ごろごろと転がって中に入ってきたセルリスは弁解する。
「ち、違うのよ。そうじゃないわ」
「なにが違うんだ?」
「えっと……えっと……」
「…………」
じーっとセルリスを見つめる。
するとセルリスは頭を下げた。
「ごめんなさい」
「あまり行儀のいいことではない」
「はい。ごめんなさい」
セルリスは素直に謝った。素直なのはよいことだと思う。
「シアにも謝れ」
「本当にごめんなさい」
深々と頭を下げた。
「い、いえ。でも口外したらダメでありますよ?」
「はい。本当にすみませんでした」
セルリスは反省しているように見えた。
「とりあえず、ルッチラも中に入ってくれ。セルリスも部屋から出て行かなくていいぞ」
「いいの? 盗み聞きしてたのに?」
「いいぞ。二人にもシアを紹介する」
セルリスは緊張気味だ。
ルッチラはなにも言わず、ゲルベルガを抱いたまま入ってくる。
部屋に入ってきた二人を椅子に座らせる。
「こちらはシアさん。Bランク冒険者の戦士兼スカウト。狼の獣人でヴァンパイア狩りの専門家でもある」
「シアであります!」
「ちなみに、先日ヴァンパイアロードを倒すのを手伝ってもらった」
俺がそういうと、セルリスが「ほぉ」っとつぶやいた。
一目置いたのだろう。
「コッ」
挨拶するかのようにゲルベルカは鳴き、ルッチラはうんうんと頷いた。
「で、こちらがセルリス。純戦士のFランク冒険者だ」
「セルリスよ。ロックさんの弟子なの」
セルリスは勝手に弟子と自己紹介しやがった。
弟子にした覚えはない。
「お弟子さまでありましたか」
シアが信じている。困る。
「……弟子ではないぞ。セルリスは、この家の主、ゴランの娘だ」
「モートン卿の……」
少しシアは驚いている。
ごついゴランの娘の割に華奢だと思っているに違いない。
「で、こちらの魔族がルッチラさんで、ルッチラさんが抱いているのが、
「神鶏……」
「さっきシアが言っていたヴァンパイアどもが必死になって探しているという神鶏さま、ご本人、いやご本鳥だぞ」
「なんと……」
シアは言葉をうしなっている。
これから探さなければいけないと思っていたニワトリがすでに目の前にいるのだ。
シアが驚くのも無理がない。
「神鶏の力は、先程見せてもらった。変化しかけたアークヴァンパイアが鳴き声を聞いただけで灰になったぞ」
「なんと。やはり伝説は本当であったでありますね」
そして、シアは立ち上がると、ゲルベルガに頭を下げる。
「神鶏さま。お会いできて光栄であります」
「コッコケ!」
ゲルベルガは堂々と鳴いた。
王者の風格が漂っている。
俺はシアに尋ねる。
「神鶏さまの保護がすんだということは、ヴァンパイアハイロードを倒しにいけばいいんだよな」
「そうでありますね」
「場所はわかっているのか?」
「大体の場所はわかっているでありますが……」
「その大体ってのは、どの程度の精度なんだ?」
「王都から北に一日進んだところの山地のどこかというところまでは、掴んでいるであります」
それを聞いて、俺はセルリスに言う。
「セルリス。地図とかあると助かるのだが貸してくれないか?」
「ちょっとまって、すぐ持ってくるわね」
セルリスはパタパタと駆けていく。
そしてすぐに戻ってきた。
「私の部屋から地図を持ってきたわ」
「ありがとう。助かる」
「気にしなくていいわ!」
セルリスの持ってきた地図は中々精巧な地図だ。
かなり値が張る高級品だ。
「シア。この地図で言うとどのあたりだ?」
「この一帯のどこかでありますね」
シアの示した場所はかなり広い。
探し出すのに時間がかかりそうだ。
「もう少し絞れたらいいのだが」
「ですが、これでもかなり苦労してつかんだ情報であります」
シアがいうには、周囲にはヴァンパイアが多くいて、容易には近づけないのだという。
「私とシアさんと、ロックさんで、ハイロードとロードと戦うわけよね。緊張するわね」
「いや、セルリスは連れて行かないぞ」
「え?」
セルリスはショックを受けたような顔になる。
シアはヴァンパイアを狩るのが稼業だ。
そして、一族の掟としても狩りに行かなければならない。
俺が手伝わなくても、全滅するとしても行くに違いない。
一方、セルリスには、そういう事情はない。
それにゴランの娘をそんな危険な場所に連れて行くわけにはいかない。
だが、このまま置いて行ったら、こっそりついて来そうだ。
俺はセルリスに役割を与えることにした。
「セルリスにはゲルベルガさまを守ってもらわねばならないからな」
「ゲルちゃんを?」
「ゲルベルガさまと呼びなさい!」
すかさずルッチラが突っ込んだ。
「いくら何でも敵の本拠地に、敵が狙っている神鶏さまを連れていくわけにはいかないだろ?」
「それはそうかもだけど」
「俺たちが神鶏さまから離れたら、相手にとってはねらい目だ。襲ってくる可能性がある」
「でも……」
「王都の中だ。ロードクラスが襲ってくることはないと思うが……、それでも優秀な冒険者に護衛についていてもらいたい」
俺の優秀な冒険者という言葉に、セルリスはピクリと反応した。
「そういうことなら……しかたないわね」
「頼む」
大体話がまとまったころ、
「ただいまーー」
ゴランの大きな声が響いた。帰宅したらしい。
「ゴランにも話して協力を頼もう」
「モートン卿にでありますか?」
シアは少し緊張気味にそう言った。