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148 ドルゴからの依頼

 ドルゴは真面目な顔で、身を乗り出した。


「ケーテ、……風竜王陛下よりお聞きとは思いますが……」

 ケーテがびくっとした。


「水竜族の集落が昏き者どもに狙われているようです」

「……なんと」


 ドルゴが言うには、今、水竜族には王がいないらしい。

 先代が不慮の事故で亡くなり、後継者はまだ幼い娘が一人だけ。

 王に即位するには、まだまだ時が必要だ。


 だから、庇護者がいないのだという。


「ラック殿、そしてエリック殿とゴラン殿を信頼してお話ししましょう。水竜族の集落はここにあります」


 ドルゴは一点を指さした。

 それはメンディリバル王国の南端。

 巨大な湖と広大な森が広がっている地域だ。

 人はほとんど住んでいない。


「散発的に昏き者どもと水竜との争いが起こっているというのが現状です」

 そんな水竜たちから、地理的に最も近い風竜王に救援が求められたのだという。


「そうだったのであるか……」


 ケーテも初耳と言った顔をしている。

 王だというのに、聞かされていないのだろうか。 

 もしかしたら王というのは形だけで、実権は先王ががっちり握っているのかもしれない。

 ケーテはしっかりしていないので、ドルゴの気持ちもわかる。


 そして、政治から疎外されたケーテは趣味の遺跡保護に熱中しているのだろう。

 そう考えると、ケーテが少し可哀そうになる。

 俺は同情の目でケーテを見た。


 一方、ドルゴは笑顔だが、頬が引きつっていた。


「陛下? ご報告致しましたよね?」

「そ、そうであったか?」

「しっかりしていただきたい」

「すまぬのである」


 ケーテは政治から疎外されていたわけではないらしい。

 本当に、ケーテには、しっかりしてほしいものだ。


「遺跡保護委員会が結成されたばかりだというのに、このようなことをお願いするのは心苦しいのですが……」

「水竜族の集落の防衛に力を貸せばよろしいのですか?」

「厚かましいお願いだとは理解しております」


 俺はエリックを見る。

 こういう重要事項はエリックが決めるべきだ。

 だが、エリックはこっちを見ながらいう。


「委員長。どうされますか?」

「え? あっ。委員長って俺か」

「そうであるぞ。しっかりしてほしいのである」


 ケーテに言われてしまった。

 少し悔しい。


「委員長のラックに任せる」

 エリックがはっきりと言った。


「そうか。ありがとう」

 そして俺はドルゴに言う。


「微力ながら、お手伝いいたします」

「ありがとうございます」

「水竜が生贄にされて、邪神が召喚されてしまえば、人族も無事ではすみませんから」

「そうだな。竜族だけの問題じゃない」


 そういってゴランもうんうんと力強くうなずいている。


「水竜の保護はお手伝いいたしますが……、風竜族は大丈夫なのですか?」

 ドルゴはケーテをちらりと見た。


「確かに、我が娘、風竜王陛下が頼りないという気持ちは、痛いほどわかります」

「い、いえ、そういうわけでは」


 実際のところ、そういうわけなのだが、親の前で認めるわけには行かない。


「風竜族には集落がないのですよ」

「そうなのですか?」

「はい。あえて言えば、我らのテリトリーは空ですから」

「風竜族は世界各地にばらばらでいるのである。家もない奴が多いのであるぞ」

「意外だな」

 竜と言えば、拠点を構えて財宝を蓄えているイメージがある。


「少し前のおれと一緒だな!」

 ホームレスだったミルカが少し嬉しそうだ。


「ミルカは風竜の素質があるかもしれぬのである!」

「へへっ!」

 ミルカは照れていた。


「あれ? でもケーテは宮殿を持っているよな?」

「さすがに王は家を持っていないと困るのであるぞ? 宮殿がないと、風竜族が助けを求めるときに、どこ行けばよいのかわからなくなるのである」

「確かにそうかもしれないな」

「政治の拠点という意味もあるのですけどね……」


 ドルゴが少し遠い目をした。

 それを気にせずケーテが言う。


「風竜はとても速いのである。竜の中でも特別に速いのであるぞ?」

「確かにケーテに乗せてもらったとき、とても速かった」

「あれは我が全力の半分も出していないのである」


 ケーテはどや顔をしている。

 ドルゴの顔色が変わった。


「ケ、ケーテ! ラックさんをその背に乗せたのか!」

「そ、そうだぞ」


 ケーテも少し慌てている。なにかタブーを犯したのだろうか。

 心配になる。


「う、うらやましい……。父も乗せたい」

「こ、今度お願いしますね」

「本当ですか? 約束ですよ?」

「は、はい」

「勇者王陛下も、ゴランどのも、是非乗っていただきたい!」

「はい、是非お願いします」

「こちらこそ、光栄です」


 エリックとゴランは少し驚きながら言う。

 ドルゴが嬉しそうにしているので、今度乗せてもらおうと思う。


 そんなドルゴの様子を気にすることもなくケーテは続ける。


「我が風竜族は逃げ足もとても速いのであるぞ。昏き者どもも、我が一族は、あえては狙うまい」

「なるほど」


 絶対に安全とは言えない。

 だが、風竜族は、今現在は比較的安全と言えるのかもしれない。

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