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60 屋敷への帰路

 俺たちはカビーノ邸で順調に証拠を集めた。

 すべての作業を終えてから、俺は官憲の地区長に言った。


「被害者の少女のことよろしくお願いいたしますね」

「お任せください。きちんと責任をもって、保護しましょう」

「もし、何かがあれば、モートン卿にでも言ってください」

「それは心強いです」

「パパは国王陛下とも仲良しだから、上級貴族にも負けないわ!」


 そういって、セルリスは胸を張る。


 地区長は、カビーノを捜査しようとして上層部に妨害されたと言っていた。

 だが、カビーノを逮捕して悪事の証拠をそろえておいた。

 こうなれば、上層部も妨害しにくいものだ。

 もし、下手にかばって、自分に飛び火することを恐れるからだ。


 特にご禁制のハムは重要だ。

 たとえ、上流貴族であっても、関係が明るみになればただでは済まない。

 家をお取り潰しになってもおかしくないほどだ。


 大量の武器の方は、上流貴族ほどやばい。クーデターを疑われる。

 おとり潰しの上、処刑されてしまうだろう。


「地区長。お気をつけてくださいね?」


 今の状況はカビーノと仲の良い上流貴族や官憲上層部にとってまずい。

 捜査妨害ではなく、地区長の暗殺などに出ないとも限らない。


「私の家も教えておきましょう。よくモートン卿もおいでになりますし」

「それは、……ありがとうございます」


 地区長は少し怪訝な顔になる。

 このFランク冒険者は一体何者だと考えていそうだ。


「昔、モートン卿が現役冒険者だったころ、よくお手伝いをさせていただいたんですよ」

「なるほど」


 嘘ではない。色々と手伝ったのは事実だ。


「パパはまだ現役よ!」

「そうだったな」

 セルリスを適当になだめておいた。



 それから地区長に事後を任せると、俺たちは自宅へと帰ることにする。


「アリオ、ジョッシュ、今日はありがとうな」

「いや、気にするな。ゴブリンロードに比べたらチンピラは全然怖くねーな」

「そりゃそうですよ」


 アリオとジョッシュはそう言いながら笑いあっている。

 アリオたちは、シアと一緒に五人のチンピラを捕縛した。

 五対三だ。シアがいるとはいえ、なかなかの成果と言えるだろう。


「俺からの個人の依頼だから、報酬はちゃんと払うぞ」

「いや、ロック。それは気にしなくていいぞ」

「そうですよ」

「そういうわけにはいくまい」

「そうだわ。こういうことこそ、きちんとしないと。私も依頼主の一人として報酬は払わせてもらうわ」


 セルリスもそういって、説得してくれる。

 アリオたちには普通のFランク冒険者の相場料金を受け取ってもらった。


「シアはBランクだから……」

「いえ! 気にしないでいいであります。ギルドを通した依頼でないのでアリオたちと同額でいいでありますよ」

「だがなぁ」

「アリオとジョッシュと同じことしかしてないのに、あたしだけ多く貰うわけにはいかないであります」

 シアにはアリオたちと同じ報酬額しか受け取ってもらえなかった。


 その後、アリオたちはギルドへと向かった。

 もう一度クエストを確認してから宿に戻るのだという。


 シアは、俺たちと一緒に帰宅の途についた。


「ただの買い物の予定だったのに、時間がかかってしまったな」

「すまない。おれがトラブルに巻き込まれたせいだ」

「いや、ミルカのせいじゃないぞ」


 そんなことを会話していると、セルリスが言う。


「ロックさん。お屋敷のお風呂って使えるのかしら?」

「お湯は出たような気が……」


 まだ、あまりじっくり調べていなかった。

 そういえば、新しい家にはお風呂がついている。

 さすが貴族の邸宅だ。


「ミルカちゃん。帰ったら真っ先にお風呂掃除お願いね」

「わかった。セルリスねーさんの指示なら全力でピカピカにするぞ」


 そう言いながらも、ミルカは少し戸惑っていた。

 なぜ掃除をお願いされたのかわからないのだろう。

 セルリスはミルカの返事に満足そうにうなずくと、今度は俺に向けて言う。


「ちょっと、用事を思い出したから、家に帰るわね。すぐ戻るから」

「それはいいが、忙しいなら、戻ってこなくてもいいぞ?」


 これからの仕事は通路の補強だ。

 力の強いセルリスがいれば、助かるが、別にセルリスがいなくても作業はできる。


「いいえ! すぐ戻るわ!」

 そう言うと、セルリスはものすごい速さで走っていった。


「セルリスねーさん、足速いなー」

 ミルカは尊敬の目で、セルリスの後ろ姿を見つめていた。


「セルリスは小さいころから戦闘訓練を続けてきたから、身体能力が高いんだよ」

「小さいころからかい? すごいんだな」

「セルリスは、かの有名なゴランの娘だからな」

「えっと、ゴランさんって、今朝のおっちゃんだろ?」

「そうだぞ」

「で、ゴランのおっちゃんが、官憲さんとのお話にも出てきたモートンきょう? って人と同じ人ってことかい?」


 朝食の時、ミルカには、ゴランたちのことを紹介した。

 だが、簡単にだ。このおっさんがゴラン、こっちのお姉ちゃんがセルリスって感じだ。

 だから、ミルカはゴランの家名がモートンというのは知らないのだ。


「そうそう。ゴランとセルリスは、モートンって家名を持っているんだ」

「へー。凄そうだな!」


 ミルカはエリックのことも知らなかったのだ。ゴランのことも知らないに違いない。

 そんなことを思っていると、ルッチラが言う。


「ミルカはゴラン・モートン卿がどんな人か知らないの?」

「今朝紹介されたばかりだからな! でも、優しそうなおっちゃんだったな。セルリスねーさんも優しいし」


 ミルカはセルリスに朝ごはんを分けてもらっていた。

 餌付けされたのかもしれない。


 俺も餌付けしておくべきだろう。


「少し小腹がすいたな。なにか食べるか」

「ごくり」

「……がう」

「…………コケっ」

「………………」


 ミルカは息をのむ。同時に腹の虫がぐぅっとなった。

 ガルヴは尻尾を急速に振りはじめた。ゲルベルガもうずうずし始めた。

 シアはすましている。だが、耳がぴくぴくして尻尾がブンブン揺れている。

 ルッチラも目が輝いていた。


「そこらの屋台で何か食べるか。みんな好きなの食べていいぞ」

「やったぜ!」

「ごちそうになるであります!」

「ありがとうございます!」

「がう」「こけっ」


 みんなとても、嬉しそうだった。

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