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第65話

二日目の収録が終了し、再び「花渡しコーナー」の時間となった。


一日目とは異なり、今回は男性ゲストが気になる女性ゲストに花を贈る番だ。


予想通り、東雲たくま、東雲明海、九条天闊の花は全て篠宮初音の元へと届けられた。


三井健治に関しては、誰もが彼も篠宮初音を選ぶだろうと思っていた。


様々な視線が交錯する中、三井健治は篠宮初音の前に立ち、笑顔で言った。


「お姉さん、今日のデートは楽しかったけど、この花はあなたにあげられないんだ」


そう言うと、健治はアンナの方へ歩み寄り、花を手渡した。


アンナは驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべた。


数え切れないほど花を受け取ってきた彼女だが、一輪の花にこれほど胸を躍らせたのは初めてだった。


まあ、自分も完全な引き立て役じゃないんだな、とほっとする。


年下のイケメンも悪くない、と思った。


ルールでは、花を受け取った女性ゲストは翌日、花を贈った男性ゲストとデートすることになっていた。


篠宮初音は花束を三つ受け取ったが、選べるのは一人だけだ。


東雲たくまたち三人は緊張していた。


篠宮初音は実は誰ともデートしたくなかったが、どうしても選ばなければならないなら...


夜、初音は部屋のカメラを黒い布で覆った。


昼間は撮影されても構わないが、夜のプライバシーは晒したくなかったのだ。


スーツケースからパジャマを取り出し、浴室へ向かう。


バスタブには既にお湯が張られていた。


衣服を脱ぎ捨てると、剥きたての卵のような滑らかな肌が灯りの下で白く輝いた。


バスタブに浸かり目を閉じたが、リラックスしたのもつかの間、携帯が鳴った。


松本玲子からの電話だった。


「もしもし、松本さん」


電話の向こうの松本玲子も湯船に浸かりながら、傍らにワインを味わいながらくつろいでいた。


「初音ちゃん、そっちはどう?四人の中に気になる人はいるの?」と。


気になる人どころか、むしろ驚かされることばかりだと、篠宮初音は言いたかった。


「何かあったの?」沈黙が続くのを不審に思った松本玲子が尋ねた。


「松本さん...男性ゲストの中に、元夫のたくまがいます」


松本玲子は即座に姿勢を正し、思わず罵声を漏らした。


「あのクズが番組までストーカーしているの?こんな番組、続けられないわ!」


篠宮初音は他の二人の元求愛者もいること、修羅場のことを伝えなかった。


「今から退出できますか」初音は恐る恐る聞いた。


「初音ちゃん、もう二日も収録したんだから。途中で辞めたら違約金を払うだけでなく、評価が下がる可能性もあるわ。もう少し我慢できない?松本玲子は困ったように言った。」


「分かりました、松本さん。ただ聞いてみただけです」


電話を切り、再び目を閉じたが、九条天闊の姿が頭に浮かんだ。


結局、初音は九条天闊を選んだ。


喜ぶ者もいれば、がっかりする者もいる。


最も喜んだのは言うまでもなく九条天闊だった。


翌日、九条天闊は早起きしたが、篠宮初音は彼よりも早く起きて、キッチンで朝食の準備をしていた。


天闊はキッチンに入って手伝おうとしたが、篠宮初音に断られた。


九条天闊はそれ以上強要せず、リビングのソファに座って水を飲みながら、視線だけはキッチンで忙しく動く彼女の後ろ姿を追った。


それでも物足りず、天闊はグラスを置くと、ガラスの壁を越しに初音をじっと見つめた。


その視線は露骨で熱く、溢れんばかりの愛に満ちていた。


篠宮初音は気づかないはずがない。


ただ、気づかないふりをして作業を続けただけだ。


他のゲストがまだ起きていない、二人は先に朝食をとった。


スタッフが傍にいないとはいえ、家中にカメラが設置されているため、互いに一定の距離を保っていた。


「スイートハートさん、もうデートに行きませんか?」

九条天闊が食器を洗い終わると、ようやく口を開いた。


この機会を大切に思っていた天闊は、たとえ番組の企画であっても内心の興奮を抑えきれなかった。


邪魔されたくなかったので、他のゲストが起きる前に、まずは撮影クルーを撒くつもりだった。


詳しい計画については、篠宮初音には伝えなかった。


言えば間違いなく拒否されるからだ。


初デートの前夜、九条天闊はわざわざネットでデートプランを調べた。

買い物、映画、食事、ハイキング、博物館巡り...ハイキングは足に良くないので、まずはどうにかして撮影班を振り切る方法を考えた。


ショッピングモールは10時開店だったので、天闊の提案で二人は公園へ向かった。


公園は朝の体操をするお年寄りでいっぱいだった。


二人は当てもなく歩き、一言も交わさない様子に、付き添うスタッフは頭を掻きむしりたくなった。


これではデートシーンとして使えない。


まさか「沈黙は金」が流行っているのか?


篠宮初音は、九条天闊の指が時折自分の手に触れるのを感じた。


ひんやりとした、しかし痺れるような痒みを伴う感触だった。


しばらく歩いた後、「九条さん、少し疲れたので、あそこで少し休みませんか?」と天闊の足が心配になった篠宮初音は提案した。


公園の休憩所で、二人は石のベンチに腰を下ろした。


撮影スタッフは近寄らず、遠くから撮影していたため、柱に隠れてしっかりと握り合った二人の手には気づかなかった。


篠宮初音は一度手を引こうとしたが、結局抵抗するのをやめ、天闊に握らせたままにした。


どういうわけか、初音は九条天闊に対してだけは、幾分か寛容になってしまうのだった。


「初音、会いたかった」


この二日間ずっと会っていたのに、今こうして隣に座り、自分の手に握られているというのに、それでも尚、天闊は会いたいという想いを抑えられなかった。


どうしてこんなにも初音を愛してしまうのだろう?

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