俺は下水から引き揚げたガルヴが怪我をしていないか調べた。
かすり傷しか負ってないように見える。
「ガルヴ、大丈夫か?」
「くぅーん」
ガルヴが甘えたような声を出す。
セルリスとジョッシュ、アリオもガルヴの怪我を調べている。
そしてほっとする。
「大きな怪我はしていないわね」
「一応、傷口は洗った方がいいでしょう」
「そうだな。ロック。ここは俺たちに任せて、下水を洗い落としに行った方がいい」
俺自身は怪我をしていない。だが、かなり汚れたのは事実。
そしてガルヴはかすり傷とはいえ、傷を負っている。
それに下水はまずい。感染症になりかねない。
霊獣だから大丈夫だと思うが心配でもある。
魔鼠をかみ殺していたのも不安要素だ。魔鼠は病気を媒介するのだ。
「すまない。セルリス、ガルヴを洗って来てくれないか?」
「構わないけど……。ロックさんは?」
「俺は調べることがある。魔鼠が集まっていた、その中心を調べたい」
「わかったわ。ガルヴ行くわよ」
「くぅーん」
下水まみれのガルヴが甘えるように体をこすりつけてきた。
俺も下水まみれなので気にしない。
「ガルヴ? 行くわよ?」
「……くぅーん」
ガルヴが俺と離れたくないとアピールしてくる。
それを見てセルリスが言う。
「……ロックさんが連れて行ってあげたほうがいいんじゃない?」
「とはいえ、すぐに調べたいのだが……」
「早く洗ってあげたほうがいいわよ?」
仕方ないので、セルリスに魔法の鞄を渡す。
「セルリス。とりあえず、魔法の鞄を渡しておこう。魔鼠の死体を放り込んでおいてくれ」
「魔石は取り出すのは後でするのね?」
魔石を取り出すのは家の庭でやればいいだろう。
死骸を燃やすのも庭ですればいい。
「すまない。ここは任せた。すぐ戻る」
「ゆっくりでいいわよ」
セルリスたちに見送られて、俺とガルヴは外へと走る。
途中で斬りはらった魔鼠の死骸にすでに魔鼠がたかっていた。
とりあえず、斬りはらう。何匹いるのか恐ろしくなる。
下水道を出て、近くの川へと走った。
汚くもないがきれいでもない。そんな川だ。水深は腰ぐらいまである。
川の中にガルヴと一緒に入る。ガルヴは大人しく川に入った。
「がうー」
「泳げないわけではないのか」
「がう!」
ガルヴにとっては足が届く水深だ。そこを器用に泳いで見せる。
ゲルベルガも、俺の胸当ての中から外に出て、バシャバシャ泳いで見せた。
ガルヴは泳げるから、下水に入ったのだろう。
だが、水中ではいつものようには戦えない。魔鼠に襲われ、おぼれかけたのだ。
「水中は戦いにくいからな。気を付けないと駄目だぞ」
「わふぅ」
俺はガルヴの全身をごしごしする。
もう怪我はほとんど治っていた。さすがは霊獣狼である。
ガルヴは一生懸命、俺にくっついている。甘えているようだ。
魔鼠に襲われおぼれかけたのが、余程怖かったのかもしれない。
俺はガルヴの汚れを大まかに落として水から上がる。
気持ちよさそうに泳いでいたゲルベルガには胸当ての中に入ってもらった。
「これを飲んでおきなさい」
「がう? ガウ!」
念のための解毒剤だ。
ガルヴは臭いを嗅いで、顔をそむけた。薬は嫌な臭いがするものだ。
「大人しく飲め」
「がががぅ」
俺はガルヴの口をこじ開けて、薬を突っ込んだ。
嫌がっていたが無事飲ませることに成功した。
「さて、みんなが待ってる。戻るか」
「……がう」
ガルヴは少し拗ねたように、ぷいっと顔をそむけた。
無理やり臭くてまずいものを飲まされたので怒ったのかもしれない。
「さっきのは解毒薬だぞ。あとで病気になったら困るだろ?」
「……がぅ」
「……傷口から腐ったりするかもしれないんだぞ」
「がうっ!」
「そうなったら、ガルヴも嫌だろ?」
「がう」
ガルヴは薬の必要性を理解してくれたようだ。
素直になったガルヴを連れて、セルリスたちの元へと走った。
現場に戻ると、セルリスたちはあらかた魔鼠の死骸を回収し終えたようだった。
「大丈夫だったか?」
「たまに襲ってきたが、数が少なければ問題ないぞ」
アリオがそう言って笑った。
ジョッシュが心配そうに言う。
「ガルヴは大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない」
「がう!」
ガルヴは尻尾をぶんぶんと振った。
セルリスが魔法の鞄を返しながら、聞いてくる。
「ロックさん。何を調べるの?」
「魔鼠がなぜ集まっていたのかだな。なにかあるのかもしれない」
俺は再び下水に入る。
ガルヴが前足で下水の水面をちょんちょん叩いていた。
「ガルヴは下水に入るなよ」
「ガウ!」
力強く返事をしてくれた。
俺は魔鼠が集まっていた場所を調べる。
不穏な気配を感じた。怪しい魔力だ。
俺は
下水に沈んだ魔鼠の死骸が引っ掛かる。魔石が探知に引っかかったのだろう。
適当に魔法の鞄に放り込んでいく。
死骸をすべて放り込んだ後、再度探知の魔法を使った。
水底にかすかな魔力を宿す物が沈んでいた。
俺はそれを拾い上げる。
「なんだこれ……」
それは、犬の足先ぐらいの大きさの金属光沢を放つ、何かのかけらだった。