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神崎お嬢様が再婚するって聞いた元夫の東雲社長が花嫁を攫う
神崎お嬢様が再婚するって聞いた元夫の東雲社長が花嫁を攫う
レイレイ
恋愛現代恋愛
2025年06月09日
公開日
4.5万字
連載中
彼女を愛していなかった頃、彼は彼女を傍に置き、苦しめ続けた。 愛してしまった今、彼は彼女を手放すことを選んだ。 * 東雲琢磨のために、神崎梨々は夢を捨てて家庭に入った。 結婚して二年、琢磨は梨々に無関心で、梨々は彼だけを想い続けた。 ある日、梨々のもとに届いたのは、琢磨の浮気現場の映像。 彼のその瞳に宿る熱意と賞賛——それは、梨々には一度も向けられたことのないものだった。 ついに梨々は限界を迎え、離婚を切り出す。 梨々の涙と怒りを、琢磨は「ヒステリーだ」と鼻で笑った。 どうせすぐ戻ってくるだろうと、高をくくっていた彼のもとに届いたのは、一通の離婚届と沈黙。 浮気の男などいらない。梨々は振り返らず、美しく再出発する。 彼の軽蔑を背に、キャリアを築き上げ、ついには有名デザイナーとして脚光を浴びる。 億万長者からのプロポーズを受け、再婚も間近。 そのときようやく、琢磨は自分の心に気づいた。 もう一度取り戻そうと、狂ったように結婚式へと駆け込んでいく――。

第1話:月100万の添い寝代?…ふざけないで!

「月100万円の、それで不満なのか?」

静まり返った夜。男は低く淡々とした声でそう言った。ソファにだらりと身体を預けたその姿には、目の前の女への興味も敬意も感じられない。

神崎  梨々かんざきりりの頭に、鈍い衝撃が走る。胸に溜まっていた全ての悲しみと怒りが、一瞬で凍りついた。

「……100万? ですって?」

熱い涙が頬をつたい落ちる。彼の冷たい視線を受け止めながら、梨々は唇を震わせる。

「琢磨……私はあなたにのよ。売られたわけじゃない。」

まさか、お金をもらって一緒に寝るだけの関係が、彼の思うなの?

それってただのじゃないの? 紙切れ一枚で取り繕っただけの――いや違う。違うのは、東雲琢磨しののめ たくまの目に映るだった。

――彼にとって、私は、そんな結婚すら似合わない女だった。


3時間前、神崎梨々は一本の監視映像を受け取った。

深夜のホテルスイート。セクシーな服を着た女が、琢磨の部屋の扉をノックする。

彼はそれを開け、女を迎え入れた……3時間後、ようやく一人で出てきた。最初はただの浮気だと思った。地方出張先でのだと。


彼は性欲が強い。結婚して2年、生理の日以外は毎晩体を求められた。だからきっと、何か理由があるんだって――今日は彼の誕生日、嫌な話はしたくなかった。

梨々は自分の手で、可愛いシュガークラフトの虎がついたケーキを焼き、部屋を飾って待っていた。

結婚記念日も誕生日も、いつだって自分ひとりで祝ってきた。

彼が不器用な人だと思ってた。

でも――

今夜、東京最大のホテルを貸し切って、社員数千人にボーナスを配りながら、会社の副社長・橘真希たちばなまきの誕生日を祝う姿を、ニュースで見た。

その彼がメディアの前で、橘に数千万円相当のジュエリーを贈っていた。その首にかかる限定版の黒いネクタイも、1時間前に橘が結んだものだった――

もしも誕生日の時も、あの夜も、別々の人ならまだよかった。

でも、あの女はだった。梨々はすぐに分かった。

誕生日パーティーで満面の笑みを浮かべて彼と見つめ合っていた橘真希は、あの映像でホテルの部屋に入っていった女だった。

それでも、もしかしたら誤解かもしれない……そう思って、必死に笑顔を作りながら聞いた。

「ねえ琢磨、あの……あなたがよく一緒に出張に行くさん、女性だったの?」

「仕事のことに口を出すな。」

彼は梨々の作った酔い覚ましのスープを飲みながら、スマホに映る橘の誕生日ニュースを黙って見ていた。

梨々は唇を噛みしめ、勇気を振り絞って続けた。

「……部下の誕生日を祝うのも、仕事のうちなの?」

琢磨は眉をひそめ、夜のように深い瞳で彼女を見た。

彼の目の奥には、冷たい感情が広がっていた。まるで彼女なんて、視界の隅にも入っていないかのように。

「お前は余計なことを考えるな。スーツケースに荷物を詰めておけ。出張に行く。」

それ以上を言わせない威圧感に、梨々はようやく怒りを爆発させる。

「私たちは夫婦よ! なんで口出ししちゃいけないの? あなたが彼女に使ったお金は、私たちのよ! 全部、私にも知る権利がある!」

「たった数百万使っただけで、いちいちうるさいな。お前の実家がうちから数億持ってったときは、なんも言わなかったくせに。」

琢磨は立ち上がり、冷たく言い放った。

――それは事実。隠しきれない神崎家がもらった資金援助だった。梨々も知ってる。

でも――

「全然違う! 私はあなたの妻よ。あの女と同列に語らないで!」

「お前こそ、彼女に敵うとでも思ってるのか?」

琢磨の目は、ぞっとするほど冷たかった。

「数百万なんて、彼女の稼ぎから見れば端金だ。」

――心が、一瞬で崩れ落ちた。

ベッドで囁いたは、全部嘘だったの?

「そんなに彼女がいいなら、最初から彼女を選べばよかったじゃない……。私のこと、好きだったんじゃなかったの?」

2年前、家が没落しかけたとき、彼が婚約を守ると言ってくれた。だから彼のことを信じた。

騒ぎになるからって結婚のことを公にしたくないと言って、それも信じた…

それが、全部勘違いだった?

……いや、彼は最初から、なんかじゃなかったんだ。


琢磨は酔い覚ましスープを一気に飲み干し、上の階に行こうとする。

「じゃあ、離婚しましょう!」

梨々の声が、部屋に響いた。

冷え切った関係、愛のない生活――もう、我慢したくなかった。

でも琢磨は、彼女の必死の言葉をとしか見ていなかった。

「離婚して、お前はどうやって生きてくんだ? 月100万の添い寝代に文句言うな。現実を見ろ、神崎梨々。」

「……私は私の力で生きてみせる。神崎家に戻らなくても、私は大丈夫。」

涙を拭い、梨々は階段を駆け上がる。

物置から白いスーツケースを引き出して、荷物を詰め始めた――


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