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白い世界
白い世界
坂餅
現実世界現代ドラマ
2025年06月09日
公開日
1,201字
連載中
君と一緒なら、心も体も温かくなる。

白い世界

 白い白い雪が全てを覆いつくす。


 上を見ても下を見ても、右を見ても左を見ても、前を見ても後ろを見ても白しかない。


 自分という存在だけがこの場にあることしか分からない。


 そんな中、ぎゅっぎゅっぎゅっという音が聞こえた。


 この音が、自分が今雪の中にいるのだなと思い出させてくれる。


「ここにいたの?」

「よかった……変な世界に迷い込んだかと思った」

「なに言ってんの?」


 白い世界に現れた君の顔が、私の心を落ち着けてくれる。


「君も一人で立てば解るよ。なんかね、変な世界に迷い込んだ気分になるから」

「ごめん、全然解らない。ただの一面雪の世界よ?」

「そうだね。雪の世界だ」


 そう言うと、君は疲れた顔をする。


 ごめんね、意味の解らないことを言ってしまって。


「帰りましょ? 温かい飲み物用意してるから」

「寒すぎて感覚無いね。寒さを感じない」

「よく生きてたわね」

「実は死んじゃったのかもしれない」

「それは悲しいわ」


 そう返して『さっ、戻りましょ』と動きで伝えてくれる君の後ろをついて行きながら、動き出したせいで体が目覚めたのだろうか? 徐々に体が冷えてきた。体を動かせば温かくなるのに、動かせば寒くなる。一体どういうことかと可笑しくて、つい笑ってしまった。


「なに笑ってるの?」


 困惑している君を見て、更に笑ってしまう。


 でも、恥ずかしいな。



 いつか君が言っていた。私って笑う時、口を大きく開けちゃうみたいだ。女の子なのにその笑い方ははしたないって君に注意された。


「またその笑い方……」

「ごめんごめん、可笑しっくて」


 可笑しくて止まらない。でも、笑えば笑う程君は不機嫌になってしまう。本当にごめんね。


「口開けすぎ」

「じゃあ隠させて」


 大きく口を開けた笑い方が嫌なのなら、隠すしかない。君に見えないようにすればいいんだ。


 だから私は笑いながら、前を歩く君の肩に額を押し付ける。


 それでひとしきり笑い終わった後、君の様子を確認してみる。


「解決してないけど……まあ、いいんじゃない?」


 心底呆れた様子で、ため息と共にそう言う。


「よかった。許されたね」

「許した? ってことになるの?」

「どっちでもいいよ。それより早く戻ろう? 私もう寒くて仕方がないんだ」

「それもそうね。飲み物が冷めちゃうわ」


 私の笑い方は今はいいや。今は速く帰りたい。寒くて仕方がないから。


「ちょっと、なんで手を握るのよ」

「寒くて仕方がないからだよ」


 寒くて仕方がないから、少しでも暖を取りたい。それにこうしていると、なんだか胸の辺りからポカポカしてくる。


「解らないでもないけど……」


 そうやって唇を尖らせる君を見て、また笑ってしまう。


 温かい。こんな雪の世界でも、君と一緒なら、心も体も温かくなる。


「もう帰らなくてもいいかな? 十分温まった気がする」

「いや、こっちは寒いのよ」


 やっぱり、君のために帰らないとダメかな。


「そうかぁ、仕方がないから帰ろうか」

「……迎えにこなければよかった」

「そんなこと思ってないくせに」

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