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死に戻った私は離婚したけど、なぜか元夫の忘れない女になりました
死に戻った私は離婚したけど、なぜか元夫の忘れない女になりました
かく春巻
恋愛現代恋愛
2025年06月09日
公開日
6.9万字
連載中
前世、私はただの踏み台だった。片桐光哉は他の女性に深い愛情を注ぎ、私はあくまで道具。最後、家族を失い、悲惨な結末を迎えることになった。 死に戻り、私は彼への愛を捨て、何も聞かず、何も見ず、ただ光哉が離婚を切り出すのを待っていた。しかし、事態は少しおかしな方向に進んでいる。前世では家に帰らなかった彼が、どうしてか数日ごとに家に戻ってきて、さらに私が浮気をしていないか心配しているの!? 「信じるかどうか分からないけど、近い将来、あなたは私が消えてくれることを願うようになるわ」 「寝言は寝てから言え。お前は俺と死ぬまでお互いを苦しめ合うだろう。」 私はため息をついた。転生者としての自信があったから、光哉はきっとすぐに真実の愛に出会うだろうと思っていた。そして、ついに彼とその女性が出会った。私は自由を手に入れるまで、あと一歩だと思った。 ところが、彼は淡々とこの言葉を口にした。 「誰が離婚すると言った?」 離婚どころか、ますます私に執着し、運命の人さえも捨てた!? 作品をお読みいただきありがとうございます。こちらの小説を大幅に修正しました。 よろしくお願いいたします。

第1話

白江県の通りは車の流れが行き交っていた。


私は「ブルーブース」という喫茶店の隅の席で、ちょうどカウンターの正面に座り、もう二時間近くも過ごしていた。そこでは、エプロンをまとった若い娘が忙しそうに動き回っている。

彼女は背が低く、華奢で肌は白く、いつも笑顔を浮かべている。黒髪はポニーテールに結われ、目は三日月のように細く、その笑顔には不思議な明るさがあった。


「お客様、おかわりはいかがですか?」


彼女が明るい笑顔で近づいてきた。


私は一瞬、我に返った。気づけば、ずっと彼女を見つめていたのだ。幸い、私も女だからよかった……。


「ええ、ブラックでお願いします」


私は淡々と答えた。


彼女はすぐにコーヒーを持ってきたが、すぐには去らなかった。


「お客様、ブラックコーヒーを二杯もお飲みになりましたね。気分はスッキリしますけど、体にはよくありませんよ。また今度お越しになりますか?」


その声は鈴のように澄んでいた。


私はコーヒーを一瞥し、鞄を手に取った。


「お会計をお願いします」


彼女は嬉しそうにレジへ走った。


「お客様、お会計は1500円です。現金とスマホ、どちらになさいますか?」


代金を払い、私は足早に店を後にした。


「奥様」


運転手の藤田さんがドアを開けた。


「片桐家の邸宅へ戻ろう」


車が動き出すと、私は目を閉じた。喫茶店のあの若々しく生き生きとした顔が、頭の中に何度も浮かんでくる。


彼女がそうなのか?一年後、光哉が何が何でも私と離婚しようとする原因となった女の子。


生まれ変わって戻ってきて、最初にしたことは、まるでストーカーのように、彼女が今働いている場所を探すことだった。


私はどうしても知りたかった。いったいどんな娘が、私が十年も愛し続けた男を奪うことができるのかと。


前世では、私は彼女の名前を知っていただけで、写真を何枚か見たことがある程度だった。光哉は彼女を完璧に守り、隙を見せなかった。私は完膚なきまでに敗れ去ったのに、相手は一度も表舞台に出てこなかったのだ。

若さ、美しさ、純粋さ、優しさ、明るさ……あらゆる言葉が彼女にぴったりだ。


彼女に唯一の弱点があるとすれば、それはまったくの無名で、光哉の地位とは雲泥の差があることだろう。


藤田さんが突然口を開いた。


「奥様、今日は片桐社長とのご結婚記念日ですよ」


私は目を開け、少しぼんやりとした。


片桐光哉かたぎり こうやに嫁いで五年目になる。これまでは毎年この日、キャンドルディナーを準備し、贈り物を用意していたものだ。


私は二十七歳、彼は二十九歳。


「知ってるわ」


私はこめかみを押さえた。


「わざわざ言わなくていいの」


藤田さんは、今年の私の様子が違うことに気づいたのだろう。


なぜずっと私ばかりが尽くさなければならないの?

なぜ私が彼を愛さなければならないの?


前世、死の間際にそう思った。光哉のために、私は家族を失い、身も心も滅ぼされ、悲惨な結末を迎えたのだ。





車は片桐家の邸宅の前に停まった。これは当時、両家の親が贈った新婚の家で、広大な敷地に建つ、かなりの価値のある邸宅だ。


意外にも、光哉の車も停まっている。彼が帰っていた。


複雑な気持ちになる。一度死んだ者が生まれ変わり、「元凶」とも言える相手に会うとき、どんな表情をすればいいのだろう?


私は彼を憎むと思っていた。別の女のために、五年も寝食を共にした妻を窮地に追い込み、彼を厚遇した妻の実家にすら容赦なく手をかけた男。私の家族は彼によって滅ぼされた。


だが、実際に彼を見たとき、激しい憎しみは湧いてこなかった。むしろ、諦めに近い気持ちが強かった。

前世、彼は機会を与えてくれた。円満離婚を提案し、補償として片桐財閥の一部の株を譲ると言った。

それは私が一生困らないには十分な額だった。


でも、私は承諾しなかった。


十年かけても得られなかった彼の愛情を、たった一年で彼を虜にし、周囲を敵に回すほどにした別の女がいたのが、どうしても認めたくなかった。


私がすべての愛を注いだ十年……

それが、まるで笑い話のような十年だった。


それで私はあらゆる手を使って彼を取り戻そうとし、次第に決裂し、殺し合いのような状態にまで陥っていったのだ。

しかし今、それはまだ起きていない。憎しみよりも、あの自業自得とも言える結末を変えたいという思いのほうが強い。


「いつまで立っているつもりだ?」


光哉がリビングのソファに座っていた。長い脚を組み、指の間の煙草はすでに燃え尽きていた。

彼は煙草を灰皿に押しつぶすと、顔を上げて私を見た。その目は相変わらず、よそよそしかった。


結婚したその日、彼ははっきり言った。これはあくまで協力関係、長期間の同居人であって、君を愛していないと。


「あなたが家にいるなんて思わなかったわ」


私は腰をかがめてスリッパに履き替えた。快適だけど、なんとなく陰鬱な感じがする。


喫茶店のあの娘、麻倉萌香あさくら もえかの青いエプロンに、小さな花のバッジがついていたことを思い出した。他の店員にはなかったものだ。


私の服は、どれも高価で、無地やシンプルなものばかり。

突然、このスリッパが嫌になり、蹴って脱いだ。裸足でリビングに歩いていった。


裸足で近づく私を見て、光哉は眉をひそめた。


「靴下も履かないのか?」


「ええ、履きたくないの」


私は彼の向かいのソファに腰を下ろした。


「珍しいな、何か刺激でも受けたのか?」


彼は意外にも笑った。その口調は珍しく軽やかだった。


あなたの未来の運命の人に刺激を受けたのよ、と心の中で呟いた。


私はうつむいて、自分のはっきりと見える骨ばった、青白い裸足を見た。

萌香は違う。彼女も細いけれど、肉付きはよく、弾力がある。


五年の孤独な結婚生活で、私の体はすっかり弱ってしまい、食欲もなく、骨と皮だけのように痩せ細っていた。


「光哉」


「ん?」


彼はうつむいたまま、スマホを見ている。顔を上げようとはしなかった。


黒のシャツにスラックスを着た彼は、背筋がピンと伸び、顔だちは整っている。


私は自分の足から目を離し、彼をじっと見つめた。声は少しかすれていた。


「私たち、離婚しよう」


光哉は鼻で笑った。


彼はスマホをソファに投げ出すと、よく知った、どこか冷めた目つきで私を見た。


「今度はまた、何の芝居を打つつもりだ?」

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