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145 ケーテの父ドルゴ

 俺はケーテの父ドルゴを連れて、応接室へと向かう。

 その途中で、ケーテたちの楽しそうな声が聞こえてきた。


「がっはっは! エリックは無茶をするものである! 貨幣単位をラックにするなどと」

「ふふふ。だが、そのぐらいで、ちょうどいいのだ」

「わかる、わかるのである! ラックは控えめであるからな! 竜族も何か贈らねばなるまい」

「ばれたら面倒だからな。こういうのは気付いた時には手遅れにしておくぐらいがよいのだ」

「さすが、エリックである!」


 なんか王様同士で盛り上がっていた。

 ドルゴが足を止める。


「うちの娘の声がいたしますな」

「はい。ケーテさんには、ちょうど我が屋敷に逗留していただいております」

「ご迷惑をおかけしてなければよいのですが……」

「いえいえ、ご迷惑だなんて、とんでもないことです」

「すこし、顔を見たいのですが……」

「ええ、もちろん……」


 ドルゴは食堂に足を進める。

 ケーテたちは朝ごはんを食べた後、そのまま食堂で歓談しているのだ。


 ドルゴが歩き始めたとき、ゴランの声が聞こえてきた。


「エリックはこれから王宮に帰って、仕事なんだろ? 俺も王宮に用事があるし、一緒に行くか?」

「ああ、俺は構わぬが……。出入りの記録は残さないと、後々面倒ではないか?」

「あー、確かにな」


 ギルドのグランドマスターとしての用事で出向くのなら公的なものだ。

 当然、いつ王宮に入って、出たのか記録される。

 にもかかわらず、王宮に入った記録がなければ、色々面倒だ。


 そう言う場合は、出入り管理の書類上の手違いということになる。

 つまり、王宮の出入りを管理している部署のミスとなってしまう。


「面倒だが、正面から馬車に乗っていくしかないか。……、面倒だがな」

 ゴランは面倒だと二回言った。本当に面倒なのだろう。


「がっはっは! 空からぴょんと降りればよいではないか」

「そういうわけには、いかねーんだよ」

「人族は大変であるなー」


 ケーテがお茶を飲みながら言った。


「竜族だって大変なのではないか? 宮殿に戻って仕事とかあるんじゃないのか?」

「がっはっは! 竜族には大変なことなど何もないのである」

「それはうらやましい」

「仕事なんてさぼっておけば、父ちゃんが適当にやってくれることになっておるのだ!」


 ケーテはどうやら、普段、ドルゴのことを父ちゃんと呼んでいるらしい。

 王様らしくないが、ケーテらしくはある。


「それは良かったな」

「そうなのだ! 良かったのであるぞー? おぉっ?」


 ケーテは振り向いて、そこに父ドルゴがいることに気が付いた。

 ケーテの顔がこわばっていく。


「とうちゃ……、父上、どうしてここに?」

「どうしてではない。公務をさぼっているバカ娘を迎えに来たのだ」

「こ、これは違うのである」

「ほう? どう違うのか、説明してもらおうか。ケーテ・セレスティス風竜王陛下」

「えっと……。これは昏き者が……」

「昏き者が?」

「暴れているから、人族との連携を考えていたのであるからして」


 しどろもどろになりながら、ケーテは説明している。

 尻尾が左右に小刻みに揺れていた。

 嬉しいときは上下に。焦ると左右に揺れるのかもしれない。


「ふぅ」

 ドルゴはため息をついた。


「風竜王陛下が人族との連携をお考えなのはわかった」

「そうなのである」

「で? それと公務をさぼっていることと、どのような関係が?」

「えっと……」


 ドルゴは笑顔のまま、ケーテの目をじっと見る。

 笑顔といっても、目は全く笑っていない。

 正直、俺も怖い。


「……ごめんなさい」

「風竜王としての自覚を持たねばならぬ」

「はい」


 ケーテの尻尾がしゅんとして、先っぽが垂れ下がる。

 そして、ドルゴは俺たちに向かって頭を下げた。


「お見苦しいものをお見せしました」

「いえいえ。お気になさらないでください」


 俺は笑顔で答えておいた。

 エリックが、立ち上がるとドルゴの前にやってくる。


「人族の王、エリック・メンディリバルと申します。以後お見知りおきのほどを」

「これは勇者王陛下でいらっしゃいますね。御高名は竜の世界にも轟いております」


 エリックの自己紹介の後、ゴランも自己紹介をする。

 ドルゴはゴランのことも知っていたようだ。


「当代最強の戦士の名は聞き及んでおります」

「最強と言われているといっても、所詮は卑小なる人族の間でのことですから」

「ご謙遜を」


 そのときケーテが言う。


「父ちゃん、で、この人がラックであるぞ」

「なんと! ロックさんでは?」

「ラック・ロック・フランゼン大公であるぞ!」

「本当ですか?」


 ドルゴは真剣な表情だ。嘘をつくわけにはいかない。


「はい。そうです」

「なんと! お会いできて光栄です」

「こちらこそ……」

「握手していただいても?」

「もちろんです」

「あとで、サインをいただきたいのですが……」

「かまいませんが……」


 ドルゴもまるでケーテのようなことを言う。


「ケーテ。なぜ教えてくれなかったのだ?」

「……何をであるか?」

「ラックどののお屋敷に滞在していることをだ!」

「ちゃんと報告書に書いたであろう?」

「ロックどのと書いてあったぞ」

「あー。そういえばそうだったかも知れぬ」

「しっかりせぬか!」

「すまぬ、すまぬのだ!」


 ケーテは父ドルゴに謝っていた。

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