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第64話

東雲たくま、東雲明海、九条天闊がデート相手をほどいて駆けつけてくる様子に、番組スタッフは驚きつつも納得していた。


これこそが彼らが望んでいた修羅場だったのだから。


普通の人なら、この状況に圧倒されるところだろう。


だが三井健治は恐れるどころか、むしろ面白がっているようで、口元に戯けいた笑みを浮かべた。


「これは僕とお姉さんのデートですよ。皆さんがついてくるのはちょっと違うんじゃないですか?」と。


その「お姉さん」という呼び方に三人の表情が一瞬で険しくなり、ナイフのような視線が三井健治へと向けられた。


もし目線で殺せるとしたら、健治はとっくに千切りにされていただろう。


「そうでしょう、お姉さん?」

三井健治はさらに危ない線を踏み越えようとした。


篠宮初音は健治がただいたずらしたいだけだとわかっていた。


自分に対する特別な感情などない。


健治が「お姉さん」と呼ぶなら、初音も一応に姉の役を演じてやるつもりで言った。


「確かにちょっと違うわね」


場にいる四人の男の中で、三井健治だけが楽しそうに笑い、わざとらしく他の三人の青ざめた顔を眺めて挑発していた。


「じゃあお姉さん、行きましょうか?中華料理と西洋料理、どっちがいい?」


三井健治は紳士的に手を差し伸べ、周囲の緊張感を完全に無視した。


東雲たくまの目には炎が見えるほどだったが、東雲明海にしっかり手首を掴まれていた。


公衆の面前で暴れ出すのを懸念してのことだ。


九条天闊の視線は終始篠宮初音に注がれていたが、初音はまともに見ようともしなかった。


初音が天闊らの三人に諦めてほしいと思っていることはわかっていた。


だが感情などそう簡単に断ち切れるものだろうか?


初音は愛さなくてもいいかもしれないが、天闊は彼女を愛することをやめられない。


死んでも無理だった。


三井健治は気遣いを見せ、篠宮初音のために車のドアを開け、身を乗り出してシートベルトを締めてやった。


前窓から見ると、まるでキスをしているようにも見えた。


東雲たくまは我慢の限界に達し、東雲明海の手を振り払って車の窓を叩き割り、三井健治を引きずり出して殴りつけようとした。


「東雲たくま、お前は拳でしか問題を解決できないのか?」九条天闊の声には嘲笑が混じっていた。


「初音のことをそんな風にしか見られないのか?」


「何が言いたいんだ?」

東雲たくまは振り向いて彼を睨んだ。


「お前は彼女を信頼もせず、理解もせず、一人の人間として尊敬すらしていないということだ」九条天闊は冷たく言い放った。


あの光景を見て、天闊も不快ではあったが、キスだと誤解はしなかった。


東雲明海も同様だ。


だが東雲たくまの第一反応は「二人がキスしている」というものだった。


どれだけ口で綺麗事を並べても、根底では初音を理解も信頼もしていないということだ。


この言葉は東雲たくまの痛い所を突いた。


怒りに燃え上がりつつも、認めざるを得なかった。


自分が根本から変わらない限り、永遠に初音を取り戻せないのだと。


三井健治はわざと車をゆっくり走らせ、後ろの三台も同じ速度でぴったりとついてきた。


バックミラーを見ながら、彼は口元を緩めて言った。


「お姉さん、あの人たちずっとついてくると思う?」


健治はただ見たかったのだ。


この三人の男が、妻を取り戻すためにどこまでやれるのかを。


篠宮初音は何も言わず、眉をひそめるだけだった。


できるだけ無視するしかなかった。


二人が中華料理店に入ると、三人も続いて入店し、それぞれ少し離れたテーブルに座った。


「お姉さん、一つ質問いいですか?」

店員が去った後、三井健治が突然口を開いた。


外見は大人しい子犬のようだが、根っこには凶暴な狼の血が流れている。


一度牙を剥けば決して情けはない。


だが篠宮初音は気にしていなかった。


「聞きなさい」


「あの三人の男、お姉さんはどれが好き?東雲たくま?東雲明海?それとも九条天闊?」


答えを待たず、健治は勝手に話し続けた。


「東雲たくまは短気で、傲慢で女を馬鹿にしているだし、多分DV傾向もある。お姉さんには向いてないよ」


「それで?」

篠宮初音は突然笑みを浮かべ、興味深そうに聞いた。


この笑顔を見て、東雲たくまたち三人の胸は締め付けられた。


いったい何を話して、あんなに楽しそうに笑わせているのだ?


「東雲明海は東雲たくまよりマシだ。ハンサムだし、性格も悪くない。でもお姉さんは彼のことは好きにならないと思う」

三井健治はますます調子に乗った。


「どうして相思うの?」

篠宮初音はコップを手に取り、一口飲んでから聞いた。


「男の勘だよ」三井健治は考え込むふりをした。「絶対に脈なしだってことだけはわかる」


残るは九条天闊だけだ。


なぜか篠宮初音は天闊に関する評価を少し待ち遠しく感じていた。


「九条天闊は三人の中で一番いい選択だね」三井健治は真剣な表情になった。


「ハンサムなのはもちろん、穏やかだし。彼のお姉さんを見る目……僕でも感動しちゃうよ。まるでお姉さんが彼の全世界で、一生君だけを愛し続けるって感じ。僕は思うんだ、お姉さんもいつか彼を愛するようになるって」


「で……どうしてそう思うの?」

篠宮初音の胸が揺れた。


コップを握る手に知らず知らず力が入り、指の関節が白くなった。


「そんな金持ちで一途な男に、どんな女が抵抗できるんだ?」三井健治は肩をすくめた。「今は抵抗できても、時間が経てばきっと落ちるよ。でも安心して。彼は絶対にお姉さんを裏切らない。死ぬまで愛し続けるだろうね」


篠宮初音は思わず九条天闊の方を見た。


視線がぴたりと合う。


三井健治の「時間が経てばきっと落ちる」という言葉が、頭の中で何度も反響していた……

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