空が暗くなり、三井健治とアンナはデートを終えてバケーションハウスに戻っていたが、篠宮初音と九条天闊はまだ帰っていなかった。
東雲たくまは落ち着きを失い、焦燥感に駆られながらも二人の行方がわからず、じたばたするしかなかった。
一方、篠宮初音はディナーを終え、九条天闊に手を引かれ、目隠しをされたまま一歩一歩進んでいた。
「九条さん、どこに連れて行くの?」撮影スタッフがいるため、初音はまだ「九条さん」と呼んでいた。
「着いたらわかる。目を開けないで」
「いいよ」という天闊の声で初音が目を開けると、目の前にはビルの屋上が広がっていた。
質問する間もなく、「ドーン」という音とともに、無数の花火が夜空に咲いた。
この壮大な花火の雨に、普段冷静な篠宮初音でさえ心を揺さぶられた。
初音の手は九条天闊に握られたまま、いつの間にか指を絡めていたが、初音は気づいていなかった。
花火が次々と打ち上がる轟音の中、九条天闊の「篠宮初音、愛してる」という言葉はかき消されそうだったが、初音の耳にははっきりと届いた。
これは天闊が二度目に「愛してる」と言った瞬間だった。
初音の心は再び震えた。
しかし、初音は天闊に何の返事もできない。
花火はまる1時間続き、どんなに眩い光もいつかは消える。
まるで熱い恋のように、終わりが来るかもしれない……
篠宮初音が戻らないため、東雲たくまは仕事に集中できず、夜のオンライン会議をキャンセルした。
ベランダでタバコを吸いながら、ようやく彼女の姿を見つけた時、彼の表情は一瞬和らぐが、すぐに何かに気づき、以前より陰鬱で恐ろしい形相に変わった。
4日目の収録では、番組スタッフがデート相手を抽選で決めることにした。
午前と午後の2回に分けて行われる。
篠宮初音が最初に抽選し、午前は東雲明海、午後は東雲たくまとなった。
彼女は思わず眉をひそめ、番組スタッフが誰かに指示を受けて、わざとこんな仕組んだんじゃないかと疑った。
スタッフがたくまと明海と彼女をデートさせるため、苦心したのだろう。
東雲たくまは半日しかないことに不満だったが、文句は言わず、午後を大切にしようと考えた。
アンナは2番目に抽選し、午前が九条天闊、午後が三井健治で、どちらも満足だった。
鈴木早紀は午前が三井健治、午後が東雲明海、白石香澄は午前が東雲たくま、午後が九条天闊となった。
最終的なスケジュールは以下の通り:
篠宮初音:午前→東雲明海、午後→東雲たくま
アンナ:午前→九条天闊、午後→三井健治
鈴木早紀:午前→三井健治、午後→東雲明海
白石香澄:午前→東雲たくま、午後→九条天闊
東雲明海は待ちに待った篠宮初音とのデートに興奮を隠せなかった。
短い時間だが、明海は初音を山登りに連れて行った。
初音は特に不満もなく、汗をかくのもいいと思ったが、撮影スタッフはヘトヘトになり、息を切らしていた。
山の中腹でスタッフが休憩する中、初音と明海は登り続けた。
明海はよく山に登り、初音と一緒に来ることを夢見ていた。
初音も日頃のランニングで体力があり、辛くても頑張れた。
「大丈夫、自分でできる」明海が手を差し伸べると、初音は避けた。
明海の心は一瞬沈んだ。
もし九条天闊が手を出したら、彼女は拒否しただろうか?
昨夜、彼は東雲たくまと同じようにベランダで待ち、九条天闊が初音を抱きしめるのを見た。
そして、初音はすぐには離さなかった……
初音が先に進むと、明海は我に返り、気持ちを整えた。
初音が九条天闊を受け入れていない限り、まだチャンスはある。
急いで追いつき、二人は山頂に立った。
息を整えた後、明海はタオルを渡し、ペットボトルの蓋を開けた。
初音は礼を言い、汗を拭って水を飲んだ。
すると、明海は突然両手を広げて叫んだ。
「初音、愛してる! 聞こえたか……?」
これは明海の2度目の告白だったが、九条天闊の時とは違う何かを感じた。
初音は言葉を探したが、明海は彼女の唇に指を当てた。
「何も言わなくていい。望む答えじゃないなら」
しかし、初音の沈黙そのものが答えだった。
明海は理解したようで、したくなかったようだ。
午前のデートが終わり、12時になると東雲たくまが初音を連れ去った。
たくまは初音をA大学へ連れて行き、二人の思い出に浸ろうとした。
「初音、ここには俺たちの大切な思い出がたくさんある。覚えてるか?」
しかし、初音にとってそれらの思い出は「屈辱」でしかなかった。
たくまがA大学に来たのは、いつも白石香澄のためで、初音はプライドを捨てて我慢してきた。
「東雲たくま、どうしてそれが私にとって『良い思い出』だと思うの? 屈辱でしかないわ」
たくまは言葉に詰まった。
「初音、俺は……」
「あなたがA大学に来たのはいつも白石香澄のため。私に与えたのは恥だけ」初音は遮った。「あなたのために、何度もプライドを捨てた」
初音はあの火事を思い出した。
確かに、たくまを愛していた時期もある。
でも、あの火事でたくまに命を救われていなければ、もう限界だったかもしれない。
しかし、もうどうでもいい。たくまに借りた命は、もう返した。
「たくま、あの火事、覚えてる?」