二日目の収録が終了し、再び「花渡しコーナー」の時間となった。
一日目とは異なり、今回は男性ゲストが気になる女性ゲストに花を贈る番だ。
予想通り、東雲たくま、東雲明海、九条天闊の花は全て篠宮初音の元へと届けられた。
三井健治に関しては、誰もが彼も篠宮初音を選ぶだろうと思っていた。
様々な視線が交錯する中、三井健治は篠宮初音の前に立ち、笑顔で言った。
「お姉さん、今日のデートは楽しかったけど、この花はあなたにあげられないんだ」
そう言うと、健治はアンナの方へ歩み寄り、花を手渡した。
アンナは驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。
数え切れないほど花を受け取ってきた彼女だが、一輪の花にこれほど胸を躍らせたのは初めてだった。
まあ、自分も完全な引き立て役じゃないんだな、とほっとする。
年下のイケメンも悪くない、と思った。
ルールでは、花を受け取った女性ゲストは翌日、花を贈った男性ゲストとデートすることになっていた。
篠宮初音は花束を三つ受け取ったが、選べるのは一人だけだ。
東雲たくまたち三人は緊張していた。
篠宮初音は実は誰ともデートしたくなかったが、どうしても選ばなければならないなら...
夜、初音は部屋のカメラを黒い布で覆った。
昼間は撮影されても構わないが、夜のプライバシーは晒したくなかったのだ。
スーツケースからパジャマを取り出し、浴室へ向かう。
バスタブには既にお湯が張られていた。
衣服を脱ぎ捨てると、剥きたての卵のような滑らかな肌が灯りの下で白く輝いた。
バスタブに浸かり目を閉じたが、リラックスしたのもつかの間、携帯が鳴った。
松本玲子からの電話だった。
「もしもし、松本さん」
電話の向こうの松本玲子も湯船に浸かりながら、傍らにワインを味わいながらくつろいでいた。
「初音ちゃん、そっちはどう?四人の中に気になる人はいるの?」と。
気になる人どころか、むしろ驚かされることばかりだと、篠宮初音は言いたかった。
「何かあったの?」沈黙が続くのを不審に思った松本玲子が尋ねた。
「松本さん...男性ゲストの中に、元夫のたくまがいます」
松本玲子は即座に姿勢を正し、思わず罵声を漏らした。
「あのクズが番組までストーカーしているの?こんな番組、続けられないわ!」
篠宮初音は他の二人の元求愛者もいること、修羅場のことを伝えなかった。
「今から退出できますか」初音は恐る恐る聞いた。
「初音ちゃん、もう二日も収録したんだから。途中で辞めたら違約金を払うだけでなく、評価が下がる可能性もあるわ。もう少し我慢できない?松本玲子は困ったように言った。」
「分かりました、松本さん。ただ聞いてみただけです」
電話を切り、再び目を閉じたが、九条天闊の姿が頭に浮かんだ。
結局、初音は九条天闊を選んだ。
喜ぶ者もいれば、がっかりする者もいる。
最も喜んだのは言うまでもなく九条天闊だった。
翌日、九条天闊は早起きしたが、篠宮初音は彼よりも早く起きて、キッチンで朝食の準備をしていた。
天闊はキッチンに入って手伝おうとしたが、篠宮初音に断られた。
九条天闊はそれ以上強要せず、リビングのソファに座って水を飲みながら、視線だけはキッチンで忙しく動く彼女の後ろ姿を追った。
それでも物足りず、天闊はグラスを置くと、ガラスの壁を越しに初音をじっと見つめた。
その視線は露骨で熱く、溢れんばかりの愛に満ちていた。
篠宮初音は気づかないはずがない。
ただ、気づかないふりをして作業を続けただけだ。
他のゲストがまだ起きていない、二人は先に朝食をとった。
スタッフが傍にいないとはいえ、家中にカメラが設置されているため、互いに一定の距離を保っていた。
「スイートハートさん、もうデートに行きませんか?」
九条天闊が食器を洗い終わると、ようやく口を開いた。
この機会を大切に思っていた天闊は、たとえ番組の企画であっても内心の興奮を抑えきれなかった。
邪魔されたくなかったので、他のゲストが起きる前に、まずは撮影クルーを撒くつもりだった。
詳しい計画については、篠宮初音には伝えなかった。
言えば間違いなく拒否されるからだ。
初デートの前夜、九条天闊はわざわざネットでデートプランを調べた。
買い物、映画、食事、ハイキング、博物館巡り...ハイキングは足に良くないので、まずはどうにかして撮影班を振り切る方法を考えた。
ショッピングモールは10時開店だったので、天闊の提案で二人は公園へ向かった。
公園は朝の体操をするお年寄りでいっぱいだった。
二人は当てもなく歩き、一言も交わさない様子に、付き添うスタッフは頭を掻きむしりたくなった。
これではデートシーンとして使えない。
まさか「沈黙は金」が流行っているのか?
篠宮初音は、九条天闊の指が時折自分の手に触れるのを感じた。
ひんやりとした、しかし痺れるような痒みを伴う感触だった。
しばらく歩いた後、「九条さん、少し疲れたので、あそこで少し休みませんか?」と天闊の足が心配になった篠宮初音は提案した。
公園の休憩所で、二人は石のベンチに腰を下ろした。
撮影スタッフは近寄らず、遠くから撮影していたため、柱に隠れてしっかりと握り合った二人の手には気づかなかった。
篠宮初音は一度手を引こうとしたが、結局抵抗するのをやめ、天闊に握らせたままにした。
どういうわけか、初音は九条天闊に対してだけは、幾分か寛容になってしまうのだった。
「初音、会いたかった」
この二日間ずっと会っていたのに、今こうして隣に座り、自分の手に握られているというのに、それでも尚、天闊は会いたいという想いを抑えられなかった。
どうしてこんなにも初音を愛してしまうのだろう?