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第3話:追放

「さてと……そろそろ真面目な話をするわよ?」


 女神がピシャリと場を整えてくれた。その身から威厳と神々しい光を溢れさせる。いよいよかと思われる瞬間がやってきた。


 周りにいる貴族たちが姿勢を正す。聖女パーティの3人も女神に向かってひざまずく。自分はどうしたものかと考えていると、女神がこちらの両肩に両手を乗せてきた。


「勇者アルト・キサラギが聖女の旅を助けてくれます。彼はハズレ職業のエスパーですが、それでもきっとたぶん聖女のためにその命を捧げてくれるでしょう!」

「……えっと、女神様」

「はい? なんでしょうか、勇者アルト・キサラギ」

「キャラクターシートでエスパーをお勧めしてくれてましたよね?」

「……はて?」

「ちがうのかよ!」


 女神が困った顔になっている。しかし、こちらは本日のお勧めとなっていた『エスパー』『調教師』『墓守』の中にあったエスパーを選んだ。


 そうだというのに、その女神自身が困惑していやがった。話が違うと問いただしたい気持ちになる。


"何かの手違いがあったみたいね?"


 女神から念話が届いた。こちらはキャラクターシートに記載されていた『本日のお勧め』のことを念話で返しておく。


"うん。webサイトの更新が上手く行ってなかったのね……"

"ちなみに本当のお勧めは何だったんです?"

"賢者、魔物使い、自衛隊"

"自衛隊? ……え? マジものの自衛隊!? 銃火器が使えちゃうってことぉ!?"

"うん。それくらいじゃないと邪龍とか倒せないと思ったから"

"今の俺、エスパー……"

"が、がんばれがんばれ!"


 女神との脳内打ち合わせは終わった。自分はハズレ職業のエスパーから他の職業に変えることはできないと言われた。


 Lv20まで育てば、神殿で転職できるそうだ。しかし、覚えてる限り、今の自分はLv3。ここからLv20まで上げるのがとてつもなく長いと感じてしまう。


 続いて女神が職業エスパーがどんなにすごいのかを皆の前で解説し始めた。それはアルトにとって致命傷になる……。


「アルトくんはなんとエスパーのスキルを3つも使えるの! 透視、時間停止、透明化よ!」

「女神様。ちょっと解説止めてもらえますか?」

「え? アルトくん、なんで!?」

「すごく悪い予感がするからです……」

「なんでよ! 透視ってのはわかりやすく言うと盗撮に使えるわ! 時間停止はよくある企画ものAV。あと透明化で女子風呂に入るとかもあるわね。どれも素晴らしいじゃない!」

「ちっとも素晴らしくねーんだよ! 俺だってわかってんだ!」


 またもや聖女パーティの面々がしかめっ面になった。特に聖騎士シャインが汚物を見るような目でこちらを睨んできた。


 聖騎士シャインが聖女ヴィオレッタの前に立つ。その姿は聖女の盾だった。ぐぬぬ……と唸るしかない。


 いくら透視能力を手に入れたからといって、年がら年中、それを使うわけではない。なるべく……なるべくなら聖女パーティの役に立つように、これらのスキルを使いたいと思っている。


 しかし、ますますシャインの眼力が強まった。彼女の後ろにいるヴィオレッタもジト目だ。


(くぅ! こっちをめっちゃ疑ってやがる! なんでだよ! 俺は……俺はぁ!)


 一触即発の雰囲気がお互いの間に流れる。向こうの気持ちは痛いほどわかる。そりゃ、今のこの瞬間も透視能力が使われていると思えば気味悪いだろう。


 だが、女神に誓って、自分は透視能力をほんのちょっとしか使っていない。聖女の盾となっている聖騎士様の鎧だけを透かして見ているだけだ。


 これにも立派な理由がある。シャインが武器を隠し持っていないかの確認だ。決してでっかいおっぱいを鎧下の服の上からたっぷりねっとり確認しているわけではない!



「ちょっと! なんで今にも喧嘩を始めそうになってるの!? アルトくんはエスパーなの! 薄気味悪いのはわかるけど、彼のスキルをもっと丁寧に解説するね?」

「女神様!? ちょっと待って!? これ以上、状況を悪くする気ですか!?」


 女神に待ったをかけたが女神はすらすらとアルトのスキルを解説し始めた。透視Lv1は服1枚を透視する程度であり、モロに見えているわけではない。


 しかも透視Lv1の場合は一度に透視できる対象はヒト一人に限るとまで言ってくれた。


 女神のスキル講座はありがたい……。だが、その解説がますますシャインを激昂させた。


「ヴィレ! 拙者の後ろに隠れるんだ! 今まさに透視能力を使っているはずだ! 拙者は重装甲ゆえに、この痴れ者の透視をある程度抑えられる!」

「わかった。シャイン。私を守ってね!」

「ああ、ヴィレ。貴女の透き通るような肌をこいつに絶対に見せはしない!」

「チョマテヨ! 俺はそんなことのためにスキルを使わねえよ!?」

「なんだと!? ヴィレの裸に興味がないというのか!? こんなに可憐な美少女なのにか!?」

「お、おう!? それ、ヴィオレッタさんを透視しろっていう振りなんですか!?」

「こいつーーー!」


 シャインは激昂していたが、その場からは動けないようだった。それもそうだろう。こちらは透視能力を保持している。


 彼女が下手に動いて、こちらの視線がヴィオレッタに向けば、何のために彼女がヴィオレッタの盾になったのかわからなくなる。


 睨み合いの時間が過ぎていく……。永遠にこれが続くかと思われた。だが、この場を収めようと女神が動いた。


「はい。アルト・キサラギくん。貴方は聖女に危害を加える可能性があるわ。とりあえず……追放よ!」

「チョマテヨ! とりあえずで追放するのやめてくれませんか!?」

「そうでもしないと、この場が収まらないじゃな~~~い♪」


 女神が錫杖を振るう。それと同時にこちらの身体が光に包まれた。次の瞬間、視界がぐるりと反転する。


 ぐにゃりと景色が歪む。目を丸くしている間に、自分は違う場所に飛ばされてしまう……。


◆ ◆ ◆


「ちくしょう……ちくしょう」


 アルト・キサラギは無一文で街の一角へ飛ばされた。肩をがっくしと落としながら、トボトボと中世ヨーロッパ風の街並みを歩く。


 行く当てもない。お腹が空いてきたというのに、食べ物を買う金もない。足取りが重い。どこへ向かうべきかもわからないというのに、それでも歩き続けた。


 やがて、心が折れて、その場でしゃがみ込む。体育座りになって、膝の間に頭を突っ込んで、そのまま動くことをやめた。


 自分がそんな状態だというのに街を行く人々は足を止めようともしなかった。


(俺が何をしたってんだよぉ! もう、お家帰りたいよぉ!)


 どん底の状況だった。自分が使えるスキルは透視、透明化、時間停止の3つだ。この状況をどうにかできるスキルではない。


 涙が溢れてきそうになった。自分は男だろ! と制服の裾で涙を無理矢理拭き取る。このまま、しょげていても何も起きない。


 飢え死にする前に、この3つのスキルで今の状況から突破する方法を模索しなければならない。


 頭を上げる。全てを喰らいつくしてやらんという憎悪の籠った目で、こちらを無視して歩く人々を睨みつけてやった。


 それでも、誰もこちらに無関心を装っていやがった。


「んもう。そんな目をしちゃダメ♪」

「って、女神様!?」

「探したわよ」

「うう……女神様ぁ!」


 女神がこれでもかと優しいオーラをその身からあふれ出していた。荒んだ心が癒される。女神に抱き着き、彼女のローブの胸元へ顔面を思い切りこれでもかとうずめた。


 それでも一切、女神は拒否感を出してこない。ならばとグリグリと頭をもっと胸の谷間にうずめてやった。


「ぱふぱふ……ぱふぱふ」

「うふふ。さっきはごめんね? でも、ああしないと、アルトくんがシャインちゃんに斬られる可能性があったから」

「ぱふぱふ……ぱふぱふ」

「んもう。赤ちゃんみたい。お腹空いたでしょ?」


 女神の胸の谷間に頭をうずめたまま、こくこくと頷いた。よしよしと女神がこちらの頭を撫でてくれる。


 女神がこちらから少しだけ距離を取る。寂しい顔をしていると、女神がニッコリとほほ笑んでくれた。


 女神がこちらの手を取り、手のひらの上に革袋を置いてくれる。


「わたくしが聖女たちを説得しておくわ。はい、これ生活費。アルトくん、これで数日しのいでね?」


アルトは生活費として女神から1万ゴリアテをもらえた。


「ついでにいうとトイチだからね?」


――トイチ。十日で一割の略で、非常に高金利であることを指す言葉だ。10日で1割の利息を取ると、年間で約365%の金利となる。よい子の皆は引っかからないように注意だぞ☆彡


「今時のサラ金でもそこまでじゃないでしょ!?」

「学割利かせとく? リボ払いもお勧めよ!」

「じゃあ、リボ払いでお願いしまーす!」


 アルトは追加でもう1万ゴリアテ、女神から借りることになった。


 これで飢えを凌げる。アルトは心底ホッとした。


 今の彼は女神のパフパフと空腹によって思考能力がかなり落ちていた……。


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