三井健治はゲストの中で最年少で、わずか21歳だった。
しかしeスポーツ界では、この年齢はもはや若くない。
一般的に24、25歳で引退するのが常だ。
健治の目標は明確だった。
引退前にチームを世界チャンピオンに導くこと。
篠宮初音は健治を単なる弟分としか見ておらず、この仮のカップル設定をまったく気に留めていなかった。
むしろ、番組収録中は可能な限り三井健治と組もうと考えていた。
もちろん、健治が同意すればの話だが。
二人は当てもなく歩き回り、その注目度は驚異的だった。
「あれ、三井健治さんじゃん?隣の女の子は誰?彼女?」
「恋人って感じじゃないよ。後ろにカメラマンがいるから、番組の収録でしょ?」
「もしかして『ハートシグナル』?三井健治が出るなんて思わなかった!」
「リーク画像見たよ!アンナと鈴木早紀もいるし、男性ゲスト全員超イケメン!」
「今シーズンの見た目レベルやばい!絶対追う!」
周囲の噂話が絶えなかったが、二人はまったく動じない。
三井健治が突然口を開いた。
「お姉さん、暑いからどこかで休まない?」
「お姉さん?」篠宮初音は一瞬たじろいだ。
「今、私を何て呼んだ?」
「お姉さんですよ」三井健治は当然のように言い放った。
「僕21歳で、お姉さん23歳でしょう?お姉さんって呼んでも問題ないでしょ?」
単なる呼び方にすぎない。
篠宮初音は特に気にせず、黙って認めた。
「いいよ、少し休もう」
「じゃあ、ついてきて」
三井健治はそう言うと、彼女の手首を掴んで歩き出した。
周囲の女子たちから一斉に歓声が上がる。
「このカップルめっちゃ可愛い!幸せになってね!」
健治は初音をスイーツショップに引きずり込み、ようやく手を離した。
「お姉さんは座ってて。僕が買ってくる。何がいい?」
「何でも」
三井健治は苺のサンデーを2つ持って戻ってきた。
店内は瞬く間に人で埋まり、店の外にもファンが集まっていた。
健治はすでにこうした状況に慣れているようで、篠宮初音も特に気にしている様子はなかった。
「お姉さん、なんでマスクしてるの?」
三井健治は興味深そうに尋ねた。
「もしかして、美しすぎて誰かに連れ去られちゃうのが怖いから?」
「でもマスクしてても十分きれいだよ。あの三人だってお姉さんを奪い合ってるじゃん」
数時間一緒に過ごして、篠宮初音の健治に対する印象は変わっていた。
表では軽薄で無害そうな外見、人当たりも良いが、どこか一線を引いているような感じがした。
健治の生活に、いや、心に近づくのはおそらく難しいだろう。
だが、健治がどんな人間かなんて、自分には関係ない。
篠宮初音は返事をせず、三井健治もそれ以上追及しなかった。
お姉さん、クールで高嶺の花だな……
健治は心の中で呟き、マスクの下の顔にますます興味をそそられた。
三人の社長が仕事を放り出してまで追いかけるほどなら、きっと驚くほどの美人に違いない。
二人のデート写真はすぐにネットに拡散され、特に三井健治が篠宮初音の手首を掴んでいるショットは爆発的にシェアされた。
「三井健治選手かっこよすぎ!めっちゃ男前!」
「あの女なんでマスクしてるの?意味わかんない。ブスだから顔出せないの?」
「それ嫉妬?輪郭だけでも美人だってわかるだろ!」
「マスク外さないのは絶対ブスだから。うちの三井健治選手に釣り合わない!」
「いつの間に三井健治選手がお前のものになったんだよ?」
ネット上は大騒ぎだったが、当人たちは何も知らない。
東雲たくまがその写真を見たとき、肺が張り裂けそうなほど激怒した。
三井健治なんて脅威でも何でもないと思っていたのに、まさかここまで油断ならない奴だとは!すぐに向かわなければならない。
映画館では、ホラーシーンになるたびに鈴木早紀が東雲明海に寄りかかってきた。
紳士として彼女を突き放すわけにもいかず、東雲は我慢していたが、彼女の濃い香水の匂いにはうんざりしていた。
「鈴木さん、すみません。ちょっとトイレに」
健治は急に立ち上がり、スクリーンから離れた。
トイレには行かず、東雲明海はスマホを開き、三井健治と篠宮初音の写真を確認すると、スタッフに一声かけてその場を後にした。
同時刻、カフェにいた九条天闊もその写真を見て、すぐにスイーツショップへ向かった。
スイーツショップでは、三井健治は大人しい子犬のように、篠宮初音に細やかな気遣いを見せていた。
「お姉さん、動かないで」
篠宮初音が理解する前に、健治は初音の口元に付いたクリームを指で拭った。
「クリーム、ついてたよ」
この仕草は周囲から見れば十分に甘く映り、女子たちがきゃぎゃ騒いだ。
「こういうの、好きじゃない」しかし篠宮初音は眉をひそめた。
「ごめん、お姉さん。もう二度としない」三井健治はすぐにしょんぼりとした。
初音は何も言わず、ただ番組の収録が早く終わればいいと思った。
もともとクールな性格で、人と親しくなるのも、近づかれるのも好きではなかった。
三井健治は少し落ち込んだが、すぐに元気を取り戻した。
「お姉さん、そろそろご飯の時間だよ。何が食べたい?」
「何でもいいよ」
その瞬間、影が差し込んだ。
三人の背の高い男が三井健治の周りに立ち、冷たい空気が彼を包み込んだ。
危険で圧倒的な存在感だった。