「どうしてこの世界は、こんなにも汚いのかな。」
学校帰り、田んぼの脇の細い道を、自転車を押しながら胡桃がつぶやいた。
妬み、屈辱、強欲、承認欲求、独占欲、執着、憎悪___
この世界は、あまりにも気持ち悪すぎる。
それを聞いた幼なじみの凪咲が、少し笑ってこう言った。
「人間はね、世の中の“仕組みを知りすぎたんだよ。」
「仕組みって?」
胡桃が首をかしげる。
「例えばさ、どうすればみんなに注目されるか、どうすればお金が稼げるか、どうすればあの子に勝てるか、どうすれば権力を持てるか.......
それって全部、“自分が満足する人生”を送るための計算だよね。その答えを、みんなもう知っちゃってるんだ。」
「知りすぎた、ってこと?」
「うん。たとえば、"目立ちたい”と思ったとき、どうすればいいか。
運動神経がずば抜けてるとか、めっちゃイケメンとか、面白いとか、
"こういう人が注目される”って、みんなもう分かってるの。
その条件に近づこうと必死になる。
だから汚い感情がむき出しになるんよ。」
胡桃は静かに頷いた。
「たしかに。条件をクリアしないと、“価値がない”みたいに扱われるもんね。」
「そう。だからこそ、みんな自分のことばっかり考えて、誰かと関わるときも、“目的”がなきゃ関わらない。」
「ほんと、生きづらい世の中だよね。」
「うん。」
凪咲は遠くを見つめていた。
その目には、もう希望なんて残っていないようだった。
この世界は、汚れている。
泥水よりも、ずっと濁っていて、醜い。
人との関わりさえ、打算でできている。
誰かの視線の奥にはいつも「自分のため」が見える。
結局、みんな自分のことしか考えていない。
そんな世界に失望しながら、それでも私は、今日も必死に生きている。