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124 おっさんたちの打ち合わせ

 錬金装置を管理するといっても、裏庭に放置するわけにはいかない。

 設置場所はしっかりと考えなければなるまい。

 俺は装置を魔法の鞄に一旦しまう。

 敵にとられる可能性を考えれば、魔法の鞄の中に入れっぱなしでもいいかもしれない。


 そんなことを考えていると、フィリーがつぶやくように言った。


「ロックさん」

「どうした?」

「その装置。研究したいのであるが」

「それは構わないが……」


 俺が言いよどむと、フィリーは不安そうな表情になった。


「なにか問題があるのであるか?」

「いや、装置を置く場所をどこにしようか考えていたんだ」

「空き部屋はいっぱいあるのであろう?」

「そうはいっても、どこでもいいというわけではない。昏き者どもの襲撃に耐えうる場所が望ましいからな」

「ふむ……」

「それに、そこがフィリーの研究室になるわけだろう?」

「研究室にしてよいのか?」

「いいぞ。必要な設備などはあるか?」

「水を使えれば……あとはできれば日光が入らないほうがいいかも」

「ならば、地下だな。秘密通路に繋がる部屋を改造してもいいかもしれないな」


 秘密通路をよく使うエリックにもお伺いをたてたほうがいいだろう。


「エリックはどう思う?」

「危険性はないのか? 爆発や火災などだ」


 王女も使う秘密通路に繋がる部屋だ。

 エリックの懸念は理解できる。


「そりゃ、あるだろう」

「それは困るぞ」

「魔法で耐火、耐爆に備えればいいんじゃないか?」

「ふむ。ラックがやってくれるなら、それでよい」


 エリックの許可も取れたので、地下にフィリーの研究室を作ることにした。

 そこに装置を置けばよい。


 その後、全員で裏庭から居間へと戻った。

 エリックは椅子に座ると、小さな道具を取り出した。


「それは?」

「距離が離れていても通話ができる魔道具だ」


 エリックはそう言いながら、小さな魔道具をどんどん出していく。

 腕輪型の魔道具のようだ。四つも持ってきてくれている。

 余っているものがあれば持ってきてくれといった時は断られたはずだ。


「あれ? 余っていないはずでは? 探して持ってきてくれたのか?」

「もちろん余って等はいないが、融通できないわけではない」

「ありがたいが、そちらの業務に支障は出ないのか?」

「それは気にするな。俺がなんとかする」


 エリックが言うには、交換する予定だったものを持ってきてくれたらしい。


「ちょうど魔道具協会から届いた新品があったので、持ってきたのだ」

「それを使う予定だった部署が困るんじゃないか?」

「追加ですぐに持ってきてもらえることになっておる。点検交換が一週間遅れるが、業務に支障はないから安心しろ」


 余裕をもって点検交換の予定を組んでいるので大丈夫らしい。

 会話できる魔道具はとても高価ではあるが、店でも売っている。

 そういう意味ではレア度は低いともいえるのだろう。


「支障はないのか。安心した。助かる」

「もっと早く準備すべきだったな。ロックとの間で即座に連絡が取れないのはよくない」

「連絡できると便利になるな」

「昏き者どもの動きから考えて、こちらの緊急度はかなり高い。優先的に回すべきであった」


 エリックは反省しているようだ。

 それからエリックは使用法を教えてくれた。

 四者の間で通話ができるようだ。


「俺とゴラン、ロックの間で会話ができればいいだろう。もう一つは、ドラゴンのケーテにでも渡すがよい」

 ケーテとの連絡のために欲しいとは言ってなかったのに、エリックはわかっていたようだ。


「助かる」

「何度も王都にドラゴンの咆哮が響いては、たまらぬからな」

 そういって、エリックは笑った。


 それから至高の王について話し合おうとしたとき、ゴランが屋敷へとやってきた。

 ゴランは仕事が終わったら来ると言っていた。だが、今はまだ昼過ぎである。


「随分と早いんだな。ゴラン」

「ああ、指示は出してあるからな。基本優秀な部下どもに任せておけば何とでもなる」


 そして、ゴランはエリックを見る。


「エリックも来ていたか」

「良いところに来た。ゴランにも渡しておこう」

「お、通話の腕輪か」


 エリックはゴランにも魔道具を渡す。

 どうやら通話の腕輪と呼ばれるものらしい。


 それから俺はゴランにも一連の経緯を説明した。

 ケーテについて。竜の遺跡にある錬金装置について。

 そして、至高の王という存在について。


「昏き者どもの至高の王か。ヴァンパイアハイロードの上のヴァンパイアってことか?」

「可能性はあるとは思うぞ」

「冒険者ギルドでも調べておこう」

「頼む」


 エリックが言う。


「ロックよ、ケーテとやらは話が分かるドラゴンなのであろう?」

「そうだな。そう感じた」

「味方につけたい。可能だと思うか?」


 エリックは真剣な表情だ。


「可能だとは思うが……」

「なんだ、引っかかることでもあるのか?」


 ゴランに尋ねられたので説明する。

 ケーテは竜族の遺跡保護に熱心であること。

 それ以外のことに、協力してくれるかはわからないこと。


「なるほど。少なくとも敵にはしたくないのだ。ロックよ。交渉を頼めぬであろうか?」

「やってみる」

「一応、冒険者ギルドの方でも、通達は出せる。遺跡を荒らすなとか侵入禁止とかな」

「ゴランも助かる」

「だが、冒険者の全員が果たして守ってくれるかはわからねえ……」


 冒険者は基本自由人だ。

 ランクの低い冒険者には、ならず者も混じっている。


「それは、俺もわかっている」


 俺はガルヴを撫でながら、ケーテのことを考えた。

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