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悪役令嬢の日常は続く

 巨大化した女神マルタはゴリアテッサ様が召喚した四台の鉄の車に次々に突撃され爆発四散した。

 その後空に浮かんだ彼女の姿は魔法で作られた偽物で騒乱を求めた邪神教団の残党の仕業だと発表された。

 お陰で今日も校舎横のゴリアテッサ様の像の横に女神マルタの像は仲良く並んでいる。


「フ、フン!たまたま通り道だったから寄って上げただけなんですからね!!!」

「悪役令嬢養成学校はここから山二つ向うにあるが、足腰を鍛えよという課題でも出たのか?」

「そ、そうよ!!別にアンタに会いに来たわけじゃないんだから!!!」


 薔薇の香りに包まれた生徒会室。そこに明らかに異質な存在が新しく加わった。

 他校の制服を身に纏った有翼の少女だ。名前はマルタじゃなくて今はマルグレーテというそうだ。

 女神マルタはゴリアテッサ様の召喚魔法に撃墜され敗北した。ちなみに鉄の車はゴリアテッサ様の拳で粉砕された。

 その後宣言通り彼女を下僕にしたゴリアテッサ様は一つの命令を彼女に下した。『邪神教団の犠牲者になった者を全て生き返らせるように』と。

 そして奇跡は起こった。国中が喜び一色になった。両親と再会できたジューダス先生とマリアちゃんが一週間ほど里帰りしたのはつい最近のことだ。  

 しかしゴリアテッサ様の制裁によりボロボロになった上に、多くの命を蘇生させるという大仕事は女神の立場でも無理だったらしい。

 女神マルタは神力を失くし翼をもつだけの普通の人間になってしまったそうだ。

 だけど私アンジェリーナは正直それは事実なのかと少し疑っている。


「私をただの人間にした責任を取って、神力が戻るまで面倒見なさいよね!!!」

「だから悪役令嬢養成学校を紹介してやったではないか」


 あそこは札付きだろうが羽付きだろうが運命に抗う者を受け入れる。存分に鍛えるがいい。 

 そうゴリアテッサ様は子供をなだめるように告げた。


「貴様が天に戻れぬ間は我の飼い猫が代わりに神を代行する。だから安心してゆっくり学べ」


 人の心と人の業をな。そう雄々しさと優美さの両方を合わせ持った微笑がゴリアテッサ様の唇に浮かぶ。

 私がそれに見惚れるのは当然としても、元敵のマルグレーテまでうっとりとそれを見つめているのはどうなのだろう。

 もしかしたら彼女は天に戻れないのではなく、自分の意思で戻らないのではないだろうか。


「ゴリアテッサ・アイアンローズ、私が天に戻る時は貴女を伴りょ、ちがっ、召使として連れていくんだからね!!!」

「フッ、我を負かすことが出来たならそうするといいわ」

「じゅ、寿命待ちという方法だって使えるんだから!!!」

「それは狡いと思います!!!!」


 流石に黙って聞いていられない。私も会話に参戦する。


「ゴリアテッサ様の勝負というのは拳での勝負です。命のやり取りじゃありません!寿命待ちは反則負けです!!」

「な、何よ!元ヒロインの分際で生意気な!!!」

「今は貴女も人なのだから、そういう人を見下した言い方は駄目だっていつも言ってるでしょう?」

「フッ、悪役令嬢らしくはあるがな」


 しかし悪役令嬢を名乗るにはまだ優雅さと肝の据わり方が足りぬ。そう紅茶を飲みながらゴリアテッサ様は言う。

 それは礼儀作法の先生が満点をつけそうな完璧な所作だった。


「悪役令嬢たるもの、この世の全てを見下す程傲慢であるべきよ」


 そして事実、全てを見下せる存在であれ。そうゴリアテッサ様はティーカップを床に投げ捨て立ち上がる。

 同時に生徒会室の扉が勢いよく開けられた。


「ゴリアテッサ義姉さん!隣国ユルサーンで王子に三十人の令嬢と浮気された挙句冤罪で婚約破棄された公爵令嬢が破滅の魔神を召喚して城で大暴れしていると報せが入ったよ!!」

「さて、隣国の馬鹿どもと魔神の顔でも見に行くとするか」


 その者たちの首を部屋に飾るかどうかは気分次第よ。

 豪快かつ優雅に笑うゴリアテッサ様の背に私は声を投げかける。


「私も連れて行ってくださいゴリアテッサ様!!」

「べ、別に暇だから観光旅行に行くだけなんだからね!!!」

「好きにするがいい」


 持ち帰る土産は現地で決めるぞ。

 そう言い放つゴリアテッサ様の腕に隣国の公爵令嬢とチワワ化した魔神が抱えられるのは数時間後の事だった。



【完】


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