白江県の通りは車の流れが行き交っていた。
私は「ブルーブース」という喫茶店の隅の席で、ちょうどカウンターの正面に座り、もう二時間近くも過ごしていた。そこでは、エプロンをまとった若い娘が忙しそうに動き回っている。
彼女は背が低く、華奢で肌は白く、いつも笑顔を浮かべている。黒髪はポニーテールに結われ、目は三日月のように細く、その笑顔には不思議な明るさがあった。
「お客様、おかわりはいかがですか?」
彼女が明るい笑顔で近づいてきた。
私は一瞬、我に返った。気づけば、ずっと彼女を見つめていたのだ。幸い、私も女だからよかった……。
「ええ、ブラックでお願いします」
私は淡々と答えた。
彼女はすぐにコーヒーを持ってきたが、すぐには去らなかった。
「お客様、ブラックコーヒーを二杯もお飲みになりましたね。気分はスッキリしますけど、体にはよくありませんよ。また今度お越しになりますか?」
その声は鈴のように澄んでいた。
私はコーヒーを一瞥し、鞄を手に取った。
「お会計をお願いします」
彼女は嬉しそうにレジへ走った。
「お客様、お会計は1500円です。現金とスマホ、どちらになさいますか?」
代金を払い、私は足早に店を後にした。
「奥様」
運転手の藤田さんがドアを開けた。
「片桐家の邸宅へ戻ろう」
車が動き出すと、私は目を閉じた。喫茶店のあの若々しく生き生きとした顔が、頭の中に何度も浮かんでくる。
彼女がそうなのか?一年後、光哉が何が何でも私と離婚しようとする原因となった女の子。
生まれ変わって戻ってきて、最初にしたことは、まるでストーカーのように、彼女が今働いている場所を探すことだった。
私はどうしても知りたかった。いったいどんな娘が、私が十年も愛し続けた男を奪うことができるのかと。
前世では、私は彼女の名前を知っていただけで、写真を何枚か見たことがある程度だった。光哉は彼女を完璧に守り、隙を見せなかった。私は完膚なきまでに敗れ去ったのに、相手は一度も表舞台に出てこなかったのだ。
若さ、美しさ、純粋さ、優しさ、明るさ……あらゆる言葉が彼女にぴったりだ。
彼女に唯一の弱点があるとすれば、それはまったくの無名で、光哉の地位とは雲泥の差があることだろう。
藤田さんが突然口を開いた。
「奥様、今日は片桐社長とのご結婚記念日ですよ」
私は目を開け、少しぼんやりとした。
私は二十七歳、彼は二十九歳。
「知ってるわ」
私はこめかみを押さえた。
「わざわざ言わなくていいの」
藤田さんは、今年の私の様子が違うことに気づいたのだろう。
なぜずっと私ばかりが尽くさなければならないの?
なぜ私が彼を愛さなければならないの?
前世、死の間際にそう思った。光哉のために、私は家族を失い、身も心も滅ぼされ、悲惨な結末を迎えたのだ。
車は片桐家の邸宅の前に停まった。これは当時、両家の親が贈った新婚の家で、広大な敷地に建つ、かなりの価値のある邸宅だ。
意外にも、光哉の車も停まっている。彼が帰っていた。
複雑な気持ちになる。一度死んだ者が生まれ変わり、「元凶」とも言える相手に会うとき、どんな表情をすればいいのだろう?
私は彼を憎むと思っていた。別の女のために、五年も寝食を共にした妻を窮地に追い込み、彼を厚遇した妻の実家にすら容赦なく手をかけた男。私の家族は彼によって滅ぼされた。
だが、実際に彼を見たとき、激しい憎しみは湧いてこなかった。むしろ、諦めに近い気持ちが強かった。
前世、彼は機会を与えてくれた。円満離婚を提案し、補償として片桐財閥の一部の株を譲ると言った。
それは私が一生困らないには十分な額だった。
でも、私は承諾しなかった。
十年かけても得られなかった彼の愛情を、たった一年で彼を虜にし、周囲を敵に回すほどにした別の女がいたのが、どうしても認めたくなかった。
私がすべての愛を注いだ十年……
それが、まるで笑い話のような十年だった。
それで私はあらゆる手を使って彼を取り戻そうとし、次第に決裂し、殺し合いのような状態にまで陥っていったのだ。
しかし今、それはまだ起きていない。憎しみよりも、あの自業自得とも言える結末を変えたいという思いのほうが強い。
「いつまで立っているつもりだ?」
光哉がリビングのソファに座っていた。長い脚を組み、指の間の煙草はすでに燃え尽きていた。
彼は煙草を灰皿に押しつぶすと、顔を上げて私を見た。その目は相変わらず、よそよそしかった。
結婚したその日、彼ははっきり言った。これはあくまで協力関係、長期間の同居人であって、君を愛していないと。
「あなたが家にいるなんて思わなかったわ」
私は腰をかがめてスリッパに履き替えた。快適だけど、なんとなく陰鬱な感じがする。
喫茶店のあの娘、
私の服は、どれも高価で、無地やシンプルなものばかり。
突然、このスリッパが嫌になり、蹴って脱いだ。裸足でリビングに歩いていった。
裸足で近づく私を見て、光哉は眉をひそめた。
「靴下も履かないのか?」
「ええ、履きたくないの」
私は彼の向かいのソファに腰を下ろした。
「珍しいな、何か刺激でも受けたのか?」
彼は意外にも笑った。その口調は珍しく軽やかだった。
あなたの未来の運命の人に刺激を受けたのよ、と心の中で呟いた。
私はうつむいて、自分のはっきりと見える骨ばった、青白い裸足を見た。
萌香は違う。彼女も細いけれど、肉付きはよく、弾力がある。
五年の孤独な結婚生活で、私の体はすっかり弱ってしまい、食欲もなく、骨と皮だけのように痩せ細っていた。
「光哉」
「ん?」
彼はうつむいたまま、スマホを見ている。顔を上げようとはしなかった。
黒のシャツにスラックスを着た彼は、背筋がピンと伸び、顔だちは整っている。
私は自分の足から目を離し、彼をじっと見つめた。声は少しかすれていた。
「私たち、離婚しよう」
光哉は鼻で笑った。
彼はスマホをソファに投げ出すと、よく知った、どこか冷めた目つきで私を見た。
「今度はまた、何の芝居を打つつもりだ?」