シアとセルリスは張り切っているようだ。
「頼む。気を付けてな」
「任せるでありますよ!」
シアは尻尾をぶんぶんと振っていた。
「私も頑張るわ!」
セルリスは大丈夫だろうか。少し不安だ。
「セルリス。本当に気を付けてな」
「わかってるわ!」
シアとセルリスは、二人で屋敷を出て行った。
それを見送りながら、ルッチラが言う。
「不安ですね」
「こぅ」
「そうだな。だがシアがいるから大丈夫だろう」
ゲルベルガも不安そうだ。
俺はひざの上で小さな声で鳴く、ゲルベルガの背を撫でた。
翼と翼の間が、ふわふわである。
「こここ」
ゲルベルガは気持ちよさそうにしていた。
それから、俺たちは応接室を出た。
「じゃあ、俺は今日の分の食糧を買ってくるかな」
「ぼくが行ってきますよ」
「そうか。じゃあ。頼む」
「はい!」
「適当でいいぞ。食糧は適当に多めに買ってきてくれ」
そういって、お金を渡す。
「お任せください!」
ルッチラがおつかいに駆け出していった。
「ココゥ」
ゲルベルガはルッチラの背を見送りながら、小さく鳴いた。
ゲルベルガは狙われる可能性があるので、なるべく俺と同行するようにしているのだ。
「ゲルベルガさま。台所に行くぞー」
「コッコ!」
俺が台所に向かうと、ゲルベルガは楽しそうについてくる。
「ここここ」
小さく鳴きながら、たまに羽をばたばたさせている。
台所には、ミルカとガルヴがいた。
「あ。ロックさん。どうしたんだい?」
「がう」
ミルカは先程の服から着替えていた。
先程の貴族の令嬢っぽい服じゃなく、普通の動きやすそうな服だ。
それでも、美少女なのは変わりない。
髪の毛がきれいになっているし、顔の汚れなども取れている。
元がいいので、清潔にしていれば、とても可愛らしい。
「ちょっと、食糧保存庫でも作ろうと思ってな」
「そうかい! 手伝うことはあるかい?」
「いや、大丈夫だ。それより、着替えたのか?」
「うん。汚したらもったいないからな!」
「その服も似合っているぞ」
「えへへ。ありがとう」
ミルカは照れている。
今着ている服も、これまでのボロボロの服ではない。
上等そうな生地で作られた仕立ての良い服だ。
「セルリスから貰ったのか?」
「そうなんだよ。セルリスねーさん、服を沢山くれたんだ」
「気前のいいやつだな」
あとで俺からもお礼を言わねばなるまい。
「セルリスねーさんには、頭が上がらないぜ!」
そういいながら、ミルカは掃除をしていた。
「掃除は明日からでもいいのに」
「台所ぐらいは綺麗にしとかないと、お腹を壊すからな!」
「そうか。すまない」
掃除をするために着替えたのだろう。
一方ガルヴはというと、台所の匂いを嗅ぎまくっていた。
「ガルヴわかっていると思うが、縄張りの主張は許さないからな」
「! ガウッ!」
ガルヴはびくりとした。
ちょっとぐらい主張してもいいのでは? そんなことを思っていそうだ。
油断も隙も無いとはこのことである。
「いいか。ガルヴ。縄張りの主張というのはだな……」
「がぅ」
「俺の屋敷でも、王宮でも絶対したら駄目だぞ」
「がう」
「ゴランの家でもだめだ。というか室内では基本禁止だ」
「! がう!」
え、だめなの? そんな感じの鳴き声だ。失敗する前に、教えられてよかった。
それから駄目な理由を説明する。
ガルヴはちゃんと、わふわふ聞いていたので、理解してくれただろう。
「普段はトイレでしなさい」
「がう」
「どうしても縄張りを主張したくなったら、散歩に連れて行ってやるから、その時にな」
「がう!」
「とはいえ、王都の中だと迷惑になるよな……。王都の外に散歩に行ったときにでも頼むぞ」
「がう!」
ガルヴは子供だが、小さな馬ぐらい大きい。
当然量も多いのだ。迷惑になる。
ガルヴは賢いので、縄張りを主張しないで散歩も出来るだろう。
そんなことを話している間に、ゲルベルガはガルヴの背に乗っている。
お気に入りの場所らしい。
ガルヴも特に嫌がらない。
「さて、食糧保存庫だが、ルッチラが帰ってくるまでには作りたいな」
「これじゃダメなのかい?」
ミルカが台所に元から付属していた大きな戸棚を指でさししめす。
「普通の戸棚だからな。外に置いておくのと変わらないし」
「じゃあ、こっちはどうだい?」
ミルカは床を指さす。床下にも収納スペースがあるようだ。
「こっちは冷暗所って感じでいいな」
「だろ」
ミルカは自慢げだ。掃除しながら、どこに何かあるか調べていたのだろう。
「両方使おう」
俺は両方に
それから
いわば、固定式の魔法の鞄のようなものだ。
「どんな魔法をかけたんだい?」
「それはだな」
俺はミルカに説明しておいた。
「ロックさん、すげー」
「一応、秘密だが、俺は魔法使いでもあるのだ」
「そうなのかー」
それから、俺は改めて屋敷の中を見回った。
隠し通路や隠し部屋が他にもあったら把握しておきたい。
ミルカ、ゲルベルガ、ガルヴもついてくる。
残念ながら、新たな隠し通路や隠し部屋は見つからなかった。
ついでに、俺は屋敷に魔法をかけて回った。