「おはよー、ご主人さま!」
「おはようございます、アーカンソー様」
「むっ、もう朝か」
ドラゴンメイド姉妹の挨拶で目が覚めた。
目をこすりながら身を起こすと、メルルがにっこりと笑う。
「いいえ、もうじきお昼が近いです」
「俺はそんなに長く寝ていたのかっ!?」
「本当はもっと早くにお声かけするつもりだったのですが……」
メルルの視線がウィスリーのほうに泳いだ。
「ご主人さまを起こさないであげてって、あちしが頼んだの」
申し訳なさそうに
メルルがすぐさま妹を庇うように前に出る。
「怒らないであげてください。この子なりにアーカンソー様の体調を思いやっていたのです。お叱りの言葉でしたら、務めを果たさなかった私に」
「いやいやいや! 別に叱ったりなんてしないとも。少し驚いただけだ。むしろ礼を言わねばなるまい。休ませてくれてありがとう、ウィスリー」
「……あい! それじゃ、あちしお出かけの支度してくるからーっ!」
ぱぁっと笑顔になったウィスリーが慌ただしく部屋を出て行った。
よっぽど今日のピクニックが楽しみだったんだな。
「さすがですね、アーカンソー様」
メルルが何故か褒めてくれた。
「何がさすがなんだ?」
「いえ、こちらの話です」
メルルは微笑みを浮かべたまま、何故かその場に凛々しく
ウィスリーの後を追う気配がない。
「あー、その。着替えたいので、そろそろ部屋を出てもらえると助かるのだが……」
いつまで待っても俺の横に控えているので、耐えかねて声をかけてみたところ。
「お手伝い致します」
「……え?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
何かの間違いだろうと考え直し、笑いながら首を横に振る。
「いやいや、着替えぐらいひとりでできるぞ。子供じゃないんだからな」
「そういうわけには参りません。まだ解呪の確認はできていませんが、仮にも主人と仰いだ方のお召し替えを手伝わないなど言語道断。ささ、どうぞお立ちになってください」
いったい何を言っているんだ?
「えっ、いや待ってくれ。布団の下は下着だけなんだ」
「失礼ながら、昨晩看病のために拝見させていただきましたので。今更恥ずかしがらずとも」
「それとこれとでは話が違う!」
「問答無用です!」
メルルにがばっと布団を取り上げられた。
下着一枚の下半身が晒される。
「ぬわっ! こ、こんな無体な!」
「さあ、観念してお召し替えを受け入れるのです!」
ううっ、なんてことだ!
メルルはウィスリーと違ってグイグイ来るタイプだぞ!
「クッ、許せメルル!」
指を打ち鳴らして
いつもの漆黒のローブが俺の身を包み込む。
「ああっ、そんな! 殿方の初お召し替えタイムが……」
それまでのメルルが嘘のように、しおしおとしおれてしまった。
そんなに俺の着替えを手伝いたかったのか……?
「すまないが、俺もまだ君の主人としての心構えも覚悟もできていないんだ。だから、そう。いずれな」
「……本当ですか? 本当ですね? 信じてますからね?」
メルルの顔がずずいっと迫る。
「まさかと思うが、おかしな下心はあるまいな?」
さすがに怪しく思えてきたので探りを入れてみると、メルルはぴくりと体を震わせた後でコホンと咳払いをした。
「……そのようなことは決して。アーカンソー様の大胸筋が固そうだなとか、僧帽筋の曲線が美しくて触れてみたいなとか、考えておりませんとも」
そうか、メルルは筋肉好きだったのか……。
てっきりお堅い真面目な性格とばかり思っていたが、出会って二日目で残念な一面を見せつけられるとは。
「そこまで触りたいなら別にいつでも触らせてやるが……」
「ほ、本当ですか!? あ、いえっ! 違うんですけど! 全然そういうわけじゃないんですけど、殿方の肌を間近で見たのが初めてでしたので! 物珍しさから、つい……」
「男の裸を見たことがないのか?」
「そうですね。お屋敷には女性しかおりませんでしたので。男子は大人になる前にほとんどが巣立ちますから、見たことのある男性は子供ばかりで……」
うーむ。
それならどうやって新しい子供が生まれてるんだとか、聞きたいことはいくらでも頭に浮かんでくるが……。
要するに俺の裸にも懸命に平気なフリをしているだけで、実はあまり免疫がないのか?
そう思うとメルルが途端に可愛らしく見えてくるな。
「わかった。そういうことであれば俺も覚悟を決めよう」
俺はメルルのほうに手を伸ばした。