ひんやりとした夜風が頬を撫でていく。
空はどこまでも深く澄み渡り、無数の星が瞬いていた。
その星たちは、まるで蓮の胸の奥の迷いを映すかのように、儚くも確かな光を放っている。
「未来なんて、決まってなんかいない――」
そう思っていた。
だが、この静かな夜、偶然訪れたあの占い師の小さな部屋で、彼の中の何かが少しだけ動き出したのだった。
高橋
明るくもなく、目立ちたくもない。だが、どこか心の奥底で「自分の人生の意味」を探している。
放課後の教室で、友達と話していてもどこか心ここにあらずだった。
友人の
「レン、最近元気ないな?何かあった?」
蓮は首を振る。
「いや、別に。ただ…将来のこととか、なんか考えすぎてるだけ」
彼の胸の中には、小さな不安がぽつりぽつりと溢れていた。
「これからどうしたらいいんだろう」
「自分は何を選べば後悔しないんだろう」
そんな日々の中、彼は「占い」という言葉を遠ざけていた。
「占いなんて、信じてどうなるんだ」
根拠もない未来予測に期待しても、結局は自分の決断がすべてだと考えていた。
ある日、蓮は街の片隅にある小さな雑貨屋の前で足を止めた。
店先にぶら下がる「占いコーナー」の看板。
半信半疑で入ってみると、中には落ち着いた雰囲気の女性がいた。
彼女の名前はミカ。30代前半ほどで、占い師として多くの経験を持つらしい。
ミカは蓮の目を見て、優しく微笑んだ。
「あなたの星座は?」
蓮は戸惑いながらも答えた。
「牡牛座…」
彼女は星座のカードを取り出しミカは星座のカードを取り出し、ゆっくりと並べた。
「牡牛座はね、忍耐強くて穏やかな性格。でも、変化を恐れることもあるの」
蓮は腕を組みながら、じっとカードを見つめた。
「変化を恐れる…確かに、そうかもしれない」
ミカは微笑みを崩さずに続ける。
「でもね、それは決して悪いことじゃない。自分のペースでじっくり進める強さがあるから」
蓮は心の中で小さく呟いた。
「自分のペースか…でも、時々そのペースが遅すぎて、みんなに置いていかれてる気がするんだ」
ミカは優しく頷いた。
「星座の話はね、未来を決めるものじゃないの。迷った時のヒントのひとつ。『こういう可能性もあるよ』って教えてくれるだけ。星は生まれた日からすべての未来を語っているから」
その言葉に、蓮は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。
その日から、蓮は時々ミカの店を訪れ、12星座の話を聞いた。
牡羊座の話では、燃えるような情熱と時に激しい衝動に振り回される若き戦士の物語を知る。
双子座の話では、二つの顔を持つ旅人の葛藤と好奇心を知った。
蟹座は家族を守るためにどこまでも優しく、時に自分を犠牲にしてしまう繊細な守護者。
一つ一つの星座には、輝きも影もあった。
蓮は気づいた。
「自分だけが迷ってるんじゃない。みんなそれぞれ違う悩みや強さがある」
ミカは言った。
「占いはね、自分の心を映す鏡みたいなもの。
そこに映る光も影も、全部自分の一部なの」
ある日、蓮は友人の陽翔に話した。
「占いって、信じるとか信じないとかじゃなくて、迷ったときに参考にする道しるべみたいなものだと思うんだ」
陽翔は笑って言った。
「へえ、レンがそんなこと言うなんて意外だな。でも、そういう選択肢も悪くないかもな」
それからも、蓮の心は揺れ動きながらも少しずつ落ち着きを取り戻していった。
夜空を見上げるたびに、蓮は思う。
「未来は決まっていない。だからこそ、自分で選ぶことができる。
占いは、その選択のためのヒントをくれるだけなんだ」
ひんやりとした夜風の中、星たちは今日も変わらず輝き続けていた。
完