目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

13 シアの疑念

 俺はヴァンパイアロードを消滅させてからふと気づく。


「あ、消滅させちゃったけど、良かったか?」

「それは、構わないであります」

「なら、よかった」


 シアは深々と頭を下げた。


「ロックさん。ありがとうであります。これで一族の汚名をそそげたでありますよ」

「あ、メダルも切り裂いてしまったが、よかったのか?」

「分裂していても、大丈夫でありますよ」

「そうか」

「呪いまで払ってもらえて、助かったであります。解呪するのがとても大変でありますからな」

「随分と呪いが溜まっていたな。厄介なものを体に埋め込んでいたものだ」


 溜まっていた呪いの量は尋常ではなかった。

 あれだけ呪いを溜めても、まだ次元の狭間を開くには至らないのか。


「昏き者どもの神って、どのくらい強いんだ?」

「わからないであります。でも、魔神王より強いのは確かでありますよ。魔神王が尖兵でありますからね」

「それは恐ろしいな」

「だからこそ、召喚させないようにするしかないであります」


 もし、この世に昏き者どもの神があらわれたら、どうなるのか。

 俺やエリックたちが力を合わせて倒せなかったとしても、まったく不思議ではない。

 幸運が重なって無事に倒せたとしても、大きな被害が出るのは確実だろう。


「確かに未然に召喚を防ぐのが一番だな」


 そういって、シアを見ると、とても真剣な顔をしていた。

 じっと俺の顔を見ている。


「どうした?」

「ロックさん……さっき、ヴァンパイアロードが、その剣のことを魔神王の剣と言っていたであります」

「……そうだっけ?」


 とりあえず、誤魔化してみた。だが、シアはじっと見てくる。

 後ろを向いてみた。回り込んでくる。


「はっきりと聞いたでありますよ」

「聞き間違いでは?」

「獣人は耳もいいであります。絶対に聞いたであります」


 ものすごく怪しまれている。

 問題は、なにを怪しまれているかだ。


 貨幣単位にもなったラック本人かと怪しまれているのか。

 それとも、なぜ魔神王の剣を持っているのか怪しまれているのか。

 そのどちらを怪しんでいるかで対応が変わる。


 俺が一生懸命考えていると、シアが「はぁ」とため息をついた。


「まあ、いいであります。言いたくないことは誰しもあるでありますからね」

「そ、そうだな」

「とりあえず、隠れているゴブリンどもを倒すでありますよ」


 ヴァンパイアロードを倒しに来たというのに、シアはゴブリンにまで気を遣う。

 殊勝な心掛けである。


 たまに、強敵を倒した後、雑魚は放置して帰る冒険者がいるのだ。

 その場合、生き残った雑魚どもが近くの村に押し寄せる可能性がある。

 結果として、少なくない被害が出ることも珍しくない。

 たとえ、雑魚の魔物であっても、近隣の村落にとっては脅威なのだ。


「そうだな、ゴブリンは皆殺しにしないとな」

「はい。手分けして倒していくでありますよ」


 そういって、シアは鼻をクンクンとならす。


「獣人は嗅覚も鋭いでありますからね」

「それは便利だな」

「ふへへ」


 照れたのか、シアは変な声で笑う。


「シアの職業は戦士か?」

「そうでありますよ」

「鼻と耳がいいならスカウトも向いていそうだが……」

「もちろん、第二職業はスカウトでありますよー」


 戦士とスカウトという組み合わせはとても便利だ。

 パーティーでもソロでも、大活躍できる。


 シアの鋭い嗅覚のおかげで、隠れているゴブリンたちを順調に仕留めていった。

 坑道の奥の方に、より強いゴブリンがいる傾向があるようだ。

 ゴブリンロードはいなかったが、ホブゴブリンなどはいた。


 10匹ほどゴブリンを倒して、シアは言う。


「もう近くにゴブリンはいなさそうであります」

「臭いでわかるのか?」

「もちろんであります」

「素晴らしい」


 それから、討ち漏らしがないか再び確認してから戻ることにする。


「一応、道中でもゴブリンがいないか注意しながら戻るでありますよ」

「そうだな。俺も注意しておこう」


 シアが鼻をひくひくさせながら言う。


「ラックさん、ところでアリオさんたちは、大丈夫でありますかね?」

「大丈夫だろう。アリオたちはFランクにしては慎重で優秀だったし」

「……」


 シアが急に黙った。じっとこちらを見てくる。


「どうした?」

「いま、あたしはロックさんではなく、ラックさんに尋ねたでありますよ」

「…………」


 言葉に詰まった。何とかして誤魔化さなくては。

 シアがうんうんとうなずきながら言う。


「確かに改めてみたら、ロックさんは、英雄ラックの像に似ているでありますな」

「に、似てないだろ」

「いえ、似ているでありますよ!」


 どこをどう見たら似ているというのだろうか。

 あの像ほどイケメンではない。ゴランたちもそれは認めていた。


「やはり、ロックさんは、英雄ラックだったのでありますね」

「いや……」

「もう、隠さなくていいでありますよ。魔神王の剣を持っている時点で、英雄ラック本人以外にあり得ないでありますよ」

「なんというか……」

「わかっているでありますよ。事情があって隠しているでありますね? ラックさんは恩人でありますから、秘密にするであります」


 シアは信じ切ってしまった。

 事ここに至っては、認めて改めて口止めしたほうがいい。


「仕方がない。認めよう。俺がラックだ」

「……でありますよね」


 シアは「今更なにを?」と言いたげな顔をしている。


「だが、事情があって、正体を隠していて……」

「それも、わかっているでありますよ。命にかえても、秘密は守るであります」

「いや、そこまで強い決意で守らなくてもいいけど」


 命をかけるような秘密ではない。


 シアには命が懸かっているなら、いや、そこまでいかなくても困ったらばらしていい。

 そう、はっきりと言っておいた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?