
「“未公開回”…私の黒歴史、っていうか、決別の日ね」
タイトル:【Ep.12 自分をやめた日】
数年前。再生数三桁、スパチャほぼゼロ。
頑張っても誰にも響かない日々の中――彼女は一つだけ、手を出してはいけないものを見つけた。
「新設Sランクダンジョン“ノルンの檻”に潜入します。危険です。でも……話題性が欲しいんです」
この回、当時の運営ルールでは「配信禁止エリア」だった。
中には“精神汚染系”の幻覚モンスターがいた。
それを倒した彼女は、配信中にこう言った。
「あれ……今、コメント欄で“死ね”って流れてない……?」
幻覚と現実が交差し、配信アーカイブは“問題映像”として削除された。
その日から――白雪レイナは“別の人格”を選んだ。
ぶりっ子、煽り芸、危険すれすれのテンション配信。
けれど、あの回だけは――“唯一、誰かがリアルタイムで見ていた”。
時は現代。
サトルは視聴者とともに、「挑戦枠・地獄ダンジョン一時間耐久チャレンジ」を開始していた。
しかも今回――スパチャ返金ON設定だ。
つまり、死んだら全額返金+違約金。
それだけでコメント欄は地獄のように盛り上がっていた。
【よし、落ちろ!】
【スパチャ1万投げた!死んでくれ!】
【俺の金、見届けるのはお前だ!】
心温まる支援が飛び交う中、サトルはダンジョン深部にて、まさかの“罠床&睡眠毒”を踏んだ。
「え、やば、動けない……」
カメラには、背後から近づく“首切りゴーレム”が映る。
視聴者数は急上昇、スパチャは爆発。
【来るぞ来るぞ来るぞおおおお!!】
【死んだら伝説!死ななかったら詐欺!どっちでも勝てる!!】
【運営、配信止めるな!!】
……そこで、サトルは「マイクだけ」を拾い、ぎりぎりの声で叫んだ。
「……俺、ここで死んだら、次の飯代がねぇんだよぉぉぉおお!!!!!」
それが――奇跡を呼んだ。
その叫びが“魔法詠唱として誤作動”を起こし、周囲の魔法トラップを暴発させ、ゴーレムが吹き飛んだ。
視聴者:
【は?】
【まってwwwwwwww】
【スパチャ返して!!!!】
【お前が一番強えじゃねえか!!】
その日の夜。
サトルの部屋には、レイナが来ていた。
「サトルくん。あんた……また伝説作ったね」
「いやぁ……死んでたかもしれん」
レイナは一つUSBを差し出した。
「これ、あたしの過去。“黒歴史”ってやつ。あんたにだけは見ててほしい」
「……まじで?」
「うん。あんたは、“壊れながら踏み出してる”ところ、あの頃の私と似てるからさ」
サトルは無言でうなずいた。
画面の向こうにいるのは、煽る奴も、祈る奴も、過去に取り残された誰かもいる。
それでも前に進むため、二人は笑った。
「次、どんな無茶やる?」
「そうだなぁ……“結婚配信(地獄コラボ)”とか?」
「バカじゃないの!? 結婚してくれるなら考えてもいいけど?」
「えっ」