冒険者ギルドに向かう途中、屋台の出ているエリアを通った。
ガルヴはきょろきょろして、しきりに尻尾を振っている。
「なにを食べようかな」
「がぅー」
ガルヴはとある屋台の前で足を止める。
それは焼き鳥の屋台だった。
「ガルヴ、焼き鳥食べたいのか?」
「がう!」
「そうか」
確かに、鶏肉の焼けるいい匂いが漂っていた。うまそうだ。
俺は店主に尋ねる。
「あの、たれと塩両方抜くことって、できますか?」
「たれも塩も抜くのかい? それは構わねーが、たれかけたほうがうまいぞ?」
「こいつが頑張ったご褒美なんですよ」
そういって、俺はガルヴを示す。
それで、店主は納得したようだった。
「そうかい。そういうことなら、生もあるぞ」
「ガルヴ、生と焼いたのどっちがいい?」
「がうー」
ガルヴの返事の仕方からは、正直どっちがいいのかわからない。
「じゃあ、生にするか?」
尻尾をびゅんびゅん振る。生の方がいいのかもしれない。
「やっぱり焼いてある方がいいか?」
そう尋ねても、ガルヴは尻尾をびゅんびゅん振った。
「焼いたのと生、両方おねがいします」
「量はどうする?」
「三本ずつで。あと俺も食べるのでたれ付きも三本」
「あいよっ! 少し待ってくれよ!」
しばらく待つと、焼き鳥が焼き上がる。肉の大きい焼き鳥だ。
お代を払って受け取ると、ガルヴを連れて公園へ移動した。
「ガルヴ、串とってやるからな」
「がうがう!」
ガルヴはお座りして、尻尾を振っていた。
串をとって、包み紙の上にのせる。
「食べていいぞ」
「がふっがふがふ」
一生懸命食べている。うまそうだ。
俺もガルヴと一緒にたれ付きの焼き鳥を食べる。うまい。
「焼き鳥を食べたって、ゲルベルガさまに言うなよ?」
「がふがふ」
うまそうにガルヴは焼き鳥を食べていた。
鶏肉はうまい。だが、にわとりのゲルベルガさまが聞いたら怒るかもしれない。
「ルッチラにも言わないほうが、いいかもしれないな」
「がふがふがふ」
聞いているのか、いないのか、ガルヴは一心不乱に食べていた。
「ガルヴは体が大きいからもっと量が多くても良かったかもな」
「がふがふ!」
あっという間にガルヴは食べ終わった。
そして、俺の串をじっと見ている。
「これはたれがかかってるから、やらん」
「……がぅ」
ガルヴは食べたそうに、俺のひざに顎を乗せる。
そして、俺の串をじっと見る。
「だから、やれないんだって」
「……くぅーん」
哀れっぽく鳴きながら、よだれをこぼしていた。
俺の太ももがぬれる。
やはり、体の大きいガルヴには串六本では足りなかったのかもしれない。
「あとで、また何か買ってやるから」
「くぅーん」
ガルヴは鳴きながら、尻尾を振った。
俺は串を食べ終わると、ガルヴに追加のおやつを買ってやることにした。
肉を中心に買っていく。かなりの量になった。
それをもって、公園に戻りガルヴに食べさせた。
「これなら屋台にいくより、食肉販売店に直接行った方がよかったかもな……」
「がふがふがふがふ」
ガルヴは一生懸命食べている。
まだ子供なのだ。いっぱい食べて大きく育って欲しい。
「わっ、おっきいわんちゃんですね」
小さい子供が近寄ってきた。
獣人の子供らしく、可愛らしい尻尾と獣耳が生えている。
「撫でてもいいですか?」
礼儀正しい子供だ。
「いまはご飯食べてるからだめだよー」
「わかりました」
「がふ?」
イヌ科は食事中に触られるのを嫌がる。取られると思うのだろう。
だが、子供のころから触りながら上げると怒らなくなる。
ガルヴもそう躾けたほうがいいかもしれない。
次から、そうすることにしてもいいかもしれない。
ガルヴがご飯を食べ終わるのを、子供はじっと待っていた。
食べ終わると、再び聞いてくる。
「もう大丈夫ですか?」
「ああ、撫でてもいいよ」
「ありがとうございます」
子供はガルヴを撫でる。子供の尻尾がバサバサ揺れた。
「えへへー」
「がうー」
ガルヴも機嫌よさそうに尻尾を振っていた。
その後、子供と別れて、冒険者ギルドに向かった。
魔鼠の死骸十体を提出して、小金をもらう。
ギルドの受付嬢が、真面目な顔で言う。
「魔鼠、たくさんいませんでしたか?」
「この子にも手伝ってもらって、かなり探しましたけど十匹だけでしたね」
「そうですか。それならよかったです。昨日大発生していたみたいですから、しばらくの間は下水道に入るときは慎重にしてくださいね」
「了解です」
その後、もう一度、ギルドのクエスト掲示を確認する。
やはりゴブリン退治は無かった。
「がぅー?」
ガルヴも真剣な顔で掲示を見ていた。
字が読めるのだろうか。
「お土産にお菓子買ってから帰るか」
「がう!」
屋敷に帰る途中、たくさんのお菓子を買った。
「がっぅがうがぅー」
ガルヴは、とてもご機嫌だ。お菓子が楽しみなのだろう。
「おや?」
「がう?」
俺の屋敷の前に、子供が立っていた。
「さっき、ガルヴを撫でてご機嫌だった子供だよな」
「がぅ」
「なんか用でもあるのかね」
俺はガルヴとともに、屋敷の前に行く。
そして、子供に話しかけた。
「この家に何か用なのか?」
「あ、さっきのおにいさん! それにわんちゃん! 奇遇ですね!」
「おじさんは、この家の人なんだ」
「そうだったんですね」
そして、子供は丁寧に頭を下げる。
「ぼくはシアの妹のニアと言います。ロックさんですね! 姉がいつもお世話になっております」
シアの妹はどうやら礼儀正しいようだった。