ヴァンパイアは俺に攻撃せず、鏡を叩き割った。
命に代えても、鏡を壊さなければならない理由があったのだろう。
「ふふ」
鏡を破壊したヴァンパイアは、こちらを見てかすかに微笑んだ。
俺はそのヴァンパイアの首を、魔神王の剣で斬り飛ばした。
「さて。あの鏡は一体なんだ?」
首だけになったヴァンパイアに尋ねた。
視線は首に向けたまま、近くに転がっている干からびたヴァンパイアを並べる。
「俺からなにか情報を得られると思うのか?」
首だけになったヴァンパイアが不敵に笑う。
ヴァンパイアは基本的に口が堅い。幻術にかければよかった。
後悔しても、もう遅い。
「調べればいいだけの話だ」
「じゃあ、そうしろよ」
首だけのヴァンパイアと会話している間に、干からびたほうが徐々に回復していく。
「お前らは本当に回復力がすごいな」
「ふん!」
首だけになったヴァンパイアにとどめを刺した。
そして、ニアとガルヴに念話を飛ばす。
『そこの物陰に隠れてくれ』
ニアとガルヴがこくりとうなずく。
そして、こっそりと隠れる。ガルヴの尻尾が出ていたので、俺が手で押し込んだ。
そのうえで隠蔽の魔法をかける。
これで、アークヴァンパイアと言えど気づくまい。
それから幻術を発動させて待機する。
干からびている間、ヴァンパイアは意識がない。
だから、うまくやれば幻術にかけることができるだろう。
さらに十分待った。
その間、干からびていたヴァンパイアはどんどん回復していく。
まだ、顔色は悪いが、目を覚ます頃合いだろう。
俺は幻術で、最初に倒したヴァンパイアロードの姿に化ける。
「おい! いつまで寝ているのだ!」
怒鳴りつけながら、軽く蹴りつけた。
「一体……どうなったのです?」
目を覚ましたヴァンパイアはきょろきょろ見回す。
周囲には割れた鏡、そして灰と化した同僚の姿が見えたはずだ。
それに加えて俺の死体の幻を転がしておく。
「どうなった、だと? それはこちらのセリフだ! なにゆえ鏡を割った!」
「て、敵は……」
「敵? とうに我が殺した」
「そうだったのですか。ありがとうございます」
「いいから、鏡を割った理由を話すがよい。下らぬ理由で割ったのであれば、許さぬぞ」
「強力な敵ゆえ、我らでは防ぐことができぬと思い……せめて鏡を敵の手に渡らせないために……」
「なんと愚かな……・我があのような人間に負けると思ったのか」
「申し訳ありませぬ」
謝るヴァンパイアを見ながら、俺は少し考えた。
俺の手に渡したくないものだったらしい。理由を知りたい。
なんと問いかければ、聞きだせるだろうか。
「壊してしまったものは仕方あるまい」
「まことに申し訳ありません」
「修復せよ」
「それは私には……難しいことで……」
「わかっておる! 代替手段を考えろと言っているのだ」
「王宮に直接出向いて、転移魔法陣をつなぎなおすしか……」
王宮? 不穏な言葉が飛び出した。
まさか、エリックの王宮に繋がっていたとでもいうのだろうか。
俺は平静を装って、尋ねる。
「それでよい。いつまでに出来る?」
「全力で走りましても……。私の足ならば片道三日は……」
少し安心した。エリックの王宮とは別の王宮らしい。
距離だけを考えれば、アークヴァンパイアが走れば、ここから王宮まで数時間だ。
実際に走るならば、もっとかかる。
神の加護と衛兵の目を誤魔化さなければならないからだ。
それでも片道三日はかかるまい。
どの王宮か聞かねばなるまい。だが、普通に聞いたら怪しすぎる。
俺が化けているヴァンパイアは当然知っていることだからだ。
俺は自分の頭を地面に落とす。もちろん幻術を使ってだ。
頭を地面に転がして、二つに割った。
「なっ!」
「ああ、先程、侵入者に首をはねられてな。おかげで貴様を助けるのが遅れた」
そう言いながら、頭を拾って首に乗せる。
「そうでしたか。それは大変でしたね」
ヴァンパイアは納得したようだ。
「おかげで記憶が混乱していてな……」
「そうでしたか」
「聞きたいことがあるのだが、……ところでこの遺跡は、一体何のための遺跡であっただろうか」
「はい。竜族の古代遺跡の装置を利用して、愚者の石の製造を行うということになっております」
「……ああ。そういえばそうだった気がするぞ。すまぬな。混乱していて」
「いえ、なんでもお聞きください」
「そうか。それは助かる。その愚者の石を製造する装置はどれなのだ?」
「隣の部屋にございます」
「それは破壊されておらぬのだな?」
「そのはずでございます」
かなり重要な遺跡だったようだ。
「そうか。それはよかった。ここの他にもその装置はあるのか?」
「全力で探しておりますが、ごく僅かしか見つかっておりませぬ」
どうやら僅かとはいえ、ほかにもあるようだ。
あと知りたいのは一つだけだ。
「ところで、鏡がつながっていたという、王宮とはなんであっただろうか」
「え?」
さすがに怪しまれたかもしれない。
俺は言い訳する。
「頭を縦に割られたせいで、脳髄への損傷がな」
「そうでしたか……。大変でございますね」
「うむ。思い出せそうで、思い出せぬのだ」
「我らが至高の王の御座所にございます」
至高の王? ハイロードより偉そうだ。
「それは一体どのような方なのだ?」
俺がそう尋ねた瞬間、ヴァンパイアが斬りかかってきた。
咄嗟に返り討ちにする。首だけになったヴァンパイアに睨みつけられる。
「貴様……。偽物だな……」
「やっと気づいたか」
「至高の王のことを、それと呼ぶなど、記憶が無かろうがあり得ぬ」
「そうか。それは勉強になった」
俺はヴァンパイアにとどめを刺した。